第6話
朝日の光でミサキは目を覚ました。身体を伸ばし黒いローブを羽織るとベッドにしていた木から降りるとアカはすでに目を覚ましていた。
「おはようございます。アカ様」
逆さまになっていたアカは返事をしながら、飛び上がり地足をつけた。
「ここから動かずに、我の位置を確認し常に回復魔法をかけておれ」
毎朝同じ指令が出されるのでミサキは驚くことなく「はい」と返事をした。
回復魔法はユキノの件があってからかなり上達した。
ミサキはアカの見えなくなると魔力探知で彼女の居場所を確定した。両手を広げて黒い魔力の塊をだすと彼女のいる位置まで飛ばした。
回復魔法を連続でかけ続けることで、常にアカは回復し無敵状態になる。
長時間、回復し続けるのはかなりきつく、魔力探知もアカを探すことしかできなくなる。最初は周囲の様子が分からなくなり不安であったがアカがアリ一匹ミサキに近づけなかったので今は不安をない。
回復魔法開始から数十分経つと立っているのが辛くなりその場に座り込んだが魔法の精度は落とさなかった。
「はぁ、ふぅ」
一時間を超えると魔力探知が途切れ途切れになり、アカの場所が曖昧になった。
――マズい。
回復魔法を止めて、魔力探知を行い、顔を青くした。
「あ……」
アカはミサキから数メートルの所にいた。彼女は担いできたオオカミの魔物を地面に投げ捨てるとミサキに背を向けた。
「え……まさか」
ミサキはアカの他に大きな魔力を感じていた。それがアカの前に現れた。
アカの数十倍ある蛇の魔物だ。長い舌をシュルシュルと出して、アカを狙っていた。
「ミサキ魔法」
大きな声で叫ばれ、ミサキは両手をアカに向けて回復魔法を発動しようとしたが魔力の塊が手から出てこなかった。
少し悩んでから魔力探知を解除して再度手に力を込めると魔力の塊が出てきた。ミサキはほっとしてそれをアカに投げた。
「よし」
アカはつぶやくと、拳をにぎり飛び上がると魔物の頭部に乗り、何十発と連続で殴った。魔物は頭部を殴られ、ふらふらに揺れ始めた。
アカは腕を後ろに引き力を込めると、全力で魔物の頭部を殴りつけた。その衝撃で、魔物は地面に顔をつけた。アカは首を左右にふりながら魔物から降りてきた。
そのカッコよさにミサキは目を輝かせた。
その時……。
「わぁ……」
背後でうなり声が聞こえたと思うと、オオカミ型の魔物が飛び出していきた。逃げようとしたが立ち上がれず、恐怖で目を閉じた。
一向に噛まれる痛みがないためミサキは恐る恐る目を開けた。すると、目の前にアカがおり彼女の手に魔物が噛みついていた。
ミサキは青ざめて、回復魔法を掛けようとしたが手に力が入らなかった。
「戯け」アカは鼻で笑った。「これくらい平気だ」
そう言うと、腕に噛みついていた魔物を殴りつけた。その勢いで、魔物の頭部が破壊されて血が噴き出た。頭がなくなった魔物はどさりと地面に落ちた。
「カ、アカ様」
真っ赤に染まったアカはニヤリと笑ってミサキを見た。
「申し訳ございません」ミサキはアカの傷を治そうと、手を広げたが魔力の塊は出てこなかった。「そ、そんな」
泣きそうになっているミサキにアカは「平気だ」と言って歩み始めた。ミサキは彼女の心配をしながらも後を追った。
街に着くと、勇者であるため歓迎された。
「赤の勇者様ようこそおいでくださいました」村長だと名乗った男が頭を下げて現れた。「その血は魔物でしょうか?すぐに宿屋を用意致します」
そう言って、案内されたのは街で一番いい宿屋の最古級の部屋であった。
アカは街中の宿屋の空いている部屋を全て予約した。勿論泊まるわけではないため宿屋は他の客を泊めて二重に金をとっていた。
不思議な制度だとミサキは感じた。
宿屋に着くとすぐにアカにもとへ行ったが身なりを整えろと言われたため自室の洗浄室を使い着替えた。
血がべっとりとついていた黒いローブも洗浄室にいれたらすぐに綺麗になったが、アカの部屋へ行くだけであるため部屋に置いていった。
「ミサキ、ローブはどうした」アカの顔を見た途端に注意された。「アレは、就寝以外は外すな」
ミサキは慌てて部屋に戻ると黒いローブを羽織り、アカの元へ戻った。
アカの腕には包帯が巻かれて、血が滲み出ていた。
「アカ様、申し訳ございません。手当てをします」
ミサキは両手を広げると、アカに傷にかざした。すると魔力が回復していたためすぐに魔力の塊がでてアカの傷口に入っていった。
「失礼いたします」ミサキは、アカの包帯をそっと外した。そこには傷がなく以前通りの綺麗な手でミサキは安心した。
その時、部屋の扉を叩く音がした。返事をすると店主が現れて何やら話始めた。アカは口角を上げて頷いて聞いていた。
長い話が終わると店主は大量の馳走を給仕に並べさせると頭を下げて去って行った。テーブルの上の美味しそうな料理を見るとミサキの腹は音をたてた。
アカはクスリと笑うと「一緒に食べようか」と食事を進めた。ミサキは礼を言うと大量に食べたはずであったが、まだ料理は残っていた。
「もういいのか?」と言うアカにミサキは頷くと、残りを全て彼女は完食した。
食べ終わり少し経つと、宿屋の人間が現れて全てを片付けていった。
部屋にアカとミサキにだけになると「もう休め」と言われた。
太陽が沈みかけていたが就寝の時間には早いような気がした。それを伝えると「休める時に休め」と言われ自室に戻った。
ベッドに横になると今日の事を思い出した。すると、悔しさが込み上げてきた。
全てはミサキの実力不足が招いた結果だ。それなのにアカはミサキを責めることはなかった。
アカの年齢を聞いたことはないが、ミサキよりも遥に幼い。そんな彼女の負担になり負い目を感じた。
「寝ている場合じゃないわ」ミサキは頷くと、魔力探知を展開した。「これは常に展開しているべきだよね。その上で回復魔法を使えないと……」
ミサキはアカの場所を確認すると、森の時のように魔力探知の範囲を狭めなかった。アカに魔力感知を固定しないと動いている彼女に回復魔法をかけるのは困難であった。固定すると周囲に状況がわからなくなる。
ミサキは魔力探知の範囲を街全体に設定して、魔力の塊を出しアカに投げた。投げ続けると辛くなってきた。
そこで、一度魔力の塊を出すのをやめた。
――続けた結果、魔力切れになった。
ミサキは額に手を考え込んだ。手のひらに魔力の塊を出すとそれをじっと見て考え込んだ。
「投げると消費すんのよね」
うなりながら考えること一時間。ミサキは投げずに魔力をアカの中に固定する方法を考えていた。
その時、隣の部屋にいるアカに動きがあった。
「え……」目を大きくて、顔を青くした。
――アカ様が消えた。
アカは瞬歩を使いミサキの魔力探知の範囲から出た。魔力探知の範囲は街に全体に設定しているためミサキは焦った。
少し前に、青の勇者に捨てられたパートナーの姿を思い出した。
――そんな……。
今日の失態を考えれば、捨てられるのは当然であった。
回復しか能がないのに、怪我をしたアカを即座に回復する事ができなかった。そもそも、魔力探知を解除せざる状況になり魔物に気づかなかった事がアカの怪我原因だ。
ミサキは自己嫌悪に陥った。
――捨てられたの……?
信じられなくて、ゆっくりと立ち上がると部屋を出て、アカの部屋の前に立ち小さくため息をついた。
青の勇者のパートナーの辛さを理解出来た。彼は罵倒されても勇者を追ったが、ミサキは戸惑いがあった。追って、否定されたら生きては行けない。
ミサキの人生は全て勇者と共に魔王討伐に行くであった。それ以外の事を考えた事はない。
――部屋に入り荷物がなかったら……。
何度もため息をついて何度も扉のノブを触ろうとして手を引いた。
どのくらいの時間そこにいたが分からないが、窓の外は真っ暗になり星が輝いていた。
「何をしておる」
突然、背後から声を掛けられ振り向くとアカがいた。驚きの余り、心臓が口から飛び出るかと思った。
――あれ?
