第22.5話 魔族会議

黒く淀んだ空。

浮かぶ深紅の満月。

赤い光が差し込む城の一室に円卓を囲む重々しい雰囲気の4人の魔族がいた。


「それじゃぁ…始めようか…」

「四天王会議を…!」


そう言い放ったのは純白の髪を持つ少女イアだった。


「そうですね…先ずは私から…」

それに応えたのは瞳を閉じ、妖艶な雰囲気を纏う黒い衣に身を包んだ女性だった。

彼女は主に魔法や生体などあらゆるジャンルの研究を任されている。


そんな彼女からの情報は…


「イアさんの助言通りにクローンの研究を進めた結果…」

「魔族の魔石化…そして魔物の生物化まで辿り着きました。」


「なるほど…」

「流石だねマリア…正直もっとかかると思ってたよ。」


マリアと呼ばれたその女性は続けて答える。

「そして最後にもう1つ…禁忌の魔法の手がかりも見つけました。」



それを聞いてイアは満足そうに答える。

「うん…完璧だね。」

「これ以上無いほど順調なんじゃない?」


「そうですね…怖いぐらいに順調です。」


「うんうん、これからもよろしくね!」

思わず口角が上がってしまう。

(正直ここまで上手くいくとは思わなかった。)

(これなら本当に…)


「次に俺から良いか?」

口を開いたのは大柄ないかにも戦士と言った風貌の筋肉質の魔族だった。


彼は見た目にたがわず魔族を束ねる戦士だ。

魔族以外にも魔物のまとめ役でもある。


「うん、良いよアレス」


「下の連中についてだがそろそろ俺の支配からも外れてきている。」

「魔族はまだ何とか押さえつけられるが魔物に関してはもう無理だ…」

「マリアの研究が順調なのは良いがこっちは思ったより状況が悪い。」

アレスと呼ばれた魔族は悔しそうに答え拳を握りしめた。


「なるほどね…」

「数ヶ月にある予定だった侵攻…」

「もしかすると来月にはもう始まるかもしれないね…」


「あぁ…最悪そうなる。」

「俺も全力は尽くすがあまり期待しないでくれ。」


それを聞いたイアの顔が険しくなる。

(やっぱり完全に上手くはいかないか…)

「まぁ…最悪私が出る。」


「良いのイアちゃん?」

「君が出るのは流石にまずいんじゃな〜い?」


そう横から入ってくるのはザイン

彼は私と同じ勇者の偵察役。

偵察役を任されるだけあって個の強さとしては私を除いた四天王の中では1番強い。


「最悪の話しよ。」

「もしあの子らが死ぬ様になればって話し。」


その言葉に彼は仕事の時と違いおちゃらけた様子で話す。


「まぁ、そうならないように頑張りましょー」

ザインはニヤニヤしながら答える。


「それで…あんたは何か収穫あんの?」


「そりゃ〜もちろん!」

「あのリオって少年とその仲間について…」

「彼は勇者としての道をしっかり歩んでいるね」

「仲間の方だけど…正直侵攻の日までに誰が死んでもおかしくは無い感じかな?」


「なるほどね…」

勇者について行くには実力不足…


(まぁここに関しては予想通りか。)


「それでイアさんはどんな収穫が?」

すました顔でマリアが尋ねてくる。

ただ少し楽しそうだ。


「私?私はね〜」

「あのダンジョンの事ぐらいかな〜」


私の言葉に対しザインが勢いよく立ち上がり机を叩きつける。

彼にしては珍しく取り乱しているようだ。

「あのダンジョンに行ったのか?!」


「ちょっとは落ち着きなよ…」


「おっと…これは失礼。」


「別に仕事モードにならなくてもいいから…」


「まぁまぁ…ザインさんの気持ちも分かりますよ?」

「あそこには勇者の装備がありますから…」


「そうだな…俺達では近づこうとすら思わないからな……」


「そうだね…それに関しては私は特別だから…」


本来魔族は勇者の装備が封印されている場所には近づけない…

理由は簡単破邪の結界がかかっているからだ。

それも特別強力なやつが。


もしそこら辺の魔族なら入った途端体が消し飛んでしまうだろう。

例えかなりの力を持つ魔族なら入れはしてもその実力はほとんど発揮できない。


「まぁそれで結界の内容に関してなんだけど…」

「あれの解除私にも無理だね、結界を張ったのは人間か疑うレベルだよ。」


「ただザインの部下は入れたのだろう?」

アレスの顔には疑問符が浮かんでいる。


無理もない四天王の中でもぶっちぎりで強い上特別な私が解除不可能…


それだけ頑丈で強力な結界に四天王にすらなれないレベルの魔族が入れたのだ、本来ならありえない事だ。


「確かにあの子は入れていましたね…」

「残念ながら死んでしまいましたが。」


そう言う彼の顔からは、部下との付き合いが長かった事が読み取れる。


「そうだね…本来なら有り得ない事なんだけど多分そう言う『運命』だったんだと思う。」


「…嫌な言葉だな。」

アレスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


運命…

それは変えられないこの世の結末


「そうだね、でも今回は大丈夫。」

「もう繰り返させない…」

「そうでしょ?」


その言葉に全員が強く頷く。


「あぁ、後無いとは思うけどあの結界…私の実力を半分ぐらいまでに抑えられてたから絶対に近づかないようにね。」


一応釘を刺しておく。

まぁ今のを聞いてる限りザイン以外は忙しくてそれどころじゃなさそうだけど。


「わかった?」

そう言いながらザインに視線を飛ばす。


「もちろんですよ?」


とは言いながら目が泳いでるんだけどね…


この様子だと行きかねないなぁ…

(最悪私が止めるか…)


「イアさん大体はこんな感じですか?」


「そうね、こんな所かしらね…」

「最後に何か言っておくことはある?」

その質問に全員が首を横に振る。


「わかった…なら私から一つだけ」

「どんな事でも命の危険を少しでも感じたら逃げるように!」

「以上!」

「それでは…魔族会議閉会!」


こうして魔族会議という四天王同士の情報交換は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る