23話 分岐点・2
「はぁ…ようやく終わったな…」
俺は最後の本を置きながら呟く。
「そんなやり遂げた顔して…ほとんど私が調べたじゃないですか。」
少し疲れた様子でシオンがぼやく。
「いやぁ、ほんとに助かったよ…」
「俺一人じゃそれだけで半月ぐらい無駄にしただろうからな。」
俺達はあれから、読むのに6日まとめるのに1日の計1週間程で全ての情報をまとめきっていた。
予定していたよりかなり早いペースだ。
と言っても彼女のおかげ。
俺とシオンの読んだ比率は、大体俺が3割彼女が7割程だ。
つまり彼女がいなければ、最低でももう一週間は確実にかかっていた事になる。
他にもここに通う時間がもったいないからとこの家に住まわせてもらっていた。
「それで…今からどうします?」
あれからずっと本を読みっぱなしだ、外に出てなまった体を動かすかゆっくり休みたい。
ただ今は少しでも時間が惜しい…
「そうだなぁ…出発の準備は今日中に終わらせたいな。」
「他は…模擬試合でもしてみるか?」
俺の答えに対して手を口に当て少し悩みながら彼女は答える。
「そうですね…これから戦闘になることもあるでしょうし…」
「やりましょうか」
彼女も賛成してくれた。
正直かなり助かる。
「よし…ならどこでやる?」
「1番は冒険者ギルドの訓練施設だが…」
冒険者ギルドは依頼や禁忌の管理の他に、冒険者に必要な身体能力や知識をつけるための育成施設としての顔を持つ。
だから訓練施設何かも持っている。
だが…
「いや、それはやめましょう。」
「あそこは人が多すぎます。」
返ってきた答えはノーだった
「…もしかして人を巻き込む戦闘スタイルだったりするか?」
そう言いつつ。
人を巻き込む可能性があるなら実践でも使いにくそうだな、と俺は勝手に納得する。
「いえ、そう言う魔法もありますが…」
「私のデータは人に知られたくないので…」
違うかったらしい。
勝手に結論を出すのは悪い癖だ…
だが、そう言われればそうだ。
彼女は監視役…あまり表立って行動する訳には行かないだろう。
「あぁ…そう言う…」
「なら何処でやる?」
「ここの地下室でどう?」
「広さはそこそこだけど完全防音で耐久もしっかり魔法で補強してるから模擬戦にはうってつけだと思う。」
「へ?いや地下室もそうだけど魔法ってそんなことできるの?」
いや地下室があるのもびっくりだが、魔法で耐久や防音までできるのはもっとびっくりだ。
「できますよ。」
「と言うかレイさんも身体能力強化の魔法使ってるじゃ無いですか…」
「防音や補強もそれの応用ですよ…」
「なるほど…」
言われてみれば確かにそうだ。
魔法は一般的な物じゃない。
そして今までミラやアリスが魔法を使ってる場面しか見た事が無かったから魔法は属性魔法しかないと思い込んでいた。
もっと頭を柔らかくして周りを見ないとだな。
それを物に応用する事ぐらい、監視役に選ばれるぐらい優秀な彼女にとっては、簡単な事なのかもしれない。
ただ俺のは、ミラから少し特殊と言われたような…
「まぁそんなわけで魔法を応用する事ぐらい私からすれば簡単な事なのです。」
「それで…どうしますか?地下でいいですか?」
まぁ少し不安はあるが監視役に抜擢される程の使い手が進めるぐらいだ。
その性能に問題無いだろう。
「あぁそうしよう。」
俺はその申し出を快諾した。
「それで今からでも大丈夫か?」
さっき作業が終わったばかりで疲れてはいるが、俺は先に模擬戦を終わらせたい。
なぜなら、お互いの戦闘スタイルによって準備しておくアイテムが変わる可能性があるからだ。
「今から…」
「それでいいですよ…着いてきてください。」
彼女は少し悩んだがそう答えた。
それにしても、最初と比べてかなり接しやすくなった気がする。
最初は警戒されているのかあまり面と向かって会話をしてくれなかった。
ただ今は、ある程度会話できるようになっている。
監視役と監視対象と言う立場上、仲良くなる事は無いが信頼関係は築いておいて損は無いだろう。
「あぁ、頼む。」
それを聞いてシオンは、振り返るとそこへ案内してくれた。
――――――――――――――――――
「すごいな…」
思わずそんな言葉がこぼれる。
あれから俺はこの家の彼女が使っている寝室の床下からその空間に案内された。
それから仄暗い階段を降りパチッと言う音と共に一気に視界が開けた。
地下室は人間のレベルで戦闘をするなら充分過ぎるほど広かった。
しかも入口から右手側の壁には、杖や刀、弓などのあらゆる木製の武器が2本ずつ。
左手側には小瓶に入った薬類が完備されている。
「そこそこお金をかけましたからね。」
「広いだけじゃなくて障害物の配置や、環境の再現なんかもできますよ。」
「なるほどな…便利だな。」
使っていない別荘にここまで、しっかりした設備を作っているのは素直に尊敬する。
ただそう答えた彼女は少し寂しそうに見えた。
何か事情がありそうだ。
「それで…今回はどうします?」
「私はこのまま平坦な状況で大丈夫ですが…好きな環境があるならできるだけ合わせますよ。」
彼女はそう言いながら武器が掛けられたかべから杖を手にする。
「いや俺も大丈夫だが…」
「シオンこそこのままで大丈夫なのか?」
魔法使いというのは本来単体で戦うタイプでは無い。
理由は全力で魔法を使う場合詠唱をする必要があるからだ。
だから単体の開けた場所での戦闘は向かない。
だが彼女は…
「私なら大丈夫です。」
「この中なら1番性能が高いのは杖ですから…」
「あ、武器はこの中から選んでくださいね。」
なんの迷いもなくそう答える。
確かに武器という面では有利かもしれない。
ほかの武器は木製だが杖だけは魔力を増幅させる特性上魔力を帯びた石が埋め込まれているからだ
ただそれでも、不利な条件であることは変わらない。
つまり彼女は余っ程自信があるという事だ。
そんなことを考えつつ俺は武器を選ぶ。
槍に大剣、双剣や刀…
本当に色々ある。
「これは…」
その中に1つロングナイフと言うには小さめの木製ナイフがあった。
愛用しているナイフにそっくりだ。
思わずそれを手に取る。
「良いな…」
そのナイフは良く手に馴染んだ。
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