ミサキは魔力探知を展開していたはずであるのにアカが近づいたことに気づくことが出来なかった。今も彼女の魔力をとらえることができない。
――なんで?
街に人間の魔力は感じるのにアカだけは分からなかった。
彼女の顔を見て不安でいっぱいになり言葉がでなかった。
「ミサキ」少し強めの声でアカに名前を呼ばれた。
「……はい」
返事をするのが精一杯だった。アカに手を引かれ彼女の部屋に入った。
部屋の中は昼間に入った時と変わり映えはなかった。ミサキは入口に立ち止まると下を向いた。
「あの、申し訳ございません」膝に額がつくほど、深く頭を下げた。「わ、私これから努力しますから……」
「うん?」
アカはソファに腰掛けると首を傾げ、ミサキに向かって手招きをした。ミサキは小さく返事をすると、アカの足元に膝づいた。すると顎に触れられ顔をあげられた。
「アカ様」
ミサキは赤の腕からの出血を見て驚きさっきませあった不安が吹き飛んだ。
「血が……」
「あぁ」アカは自分の腕を見て頷いた。「平気だ」
「そんな訳ありません」
傷からは黒い靄が出ていた。それが魔力であることがミサキはすぐに理解してた。
「アカ様、何に噛まれたのですか?」
「魔物だ」
――こんな魔物がいるなんて。
ミサキは「失礼します」と言いアカの手を取ると手から黒い魔力を出し傷に入れた。いつもの魔物から負った傷だったらすぐに消えるはずだがこの傷は消えなかった。
「回復魔法が効かない」
ミサキは焦り、何度も黒い魔力をいれた。次第にミサキは頭の靄が掛かったようになった。そして、視界がぼやけた。
「ミサキ、もうやめろ」
アカの声が遠くの方で聞こえたが、ミサキは回復魔法を止めなかった。
気づくと、ベッドの上で寝ていた。隣には勇者仮面を外し、目をはらしたアカがいた。
――アカ様の魔力がある。
ミサキは安堵すると、アカの髪に触れた。寝ているアカは幼くミサキは妹を思い出した。
真夜中、自分を呼ぶ声が聞こえた。眠い目をこすりながら、窓の外を見ると妹がいた。
「どうしたの?」
驚いて聞くと、妹は目にたくさんの涙を浮かべて「寂しい」と言いながら部屋に入ってきた。
彼女は小さな声で「……勇者様のパートナーになりたくない」とつぶやいた。見れば全身痣であった。
勇者のパートナーとしての修行の厳しさを物語っていた。
彼女を抱きしめると一緒にベッドに入り、彼女が寝るまで子守歌をうたった。
こんな事しかできない自分が情けなく思ったがどうしようもないことであった。
翌日、妹の師が迎えに来て彼女は涙ながらに師の家に向かった。その日の夜も妹が部屋にきた。
夜中に部屋を訪れて一緒に寝ることで彼女の負担が減るならいいと思っていた。
ある日、両親にそれを注意された。その日の夜から窓に鍵をかけカーテンを閉めて寝るように言われた。
夜、窓を叩く音がしたが布団をかぶり聞こえないふりをした。心が痛かったが両親の言いつけであったため必死に耐えた。
それが何日も続いた。
余りに辛かったので両親に相談すると「勇者様のパートナーとしての務め」と言われた。
しばらくすると、窓を叩く音がなくなった。妹が修行の生活に慣れたのだと安心していると、両親の様子がおかしかった。
突然部屋に入ってきて顔を見るなり「ミサキ」と妹の名前を呼んだ。それを否定したが、両親は嬉しそうに何度も「ミサキ」と呼びミサキの師の家に連れていかれた。
師は「妹には劣るが、魔力数値的にはパートナーとして勤められるだろう」と言うと両親は大喜びした。状況把握が出来なくて、何度も『ミサキ』の居場所を聞いたがミサキは自分だと言われた。
『ミサキ』になってから、本当のミサキには会っていない。
窓を開けなかったことを後悔しない日はなかった。だからこそ、がむしゃらに『ミサキ』をやった。彼女を見捨てた戒めだと思えば勇者のパートナーの修行は辛くはなかった。
ミサキはアカを妹と重ねた。
――今度は見捨てない。
ミサキはアカを抱きしめた。
「うぅ……」
アカは目をこすりながら、ミサキを見た。
「ミサキ」アカは大きな声で名前を呼んだ。「何をしている」
「え……?」
大きな赤い目で見つめられて、ミサキは心臓を大きく動かした。
「魔力を使い切るなどバカか」アカの声は震えていた。「魔導士の魔力切れは死を招くことがあるのだぞ」
「死って……」ミサキは眉を下げた。「意識を失うくらいですよ」
「目を覚まさないこともあるんだ」
アカの赤い瞳からポロリと涙がこぼれた。
「私はアカ様のためでしたら、この命差し上げますよ」
優しく微笑むミサキの笑顔を見ると、アカは心が痛んだ。
魔王討伐に勇者の命が必要だと知ってから、アカは優秀な勇者に魔王討伐をさせて終わった頃魔王城に向かうつもりであった。
死ぬのが怖かった。
そんな自分に命をささげるというミサキがアカには眩しすぎた。
「我にそんな価値はない」
「私はアカ様が大好きです。だから、一緒に頑張りたいです」
――大好き。
彼女の言葉がアカの胸を熱くした。
競い合い、罵り合い、期待されてきたアカには無縁の言葉であり感情であった。
ミサキと共になら『勇者』を最後までまっとうしてもいいかと思った。
「ミサキ、これから厳しい旅になる」
「これからも努力します」ミサキは眉を下げた。「本日の戦闘では失態を犯し申し訳ありませんでした」
「失態……?」アカは首を傾げた。「そんなものはない。我はミサキを信頼している」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
そう言うと、ミサキに抱きしめられた。自分よりも頭一つ以上大きいミサキは安心感があった。
『勇者』を最後までやりとげたいと思ったが彼女は殺人者にしたくなかった。
――やはり、青の勇者に魔王討伐をやってもらうのが一番いいな。
非道な考えであるが、アカにとって自分とミサキが大切であった。
翌日、目を覚ますと腕の中に熟睡したアカがいた。寝ていている彼女の顔はやはり幼く妹の面影があった。
――可愛い。
アカの黒い髪に触れると、彼女の目があいた。
「はやいな」と言う彼女は照れたように笑った。「うん?何かしたか?」
アカは眉を寄せ自分の体をじっと見た。
「え……?」
アカの言っている意味が分からず、ポカンとしていると彼女は起き上がりベッドから降りると、首や手など体を軽く動かした。それから、宙返りやバク転などをしていた。
「身体が軽い」
アカのその言葉にミサキはしばらく考えた後、夜中に魔力で包んだことを思い出した。それを伝えるとアカは頷いた。
「ミサキの魔力には他者を癒す力な」
「では、これはずっと一緒に寝ましょう」
ミサキはアカの役に立てることが嬉しかった。
アカは少し顔を赤くして頷いた。
ミサキはゆっくりとベッドに座るアカに近づき膝をついた。そして、笑顔で手を広げた。
アカは少し迷った顔をしたがミサキの腕の中に入ってきた。
「これからもよろしく頼む」
「はい」
ミサキは元気よく返事をするとアカを抱きしめた。
宿屋で朝食を取り、街の人間に盛大に送られると街を出た。『勇者』として街や村に出入りをする度に盛大に歓迎される。ミサキはそれが恥ずかしくて慣れなかったがアカは平然としていた。
