第22話 監視役
「お待たせしました。」
「こちらがこの国の土地に関する資料です。」
しばらく考えをめぐらせていると目の前に歴史書から旅行誌っぽいものまで幅広いジャンルの本が大量に積まれた。
「多いな…」
「そうですね、魔族との対立が始まったとされる年から今までの数千年間の歴史ですから…」
勇者についての情報が禁忌に指定されたと聞いた時から予想はしていたがこの量は流石にしんどい気がする。
「他になにか必要な物はありませんか?」
「いや…特に無いな。」
「わかりました。それでは監視役の子を呼んできますね。」
「あぁ、そうだったな頼む。」
勇者の装備関連を調べる時は必ず同行する契約だ。
それは室内で本を調べる時も例外じゃない。
しかもその同行者はできるだけ円滑に事が進むようにするため毎回ギルド通いは当たり前。
それ以外にも俺が無断で調べていないかも調べるために不定期に監視もしているだろう。
魔族対抗の唯一の希望である勇者の為とはいえ、良くそんな仕事を引き受けられるもんだ…
「お待たせしました」
しばらくするとライラさんは一人の少女と共に姿を表した。
身長は153cm程
黒髪で線の細い体、そして美しい黒色の瞳…幼い印象を受ける
おそらく魔法使いだろう。
「この方が監視役のシオンさんです。」
「どうもシオンです…」
その少女はぺこりとお辞儀をする。
大人しくて礼儀正しい。
それよりもこの子は…
「俺はレイよろしく…って多分朝の子だよね?」
「朝?…あぁ、ぶつかった方ですか。」
「あの時の人でしたか…」
やっぱりこの子は今朝ぶつかった子だ。
そこまで思いふと違和感を感じる。
(あの時ぶつかった時の感触…もっと重たかった気がする…)
(まるで岩にでもぶつかったような…)
(何より…)
そこまで考えた所でライラさんに話しかけられる。
「あら?もうお知り合いでしたか?」
「まぁ…知り合いってほどでは無いけど…」
今朝ぶつかっただけの関係。
知り合いでは無い。
「そうですか…まぁこれから一緒にいることが多くなると思うので仲良くしてくださいね」
「あぁ…これからよろしくシオン」
そう言いながら俺は手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いします」
彼女はその手を軽く握り返しながらそう言った。
しかし俺はまだ何も知らなかった
このシオンと言う子の出会いが運命を変える出会いだということを…
―――――――――――――――――――――
「まさかシオンの家がこんなに広いとはな…」
「家と言っても使っていない別荘の1つですけどね…」
「ここしか広い場所がなくて残念です。」
あれから俺達は街から少し離れたシオンの別荘に来ていた。
ここに来るとことになった経緯はこうだ。
まずあれから俺達は貰った資料の整理をする事になった。
だが1つ問題があった。
それは余りにも多すぎて場所が無いということだ。
国の図書館にでも行けば良かったのだろうが冒険者ギルドのそこそこ広いカウンターを埋め尽くす程の量の本を持って人混みを進むのは正直しんどい。
そしてなにかいい案は無いかシオンに相談すると今日は始勇祭…
そもそも図書館は臨時休業だったらしい。
シオンに相談しなければ後悔するところだった…
それで出てきた答えが彼女の使っていない別荘だと言うことだった。
「それにしてもかなり広いな。」
「お金はそれなりに持っているのでこれぐらいならまだありますよ。」
そして案内された場所は子供が走り回れるぐらい広かった。
自分が借りている宿の6倍程の広さがある。
いいなぁ…
「それじゃぁ、早速調べていきましょうか…」
彼女はすました顔でそう言いながら魔族がでた辺りの地理史を一冊手にする。
「そうだな…」
なんと言うか…
彼女は冷たい。
いや、まぁ監視対象と仲良くなって懐柔されないようにする為なんだろうけどそれでも少し居心地が悪い。
つまり出会い方が最悪過ぎた、俺としては背中を任せられるぐらいには関係を築いて起きたいが、そう簡単には行かなさそうだ…
「これは歴史書か…」
俺はその本を手に取る。
タイトルは『魔族と人間』どうやら魔族との戦争の歴史をまとめた本らしい。
俺はそれを黙々と読み進める。
ページ1枚…また1枚ゆっくりとめくり読み進めていく。
それからしばらく経ちようやく読み終わる。
「内容は…まぁ目新しい情報は無いか…」
内容は子供でも知っているような内容。
数千年前魔族が人間に戦争をしかけた時、神々に協力を仰いだ人間はその中から神から力とその血を分け与えられた勇者が誕生した。
そして、勇者はその力で魔王を討伐し新しい魔王が現れる度に勇者の子孫が討伐しているという物だ。
誰でも知っているような常識。
ただ少し詳しく書かれていた部分もあった。
それは初代勇者が通ったと言われている道だ。
それが大まかな日付とともに記載されていた
「ただ…この部分作り話感がすごいな…」
それは本来ありえない道筋だった。
余りにもかかったとされる時間が短いのだ。
その上、今の地図には無い陸地が書かれていた。
昔はあったのかもしれないが今は無い土地。
それが何かを調べればわかることがあるかもしれないので覚えてといた方がいいのは確かだ。
ただ時間の時点で有り得ない…
あまり期待はしない方がいいだろう。
「次いくか…」
そう思い次の本に手を出した時だった。
「あれ?」
俺は残りの本が異様に少なくなっていることに気がついた。
思わずシオンの方を見る。
彼女のそばには既にそこそこの数の本が積み重ねられていた。
「シオンさん…早くない?」
「ん…何か言った?」
「いや読むの早いな〜って…ちゃんと読んでる?」
その問いに面倒くさそうに彼女は答える
「あぁ…全部は読んでないです…」
「流し目で単語だけ拾って必要そうなぺージだけ読み返してます。」
「なるほど…」
確かに情報を探すだけならそれが早いかもしれない。
ただ普段から本を読んでいないと抜けが出てきてしまうだろう。
ただ彼女は魔法使い。
魔法の勉強、研究には文字を読むのは当たり前。
俺なんかとは読書量が根本的に異なるという事だ。
「流石だな…」
彼女のおかげで思ったより早くこの作業は終わりそうだ。
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