街を出てしばらくすると、ミサキは魔力を感じ足を止めた。
「アカ様」
「うん?」真横を歩いていたアカが首を傾げて停止した。
「多分ですが、勇者様が近くにおられます」
「そうか。どこの勇者だ?」
「えっと」ミサキは勇者の魔力を感じた方に集中したが、アカと同じ量の魔力だから『勇者』だろうというところまでしか分からなかった。「申し訳ございません。そこまでは……」
「そうか」
「待ってください。勇者様らしき方の側に誰もおりませんのでもしかしたら……」
「青の勇者か」
アカは頷きながら、今朝の可愛らしいアカを思い出すと顔がニヤケそうになった。
――勇者様やっている時の違いが……。
「ミサキ、何を考えておる」
アカに睨まれてミサキを小さく顔をふった。それを見て、彼女はすこし口角を上げた。
以前はアカの前で緊張することが多かったが今は違った。彼女の側にいることが心地良かった。
「そのお方は移動しませんが休憩しているのでしょうか?」
「行ってみるか」
「はい」
しばらく森の中を歩くと人影見えてきた。ミサキはそれに近づくと目を大きくした。
「アカ様」
ミサキは地面に横たわる青の勇者を見つけアカを呼んだ。アカは近くに来ると「回復しとけ」と言ったので回復魔法を掛けた。
――あれ、この方……。
「アカ様」ミサキは少し離れた所で座りくつろいでいるアカを呼び掛けた。「特に回復の必要がありません」
その言葉を聞くとアカは立ち上がり、側にきた。
「起こすか」
アカは拳を握ると青の勇者の頬に向かって降ろした。すると、青の勇者は目を開けて拳を掴んだ。
「乱暴ですね」
青の勇者は頭に触れながらゆっくり起き上がった。
「おはようございます」と言った青の勇者のサラサラの金色の髪が揺れた。手足が長く、勇者仮面で顔が半分隠れていても整った顔立ちをしていることが想像できた。
――これがユキノの弟の勇者様。
「赤の勇者とそのパートナーですか」形の良い口がゆっくりと動いた。
威圧的な話し方をするアカとは対照的に青の勇者の言葉は丁寧で優しかった。
ミサキは慌てて黒いフードに手を掛けて取ろうとすると、青の勇者は手でそれを静止した。
「そういう形式的な挨拶はいりませんから」。
ゆっくりと呼吸をし、あたりを見回すと優しく微笑んだ。
「もしかして、助けてくれたのですか。ありがとうございます」
礼をいうその姿は完全に絵本に出てくる王子様のようであった。
「助けておらん。主が転がっているのを見つけただけだ」
キラキラした雰囲気は打ち消すようにアカが口を開いた。
「そうですが。そうだ」青の勇者は思い出したように両手を合わせた。「魔王城には入ったのですが、行きつけませんでした」
「独りか?」アカは鼻で笑った。「自殺願望があるのか」
アカの言葉に青の勇者は乾いた笑いをした。
「まぁ、良い。歩けるならついてこい」
「勇者の休憩所に行くのですか?」
「あぁ」
アカが進むと青の勇者がその後を追った。二人が並ぶとまるで大人と子どもくらいの身長差があった。
アカが目の前を通りすぎるとミサキはすぐに彼女後を追った。すると、真横に青の勇者が来た。
「赤の勇者のパートナーですか」青の勇者は足を動かしながらミサキの方を見た。
アカの近くにいた彼は巨人のように高く感じたが、側にくるとそこまではなかった。
――アカ様が小さいから。
「ミサキ」前を歩いていたアカが足を止めると勢いよく振り返った。「我は成長期である。十年もすればミサキを超えであろう」
「身長の事を考えているとバレましたか……」
ミサキが肩をすくめるとアカは「当たり前だ」と強く言った。
「さきほどから我とコヤツの頭ばかりみて」アカは青の勇者をさした。「しかも、コヤツに見惚れておったろう」
「いえ、勇者様に対して……そんな」
ミサキは慌てて両手を振った。
「赤の勇者のパートナーは、僕みたいなのか好みなのですか」
微笑まれながら優しい言葉で言われると、ミサキの心臓が高鳴った。幼い頃から女性の師と生活をしているため男性への免疫がなかった。
「ミサキ」アカがため息をついた。「ソイツは見てくれはいいが、性格に難ありだ」
「ひどい言われようですね」
アカは背を向けて歩き始めると、アオもそれについて行った。ミサキはそんな二人の後ろを歩いた。
「出発当日、パートナーを振る勇者は前代未聞だ」
背を向けたまま、アカ言った。
この事はミサキも気になっていた。心配になりカナタの見舞いに行った。
その時、彼の姉のユキノにあってしまった。
いつか別れる村人と馴れ合いたくなかったため彼女にもいつもと同じ対応をしてしまい、傷心の人に対して申し訳ないことをしたと反省している。
今、青の勇者にパートナーと旅に出なかった理由が聞けるならとミサキは期待した。
しかし……。
青の勇者は黙り、気まずい空気が流れた。が二人の足のペースは変わらなかった。
しばらく行くと、丸太でてきた家が見えてきた。
近づくと、家の扉が開いて黒いローブが現れた。ローブからは波うった茶色く長い髪がはみ出していた。
「……勇者様のパートナーですか」
ミサキは小さな声で言うとアカから肯定する返事が返ってきた。
「ここは勇者の魔王城に向かう前に準備をする場所だ」アカは家の前にいる人物を指さした。「アレは緑の勇者のパートナーだ」
緑の勇者のパートナーはこちらに気づくと、手を振って近づいてきた。
「お初にお目にかかります」と軽い口調で挨拶をした。その後、緑の勇者のパートナーは黒いフードを外した。中から、緑の瞳に茶色いウェーブの髪をした軽薄そうな男出てきた。
「あ……」
一瞬、唖然としてしまった。しかし、すぐに気づき黒フードを取ると「始めまして。赤の勇者様のパートナーです」と頭を下げた。
「うぁ、可愛いねぇ」
緑の勇者のパートナーが微笑み近づこうとすると、アカは素早くミサキの側に来ると飛び上がり黒いフードをかぶされた。
「え……、なんですか?」ミサキは黒いフードを持つとアカを見た。「勇者関係にあったらフードを取るのですよね。間違っていましたか?」
怖い雰囲気を出すアカにミサキは不安になった。
「人のパートナーに軽々しく声を掛ける奴は信用ならん」アカは緑の勇者のパートナーは見ながら言った。
アカは怒っているようであったが、青の勇者は穏やかに微笑んで傍観していた。
「そんな、寂しいなぁ」緑の勇者のパートナーはアカの横を通り、ミサキに近づくとフードを取った。「素敵な色の髪だね。赤い瞳に合うね」
彼に髪を触られ、全身に寒気が走った。
対応に困っていると……。
「無礼な」
アカは飛び上がり、彼の頬に蹴りをいれた。その衝撃で彼は地面に顔をつけた。アカは彼の顔の上に着地した。
ミサキはそれあ然として見ていた。
「勇者様のパートナーですよね。なんで、こんな……」
「そんなもんですよ」黙って見ていた青の勇者が口を開いた。「勇者に敬意を示すことを教えられますが従わなくても勇者村から罰はありません」
ミサキは目を大きくて青の勇者を見た。彼は相変わらず穏やかに笑っていた。
「勇者が許せばいいのですよ。許されないとああなります」青の勇者はアカの方を指さした。
緑の勇者のパートナーは、アカに顔を踏み潰されて鼻血を出して顔面を地面に擦り付けていた。
しかし、彼はその状態でニヤニヤと笑っていたのでミサキは「ひっ……」と悲鳴をあげ顔を青くした。
「不快な方ですね」青の勇者は笑ったまま言うと彼は家に向かって歩き始めた。
アカその様子を見て彼にとって笑顔は無表情と同じなのだと思った。すると、最初のあった胸の高鳴りは消えた。
「アカ様」
青の勇者が家に入るのを見届けるとアカの側により声をかけた。彼女は、転がっている緑の勇者のパートナーを蹴りつけていた。
ミサキは膝をついてアカの顔を見ると、彼女は足を止めた。
「ミサキ」優しい言葉と共に、頬に触れられた。「大丈夫か?」
「はい」
魔物との戦闘以外で助けられた事がなかったので彼女行動に戸惑った。しかし、嬉しかった。
「自分で、対処できず申し訳ありません」
「構わぬ。ミサキの仕事は魔王討伐の補助だ。下賤な男の相手にではない」
「はい、ありがとうございます」
アカの気遣いが嬉しく、見かけだけで青の勇者に興味を抱いた事を恥ずかしく感じた。
ミサキはアカの後が追い、家の中に入った。
「失礼します」
そう言って入室したのはミサキだけであった。アカは入るとすぐに、ソファに座る髪のない女性の前に座った。緑の石が入った勇者仮面をつけていたので、外で倒した男の勇者だとすぐに分かった。
彼女は飲んでいた紅茶を置くとアカの方を見た。
「アレは迷惑だ」アカが彼女に訴えた。
「そうか」緑の勇者は悪びれる事なくミサキの方を見た。「赤い髪に赤い瞳か。ヤツが好きそうな顔をしている」
ミサキはアカの後ろに立つと頭を下げた。
師から『勇者様及びそのパートナー』に出会ったらフードを取り丁寧挨拶をするように指導された。しかし、青の勇者には顔を見せる必要も挨拶もいらないと言われた。緑の勇者のパートナーには見せる必要ないとアカに怒られた。
ミサキは困り、黒いフードを握りしめた。
「ミサキ、おいで」アカに手招きされて、横に座らせられた。「フードかぶっておれ。取る必要ない」
「はい」ミサキはアカの言葉に安堵した。
「緑の勇者のパートナーのせいでミサキが不安がっている」
「ボコったんだろ」
緑の勇者が組んでいた長い足を組み替えた時、扉が開いた。
「置いていくなんてひどいですよ」
血まみれの緑の勇者のパートナーが現れた。それに、ミサキはビクリと体を動かした。
アカは小さな声で「散歩に行くがいい」と言った。ミサキはその言葉にうなずくと、近くの窓から外に出た。すると後ろから叫び声がしたと思ったらすぐに静かになった。
ミサキは深呼吸をしてあたりを見回すと、青の勇者の魔力を近くで感じた。更にその近くに小さな魔力の気配があった。
――魔物と戦てるのかな。
ミサキは青の勇者の戦いぶりに興味があり、魔力が感じる方に向かった。
戦っているにしては森の中が静かすぎた。
ミサキは音を立てないように近づくとしゃがみこんでいる青の勇者を発見した。
彼の金色の髪は森でよく目立つ。
ミサキは木の陰に隠れるとそっと、青の勇者の様子を見た。
「アハハ。可愛いな」
彼の声にミサキは驚いて足を止めた。
何かに向かって笑いかけているのだが、その声も顔もさほどの見たモノとは違う。まるで愛おしい者を相手にするようであった。
「誰ですか?」
青の勇者は笑いかけていたモノを服の中にしまうと立ち上がりあたりを見回した。
ミサキは怒られる覚悟で、木の陰から出てきた。
「赤の勇者様のパートナーです」
青の勇者は出会った時と同じ張り付いた笑顔を浮かべた。ミサキはソレに殺意が含まれているように感じた。
「何か用ですか?」
「いえ……。散歩をしていました」
彼から発せられるモノに圧倒されながら言った。
「そうですか……」
勇者仮面にはめ込まれている青い石を向けられ、それが強い視線のように感じ居心地の悪さを感じた。
「貴女も魔導士なら魔力感知できますよね?」
口角が上がり笑顔であるのに、彼に殺されるのではないかと思った。
「……はい」小さな声で返事をすると、ミサキは黒いフードを握り更に深くかぶり顔を隠した。
挨拶をしてその場を去ろうとしたが、恐怖で足が思うように動かなかった。
風で葉がこすれ合うことが耳に響き、心臓の音が速くなった。
しばらくして青の勇者のため息が聞こえ、泣きそうになった。
「もう一度聞きます。僕に何か用ですか?」
「あ、いえ……その」うまく言葉が出なく、この場から逃げ出したかったがそれもできず、気持ちが限界であった。
「うちの子をいじめるでない」
聞き覚えのある声に振り返るとアカがいた。
彼女の顔を見た瞬間、嬉しくて涙がでそうになった。
――アカ様。
彼女を見た瞬間、気持ちが落ち着いた。
深呼吸をして、目の前で嘘くさい笑顔の青の勇者を見た。彼からの圧を感じるがアカがいると思うと恐怖は消えた。
青の勇者がアカの方に顔を向けたので、ミサキは慌てた。
アカが青の勇者に殺されると思い、拳を握り青の勇者に向かった。
「え?」彼は驚いた声を上げた。「いきなり、なんですか?」
青の勇者に拳を避けられると、手を掴まれた。全力で手を引くが抜けない。
彼に手をひねられて背中に持ってこられると身体の自由がきかなくなった。
「ミサキ」アカも驚いて声が上げた。「何をしておる」
「わ、私がアカ様を守ります」
そう言って、ミサキは身体を揺らして青の勇者から抜け出そうとしたが上手くいかなかった。
「何を言っておる。ミサキに守られなくとも我は強い」
アカのその言葉にミサキは顔を青くした。自身を全て否定されたようで思考が停止した。
それを見て青の勇者はニヤリと笑った。
「赤の勇者はパートナーが必要ないですね」
「そんな事は言ってない」アカは青の勇者を仮面越しに睨みつけた。「返せ」
青の勇者はミサキを脇に抱きかかえた。
「貰いますね」
アカは彼の側に近づこうとした瞬間、ミサキと共に消えた。
「瞬歩か」
アカは慌てて、追った。
――人を抱えて瞬歩を使えるのか。
数時間探したが、見つけることが出来なかった。
アカは油断した自分と無力な自分にイラつき近くにあった木を殴りつけた。木は大きな音を立てて、倒れた。
「青の勇者め」
彼の行先は想定できた。
自分のパートナーの代わりに、ミサキを連れて魔王城にいくのだろう。
アカはその場に座り込み、親指の爪を噛んだ。
「ミサキ……」
アカはミサキに抱きしめられて寝た感触を思い出した。あんなにぐっすりと眠れた日はなかった。
アカは魔王城の方を見た。木々に阻まれ目視することは出来ない。
魔王城で、ミサキが『真実』をしったらどういう行動に出るか想像することができなかった。
「そもそも、ミサキは青の勇者に永逝魔法を使うのか……」
ミサキが長身で金髪の青の勇者に興味を持っていたのは気づいていた。彼と生きたいと望み魔法を使うのか。
そしたら……。
アカはため息をついて地面を見た。
すると、近くで魔物の気配を感じた。魔道士の魔力探知ほど性能はよくないが間合い付近に近づかれれば気配を感じる。
「こんな時に……」ゆっくりと立ち上がり周囲を見た。「いや、違うな。都合がいい」
アカは地面を蹴ると草むらに飛び込んだ。そこにはちいさなイノシシのような魔物がいた。
――こどもか?
イノシシは鼻から白い息をはくとアカに突っ込んでいた。彼女はイノシシを殴りつけるとソレは吹っ飛び、木にぶつかると地面に落ちた。倒れたイノシシに近づいた時に、背後にいる大きな気配に気づいた。
――子どもだけはいるわけないか。
アカがゆっくりと振り向くと、彼女よりも二回り以上大きい真っ黒なイノシシがいた。
アカは小さく息をはき、イノシシに向かって構えた。
イノシシは子をやられたからか興奮しているようで真っ赤な目が血走っている。
「デカいのう」
イノシシが突っ込んでくるとアカは飛び上がり、イノシシの背中に手をつくと回転して地面に着地した。イノシシはすぐ止まれずに森の中に突っ込んで行った。
それを見ていると背後から殺気を感じ飛び上がろうとしたが間に合わず右側に強い衝撃を食らい転んだ。地面に左側をすりつけながら数メートル進んだ。
「うぅぅ……」
アカは痛みに耐えて、左手に力をいれて起き上がった。右手が痛みで上手く思うよう動かなかった。
――いつものこの程度で……。
動かない自分の手にイラ立ったがすぐにその原因ついて気づいた。
「……ミサキ」
彼女はアカが傷つくとすぐに回復魔法を掛けていたので、戦闘で痛みというものをほぼ感じたことがなかった。
目の前にいるのはトラのように大きな魔物であったが、長く鋭い二本の牙があり頭にはとぐろを巻いた角があった。開きっぱなしの口からよだれが出ており、アカを攻撃した手には鋭い爪があった。
恐怖を感じた。
アカはひどい痛みを感じ右手をみた。
奴に攻撃を食らった所は治らない。
逃げるべきである事は分かっていたが、恐怖と自尊心が邪魔をした。今での魔物には余裕で勝ってきた。
それなのに……。
――クソッ。
アカは魔物の前に座り込んで見上げた。
魔物が大きな口を開け迫って来きた瞬間、アカは目を閉じた。
「……?」
覚悟を決めたが、一向に襲われないため首を傾げた。ゆっくりと、目を開けると魔物が背を向けていた。
反対側に何かあるようで、魔物はソレに噛みつこうとしていた。
しばらくして、魔物は大きな音をたてて倒れた。倒れた魔物の上に乗っているのは青の勇者のパートナーであった。
彼はアカに気づいていたようで振り替えた。
「あれ?」彼は首を傾げた。「赤の勇者……?」
彼に情けない所を見られたくなくて立ち上がると勇者仮面越しに睨みつけた。
彼は至近距離まで顔を近づけてきたので、叩こうとしたが痛みで手が上がらなかった。
「お前、その程度の魔力だった?」彼は頭を無造作にかいた。「アオよりも低いじゃん。前にあった時はアオよりも遥かに高かったのに」
更に近づけてくるので、アカは後ろに下がると頭が木にあたりそれ以上後ろに行かれなかった。
「怪我……?」
ジロジロと見ると青の勇者パートナーにアカは「無礼な。我は勇者だ」と言った。
しかし、彼は鼻で笑った。
「勇者って言っても弱いじゃん。この感じだと……」彼はアカから少し離れると彼女を上から下までじっくりと見た。「パートナーの力で能力上げんだなぁ」
「違う」アカは強く否定した。「彼女は回復魔法しか使えない」
「うん?」彼は首を傾げた。「回復魔法は自然治癒力の強化。俺ら魔道士はあるモノの増加してんだ。ねぇものはだせない」
「え……?」
アカは驚いて、頭の中にある知識の本棚を確認した。しかし、魔法についての記録はない。
「治癒力強化してんなら、自然と他の能力も強化されてんじゃねぇの?」
彼は頭をさっきよりも乱暴にかき、人差し指と中指を立て詠唱した。すると、身体全体が暖まり、力がわいてきた。
「身体能力強化魔法。全身の筋肉を発達させているんだ」
アカはゆっくりと自分の動かなかった手を見た。見た目は変化ないが痛みがなくなっていた。
「筋力が上がると治癒力も自然あがんだ」
怪我を治して貰った事には感謝しているが、『勇者』である自分を見下した態度が気に入らなかった。しかし、ここで彼と出会った事を利用したかった。
以前、あった時に『無礼で馬鹿な男』だと感じていたがそうではないようだ。
「どこに行く」
背中を向けた青の勇者のパートナーにアカは声を掛けた。すると彼はゆっくりと振り向き「帰る」と面倒くさそうな顔をした。
『勇者』と生まれて、以前あった時も含めここまで侮辱的な行動をとった人間は始めだった。
「姉貴、置いてきたんだ」
「姉貴?」アカは少し考えた。「ユキノを連れてきたのか?」
「あ~」彼は頭をかいた。「お前が訓練つけてくれたんだってな。お前は弱いのに姉貴は強くなってんな。先生としての才能あるな」
彼は満面の笑みを浮かべると親指を立ててみせた。無礼すぎる態度にアカは怒りを通り越して呆れた。今の台詞も悪気が無さそうな所を見ると脱力した。
「ユキノはどこにおる」
「あ~」彼は少し考えてから口を開けた。「家?」
この辺で家と言えば、勇者の休憩所しかない。
「なぜ、うぬだけここにいる?」
青の勇者を追って魔王城へ向かうなら今いる道で正解だ。
――ユキノが邪魔になったか。
彼の実力を見ると一人で魔王城へいけだろう。そもそも、戦闘ができる魔道士など聞いたことがない。
アカは倒れている魔物を横目に勇者仮面の中で眉を寄せた。
「あ~。強そうな魔物を感じたからダッシュできた。ミサキは俺に追いつけねぇから置いてきた。」
そこまで言うと彼は眉を寄せた。
「あー、家中で二人の人間と話してるな。一人は魔導士か。ってことはもう一人は勇者だな」
彼は指先で頭をかいた。
アカは彼の詳細な魔力探知に感心した。
「以前言ったように的を絞っているのか?」
「ねぇーよ」彼はキョトンとした顔をした。「したら年齢や外見もわかるって。今は周辺も一緒に見てるからわかんのは魔力の量くらいだ。そんなで個人を判別してる」
彼の言葉に驚愕したと同時に期待した。彼と魔王城に向かい、青の勇者と合わせればミサキを取り戻せると思った。
青の勇者がパートナーを捨て一人で魔王城へ向かった狙いは彼の大切に思う以外はない。
――幼い頃からの絆ってやつか。
だからといって人のパートナーを使うのは外道だ。
早くしなくてはミサキが青の勇者に永逝魔法を使うことになる。
アカを抱きしめるミサキの声を思い出した。
必死にアカを守ろうとするミサキの姿を思い出した。
「青の勇者のパートナー」
「うん?」青の勇者のパートナーは眉を寄せた。「それなげーだよな。カナタでいいぜ」
「……カナタ」
パートナー以外の名前を呼ぶのはむずがゆい気がした。
「お前は?」
無礼な口調よりも名前を聞かれた事に驚き、可笑しくて笑い出した。すると、カナタは不思議な顔をした。
「……勇者に名を聞くなどバカげている。我は赤い瞳を持つから赤の勇者だ。だから幼少期はアカと呼ばれていた」
「そうなのか?」カナタは首を傾げて空を見上げた。「アオもそんな事言ってたなぁ」
「彼は青い瞳を持つから青の勇者。幼い頃はまだ『勇者』ではないから瞳の色で呼ばれる。それだけだ」アカは小さくため息をついた。「以前、うぬと『勇者』を作る建物を見たろ。名前など個体が分かればいい」
「そうか……」
カナタは下を向いて寂しそうな顔をした。
この数分で次から次へと表情を変えて忙しそうだ。
「まぁいいか」カナタ、視線をアカの方に向けてニコリを笑った。「で、なんか言おうとした?」
「あぁ」
彼の気持ちの切り替えが早すぎて、アカは戸惑ったが勇者仮面の中で目をつぶりゆっくりと開けた。
「青の勇者にさっきあった」
「マジ」カナタは目を輝かせて、喜んだ。
「彼は魔王城に向かった」
「だよな」
「奴は我がパートナーを連れて行った」
「はぁ?」
カナタは今まで一番大きな声だした。
アカは耳を抑えながら肩をすくめた。彼の反応は想定通りであったため安心した。
「なんで?」カナタは眉を寄せた。
「分からんが……」アカはカナタの顔を見上げた。「我はミサキを取り返したい。一緒にいくか」
「あぁ、いや」すぐに返事をした少し考えると言葉を濁した。「姉貴を迎えいかないと」
「愚かな」アカは目を細めた。ミサキを取り戻せると思うと不安な気持ちが消えた。
青の勇者が死に、カナタが落胆する未来が待っているがミサキが戻ってくると思うと彼らの犠牲も仕方ないと思える。
「向かう所は魔王城だ。訓練を受けていないユキノを危険にさらすつもりか」
「……」カナタは口をつぐみ地面を見た。
そんな彼をアカは真っ直ぐな瞳で見つめた。
「魔王城には青の勇者おる。それに、ユキノの側には勇者がおるのであろう」
「まぁ……」カナタは少し考えたあと顔を上げ笑った。「ならすぐに行こう」
カナタはアカに身体強化魔法を掛けると走りだした。
「戯け者」アカはカナタをすぐに追った。「これから魔王と戦うのに魔力を使うとは」
「俺、誰よりも魔力あるから」
ニヤリと笑うとカナタは速度を上げた。
瞬歩を使えばすぐに彼を追い抜かせるが、その後魔王を相手にする自信はなかった。
「おせー」
カナタの声が聞こえると、身体が更に軽くなり全身に力がみなぎっていく感じがした。
「アオならさっきので、俺をぬかすけどな」
「煽るな」
アカはニヤリと笑いながら、カナタの横を走った。
「なんで、アオはアカのパートナーを連れて行ったんだ?」
カナタは走りながら首を傾げた。
「永逝魔法は自分の勇者にしか効果ねぇぞ」
「そうなのか?」
「うん、魔力の波長があわねぇと」
「波長?」
初めて聞く言葉にアカは首を傾げた。頭の中の本を開いたが思い当たらない。
「魔力の質がちがうだろ」とカナタに言われたが質も何もアカは魔力を感じることが出来ない。
そんな話をしているうちに魔王城の門が見えてきた。
森というのは似たよう木ばかりに生えているため、現在地がよく分からなくなる。
ユキノは一人置いていかれて途方にくれてきた。
数分前に、突然カナタが「つえーやつがいる」と楽しそうに言って走って行ってしまった。
彼に置いていかれるのは始めてではない。旅の途中、カナタは『強い敵』を感じると後先考えず飛び出して行った。
――勇者様に捨てられたのも分かる気がする。
ユキノは小さくため息をついて、周りを見た。まだ、太陽があり明るいため安心できた。
『勝手にいなくなるな』と言ったことでカナタは言えば何処へでも言っていいと解釈らしい。
朝から歩きぱなしであったためユキノは疲れて木に寄り掛かり座り込んだ。
その時、草むらから音がして、警戒した。
出てきたのは手のひらより少し大きいサイズの豚のような生き物であった。身体黒く目は赤という魔物の特徴を持っているがユキノを襲うつもりはないようで目の前をふらふらと歩いていた。
――子どもかな?
今まで魔物と言えばすぐに襲われたので、コレは新鮮であった。
「おいで」
ユキノは手の平をみせて差し出すと豚はそれに気づき「ブビィ」と鳴いた。それからよちよちとユキノの手に近づいてきた。
――可愛い。
そう思った時に周りの草むらが揺れ動き豚の魔物がわらわらと出てきた。気づけばそれらに囲まれていた。
「ブビィ」と鼻を動かしながら歩くソレらはとても可愛かった。
最初にいた豚がユキノの目の前にきたので、触れようとすると豚の目が光ったように見えた。
「え……?」
ソレは大きな口を開け鋭い牙を見せた。ユキノは慌てて後ろに下がろうとしたが豚がいて動けない。
――油断した。
ユキノは反省しながら、真横にいた豚を口の開いた豚に投げつけた。すると、投げた豚が大きな口を開け目の前にいた豚に飲み込まれた。
――共食い?
その出来事に反応するように、ユキノの周りにいる豚も次々と口を開けた。
近くにあった木の枝や石を次々と投げつけたが全てのみ込まれてしまった。
ユキノは拳で殴ることも考えたが鋭い牙の生えた口を見ると臆し背後にある木に捕まった。
――あ、木。
ユキノは手足に力を入れると勢いよく木に上がった。すると、豚は木の根元の方でわらわらとうごめいている。
「木には登れないのか」
安堵したがすぐに先の事を考えて不安になった。木の下に豚がいる以上降りることはできない。
ミサキは周囲を見て眉を寄せた。木々の間が空きすぎて飛び移ることもできそうにない。
――アレが諦めるのを待つか。
すると、木が揺れ始めた。ユキノは木につかまり、真下にいる豚見て顔を青くした。
豚が木を食べていた。
ユキノは一番近くにある木を見た。絶対に飛び移れない距離ではないが、落ちる確率の高い。
――このままでも落ちるから同じなんよね。
ユキノは揺れる木につかまり、再度真下の豚を見た。
「よし」
気合を入れると、足に力を入れ、枝を蹴り飛んだ。全身を伸ばし両手で隣の木の枝をつかもうとしが指先が触れたところで落下した。
目をつぶり腹に力をいれて衝撃に耐えようとしたが、いつまでたっても痛みはない。その変わり、胸をもまれる感触があった。
驚いて暴れると「わぁー」と言う声が聞こえて地面に落ちた。
「うぅ……」
ユキノは頭を押さえながら、見上げると黒いローブを着た人がいた。ローブからは茶色い波うった髪出てた。
「勇者様のパートナー」慌てて立ち上がると、頭を下げた。「助けて頂きありがとうございます」
「いいよぅ」彼は手を出すと左右にふった。「ほとんどミドリ様がやってくれてるし~」
軽薄な話し方をするなと思いながら、彼が指さした方を見た。
そこには二つの刃が付いた輪っかを持った勇者仮面をつけたボウズの女性がいた。
「緑の勇者……」彼女をみたユキノは首を傾げた。「あの武器……?」
「乾坤圏」
緑の勇者は両手に持った乾坤圏を左右動かしながら豚を叩き切っていた。彼女の戦いは美しく曲芸のようであった。すべての豚が原型をなくし地面が血で染まった頃、彼女は動きを止めた。
あれだけ敵を倒したのに乾坤圏以外に血がついていないことに驚いた。
「あはは、素晴らしいですね」
隣にいた緑の勇者のパートナーが大袈裟に手を叩いて褒めたたえた。緑の勇者は鼻を鳴らすだけで返事をしなかった。
「でさ」緑の勇者のパートナーに見られた。「君はなんでこんな所にいるの?」
「えっと……」
「この先は魔王城しかないよ?」
彼の回答に困っていると、緑の勇者が近づいてきた。
「あたしは帰る」と言った彼女の勇者仮面にはめ込まれている緑の石がユキノをとらえた。「必要なら連れてこい」
「承知致しました」
緑の勇者のパートナーが頭を下げたので、慌ててユキノも下げた。彼女はそれを横目に去った。
「で」彼はすぐにユキノの方を見た。「まさか魔王城に向かっているとか言わないよね?」
ユキノが小さく頷くと、「本当に?」と彼は驚きの声を上げた後、大笑いした。
「あの魔物も倒せないのに?」彼は緑の勇者が血だまりにした場所を指さした。「勇者やそのパートナーでもない君がなんで?好奇心?自殺願望者?」
彼のバカにしたような言い方に腹が立った。
「なんでもいいけど」彼は人差し指を立てて、ユキノの顔の前に立てた。「死ぬよん」
「緑の勇者様のパートナーの方、これらから魔王城へ向かうのでしょうか?」
彼の質問に答えづらくて話を変えた。失礼な事であるが、彼の気にするようはなかった。
「行ってきたんだ」
「魔王城へですか?」
「うん」彼はまるで買い物へ行ってきたような口ぶりであった。「今じゃないよ?先日さ」
彼はケラケラと笑った。
「うんで、フルボッコ。まぁ、生きて戻れただけ良かった」
大量の豚を瞬殺させた緑の勇者が退却せざる負えない状況に追い込んだ魔王城に恐怖を感じた。
「また、行かれるのでしょうか?」
「魔王城?」彼は腕を組んで、自分の顎を押さえた。「ミドリ様が行くと言うならねぇ。どーせ、魔王倒さないと村に帰れないしねぇ」
「他の勇者様が魔王を倒されたらどうなさるのですか?」
「えー」彼は自分の頬を軽く叩いた。「ミドリ様はどうなさるんだろう。聞いてみよう」
彼は手をポンと叩くと、ユキノに背を向けた。数歩進むと足を止め振り返った。
「君も来るならおいで。ここにいると死ぬかもよー」
「はい」
ユキノは返事をすると駆け足で彼の後を追った。少し進むと丸太を組んで作らてた大きな家があった。
「ここねぇ」
前を歩いていたと思っていた緑の勇者のパートナーが背後におり心臓が止まる所であった。
「勇者専用のさ、魔王城の前の休憩所」
そう言いながら、ユキノの肩をそっとなぜてきた。それに寒気がしたが、勇者のパートナーである彼を無下にはできずに我慢した。
彼はそのままそっと二の腕まで手を降ろしてくると耳元に口を寄せた。
「君は本当に何しにきたの?」
吐息が掛かりゾクゾクした。
裸を見ても気にしないカナタを思い出し、勇者のパートナーはそういった事に疎いのだと思っていた。しかし、違ったようだ。
彼の身体が背中にぴたりとくっついた瞬間、クルリと回転しその力を使い蹴り上げた。
「アハハ」彼は笑いながら避けた。「君、やっぱすごいよね。魔物に襲われても動じないし木に登ったあげく他の木に飛び釣ろうとするし」
「なんなんですか?」
ユキノは息を切らして相手を睨みつけた。揺れる黒いフードから彼のにやけた口元が見えた。
「楽しいから?」
「近すぎます。何が目的ですか?」
「うん?」彼は首を曲げた後、大きく頷き黒いフードを揺らした。「襲われると思った?」
「……」軽い彼の言葉にユキノはイライラした。
「安心してね。一般人の前じゃ黒いフード脱げないから。何もできなぁい」
「そうですか」ユキノは安心しつつ首を傾げた。「一般人……?でも村では黒いローブ着ていませんでしたし、勇者仮面も……」
そこまで行ってユキノは言葉を止めた。
「君、あの村の出身?」彼は嬉しそうな声を上げた。「勇者のパートナーは村の中では黒いローブは着ないよ。でも、勇者様はないねぇ。勇者村を出る時に勇者仮面を渡され人前では外さない決まりだから」
彼は自分の顎に触れて「うーん」と考えた。
「緑の勇者様に聞きに行くのではないのですか?」ユキノは彼の考えを止めようと言葉を掛けた。
恩がある赤の勇者の負担になるようことはしなくなった。
少し、悩んだがユキノは頷くと彼の手を取り、足を進めた。すると、黒いローブで顔が見えないはずなのに強い視線を感じた。その視線が胸に向かっていることも分かっていたが笑顔を作り彼を引っ張った。
家の中に入ると、ソファに足を組んで座っている緑の勇者がいた。
「ミドリ様。戻りました」
「あぁ、連れてきたのか」
緑の勇者に仮面を向けられてドキリとした。
「はい、失礼致します。ユキノと申します」
「ふーん」彼女は興味なさそうな声をあげた。
「ミドリ様は、他の勇者が魔王を倒したらどうするんです?」
前触れもなく緑の勇者のパートナーは聞いた。
彼といい、カナタといい、勇者への敬意を感じられなかった。普通だと思っていたミサキが特殊なのかと感じた。
「考えてないな」彼女はローテーブルの上にあったカップに口をつけた。「でも、村には戻らない」
「そーなんですかぁ」
「あぁ」彼女はカップをローテーブルに置くと、窓の外をみた。外は、日が落ちてきている。「あたしと言うか勇者は皆、村人と親交があるわけじゃない。勇者村にいるのは心無い黒くローブだ」
ユキノは家に来た勇者村の方々を思い出した。彼らと生活感をしていると思うと心が滅入りそうだ。
「でも、他の勇者様がいらっしゃるでしょ?」
緑の勇者のパートナーが食い気味に聞くと彼女は鼻で笑った。
「さっき来た、赤の勇者と青の勇者を見てもか?」
「あ~。青の勇者様は得体がしれないというか」彼は下を向いて黒いフードで顔を隠したがすぐに頭をあげ口角を上げた。「でも赤の勇者様もそのパートナーも素敵でしたよぅ」
ユキノは彼の言葉に寒気がした。ミサキは美しい女性であるが、赤の勇者は幼い。堂々した態度で大人びているが身体に凹凸はない。
「そこのお前、安心しろ。コヤツは口だけで手を出すこと出来ない」
「そうなんですか」先ほど、本人も言っていたが『勇者』に言われると安堵した。「人前で黒いローブを脱げないと言われておりました」
「それも、そうだが、接触すると体内の魔力が相手にながれるからな。一般人に魔道士の魔力に耐えられない」
「耐えられないとどうなのでしょうか?」
不安になり緑の勇者を見た。すると、緑の勇者は彼女のパートナーを横目にニヤリと笑った。
「アレは大変だったな」
彼女の言葉に彼は黒いフードを深くかぶり顔が全く見えないようにした。
「……魔物化したんだ」
その言葉に緑の勇者は大笑いした。
「ある宿屋でくつろいでいるとな奴の大声が聞こえたんだ。で、見に行けば、コイツ裸で腰ぬかしていてベッドの上に魔物がいんだ」
緑の勇者は立ち上がると、ニヤニヤしながらパートナーの肩を抱いた。「あたしがいなければ今頃死んでたなぁ」
彼は下を向いて動かいない。黒いフードで見えないが真っ赤な顔をして震えているのだろうと思いユキノは同情した。
「あ、でも。好きな女の子とは仲良くしたいですよね」
彼を擁護するつもりはないが、あまりに哀れだったのでユキノはフォローした。
「好きなぁ?」緑の勇者は彼の黒いフード中を覗き込んだ。
「ボクは全ての女の子が大好きなんです」
彼は大きな声をあげながら、勢いよく頭を上げたため黒いフードが取れた。ふわりとしたが波のように長い髪に真っ白で整った顔が出てきた。緑の瞳がよく似合い美しく思った。
しかし……。
「もちろん、ミドリ様も大好きです」と言って彼女の胸に触れようとした瞬間、吹っ飛び壁に激突した。
何をされたのか見えなかった。
「あぁ……ミドリ様のこぶし」と壁から落ちて床に這いつくばっていた。その彼が言うのだから殴られたのだろう。カナタの戦いもそうであるが、目追うことはできない。
――そりゃ、魔王城に行ったら死ぬって言われるんよね。
「さて、君は何をしにここにきた?」緑の勇者の凛とした声が響いた。
「誘われたからです」
「違う」緑の勇者はゆっくりと首を振った。「魔王城へ向かう道にいたことだ」
緑の勇者に問われて、ユキノは黙った。
「うむ。誰かを追ってきたか?」腕を組んだ彼女は顔を近づけてきた。勇者仮面にはまっている緑の石と目があった。「勇者なわけないない。あたしらはパートナー以外との私的な交流を持たない。なら、パートナーの方か」
見つめられるだけで、心の中が暴かれ怖くなり後ろにゆっくりと下がった。彼女はそれを追うように前に進んだ。
「魔王城へ向かっているパートナーは赤と青、それにあたしらだ」
彼女はユキノの答えを待つことなく、独り言のようにぶつぶつと言っている。しばらくして足を止め背中を伸ばすとユキノを上から見た。
「青や赤の勇者に越されるわけにはいかないからあたしらはそろそろ魔王城へ行く。一緒にくるか?」
「え……」
ユキノは目を大きくして緑の勇者を見た。
「はっきり言って、あたしらの実力では魔王に合うのは難しい。君が来ても守れない。やられたら見捨てる」
「いえ」ユキノはゆっくりと首を振った。
帰ってこない所をみると、おそらくカナタは魔王城へ向かった。そこには青の勇者がいる。ならば自分は必要ないと思った。
そして、『守らない』と言っている彼らだがきっと守ってしまうのではないかと今日の助けてもらった事を思い出しながら感じた。
――赤の勇者様の訓練もきつかったが今思えばアレがあったらここまでカナタと来られ『勇者』の優しさを感じ感謝した。
「ありがとうございます」ユキノは頭を下げた。
「では、ここにいなさい」
「え……でも」
「大丈夫」緑の勇者は大きく頷いた。「後数年、勇者は村からでない」
ユキノは迷ったが、カナタを待ちたいという気持ちもあったため好意に甘えた。
ユキノは魔王城に向かう緑の勇者を見送った。立ち去る時、緑の勇者のパートナーの手がユキノの胸に伸びたが緑の勇者に叩かれて出て行った。
そのせいでちゃんと見送りが出来ず申し訳なく思った。
空が真っ暗になった頃、アオは魔王城の前にいた。その脇には『帰る』と大騒ぎをしている女がいた。
「青の勇者様。な、なんですか……」
彼女は涙目になって、アオを見ていた。しかし、彼は女の感情に興味はなかった。
「今から魔王を倒しに行きます。僕が魔王を封印したら永逝魔法をお願いします」
笑顔で言ったが、彼女は震えていた。
「む、無理です」小刻みに首を振った。「私の永逝魔法は赤の勇者様にためにあります。青の勇者様にもパートナーがございますでしょう。なぜ、連れて来られなかったのですか?」
震えながらも女は必死に話した。
その時、魔王城の方から無数の真っ黒なオオカミの形をした魔物の集団が出来てきた。オオカミ型の魔物は様々な場所に出現するが今、目の前にいるソレはいつもの倍以上大きさがあった。
アオは震えて座り込んでいる女を横目でみた。
――素手じゃ無理かな。
アオは腰にあった剣を抜いた。
剣を手にするのは、カナタと別れて以来であったがしっくりとした。軽く振ってみるが、特に違和感はない。
アオは女の後ろに立ちオオカミが来るのをまった。
「え、ちょっと……なんですか。あの魔物、私……」
女が騒いでいるがアオは答えずにオオカミの動向に集中した。奴らが、アオや女を狙い飛びついてきたところで頭を切り落した。
ゴロリと頭と胴体が分かれたオオカミの死体が転がった。アオが動くたびに頭と胴体の数が増えていった。
女が悲鳴を上げて、足にまとわりついてきてウザさを感じた。これからの使い道を考えると無下にはできずほっておいた。
「ふぅ」
オオカミの出現が止まるとアオは小さく息を吐いて、剣を女のローブで拭くと鞘にしまった。女は周囲の状況に怯えて剣を拭かれたことに気づいていない。
「君は、赤の勇者と共に戦ったのではないですか?」
あまりに騒ぎっぷりにアオは呆れていた。
「そうですが、私は補助です。いつも魔物から離れた所にいます」
「そうですか」
アオはカナタが戦闘する姿を思い浮かべながら女を見た。
「大体、なんで私を連れてきたのですか?」
「う~ん」アオは少し考えると、女を見た。「魔王城に入ったらいいことを教えてあげます」
「魔王城……」女は門の奥にある城を見上げると首を振った。「私はアカと来るつもりでした。青の勇者様には協力できません」
ぐずる女がアオはめんどくさいと思った。しかし、中に入ってもらわないといけないのでなるべく優しい笑顔を作った。
「君を守りながら魔王に会いにいきます」
「え……」
「永逝魔法だけしてもらえばいいです。あ、でも、立って歩いてください」
アオの言葉に女は眉を寄せると「私の永逝魔法は赤の勇者様のです」とはっきりと言った。今まで怯えていた女とは見違えるほど強気であった。
――面倒くさい。
アオは女を抱きかかえた。すると彼女は暴れたので強めに手足を掴み魔王城へ入った。
中に入ると女を嘘のように静かになった。
「……まって、なにここ。無理です」
外よりも体を震わせて女はアオにしがみついた。
「魔力感知ですか」
「は、はい」
女はアオの服に顔を隠した。それに彼は顔を歪めたがすぐに笑顔を作った。
「このあたりだけでも相当な量の魔物がいます」
「数は?形は?」
「え、そ、そんなの分かりませんよ。だけど魔 物ってことははっきりしています」
女の言葉を聞いて、アオはため息をついた。
――その程度の魔力感知か。カナタなら正確な数と魔物の種類、場所まで分かった。
アオはカナタと比較している自分の気づくと首を振った。カナタなしで魔王討伐すると誓ったからには彼の事を頭から出したかった。
「あ、青の勇者様……?」
女に声を掛けられて意識を戻した。
「世間話をしましょうか」
アオは女に笑いかけると、魔物から死角になる柱の横にいった。そこで女を降ろし、座らせるとその隣にアオも座った。
「僕ね、カナタと会ったのは七歳の時なんですよ」
「え……」女は驚いて顔を上げた。「勇者様とパートナーが合うのって、魔王討伐出発一週間前ですよね」
「そうですね。でも、アイツ勇者村に自分の勇者探しにきたんですよ」
「探すって、どうやってですか?」
ミサキは眉を寄せた。
「どうやって……」アオは口元を手で押さえながら考えた。「瞳の色が同じだからじゃないですか?」
「勇者村にいる勇者様の瞳を一人一人確認したのですか?」
「……」
女の指摘はもっともであった。勇者以外はいることが出来ない勇者村だ。瞳の色をたよりに探すことなど不可能だ。
――魔力感知しか方法が思いつない。
「どうしたんでしょうね」アオは肩をすくめた。
予想であってもカナタの力を女に公開いたくなかったため誤魔化すような言い方をした。
「話し続けますね。それからは二日と開けずにカナタと会ってました」
アオは幼い頃のカナタを思い出すと嬉しくなった。
アオは服から魔力人形を出した。
「これ、魔力ですか?」
女が驚いているがアオは嬉しかった。
「そうカナタが僕のために作ってくれたのです」
「ええええ」
女は怯えるのも忘れて魔力人形に見つめた。
その反応にアオはにやけた。カナタの実力を認められると自分の事のように嬉しかった。
「魔力の主は近くにいませんよね。それにこれ踊っていますよね。魔力の自動化ですか。そんなのことできるのですか。いえ、実際にできているのですよね。そもそも、魔力は魔導士しか見えないはずでは……」
早口で女は話した。
カナタの能力の高さに驚いている彼女の面白かった。ずっと大切に隠してきたが、コレの凄さが分かる奴に見せるのは爽快であった。
「そんなに素晴らしいパートナーでしたらなぜ捨てられてのですか?あの日、彼に『無能』といいましたよね。有能すぎますよね」
「うん」
アオは笑顔で頷いた。
「カナタを連れて来なかった理由に彼の能力は関係ないですよ。僕が彼を好きだからです」
「へ?」彼女は意味が分からないという顔をした。「好きならなおさら、一緒に魔王討伐を成功させた方がいいですよね」
「そうじゃないですよ」
アオは大きなため息を着いて口元にある人差し指を動かした。
「あれは魔王討伐出発前夜です……」
アオは明日の出発が楽しみで眠ることが出来ず、夜風にあたるため村の中を散歩していた。村と言っても勇者が村を歩くと騒ぎになるため、人里からは離れた場所だ。
そこにはカナタの師であるダイの家があった。
カナタもそこに住んでいる。
――カナタいるかな。
なんとなく、家の中をのぞいてみた。明かりはついていたが誰もいない部屋であった。アオが窓に触れると開いた。
アオは驚いたが好奇心に駆られて、部屋に入った。
他人の家に勝手に入ることは問題であることは知っていた。
しかし、過去勇者が村人の家にはいり食事を食べてしまったことがあった。それを咎められるどころか住人に歓迎されたという話を聞いておりアオに罪悪感はなかった。
部屋に入ってすぐに写真を見つけた。そこ写っていたのは勇者仮面をつけた女性と黒いフードをかぶった男性だ。
――ダイの若い頃の写真か。
アオはダイが、魔王討伐を成功させて勇者のパートナーであったことを思い出した。
――魔王を簡単に倒す方法とかあるかな。
アオは本棚を見つけると、一つ一つ確認していた。ほとんどが魔導書でありが勇者村にはない物である。そのため新たな知識を得ることが出来アオは楽しかった。
――なんだこれ?
手にした本は硬くて開かなかった。何度も全力でひっぱったがびくともしなかったため諦めようとしたその時、扉の方で物音がした。
アオは慌てて机の下に隠れた。
それからすぐに扉が開き、真っ白な長い髭とまつ毛を持つ老人が入ってきた。
――あれがダイか?
まつ毛で目が隠れているため瞳の色を確認することができなかった。
ダイは杖をつきながらゆっくりと椅子に座った。
「なんだ…?」机に置いてあった本をダイは見つけて首を傾げた。「はて。この本は本棚はいていたはずだが」
ダイは本を手にすると開いた。
「内容は改ざんされていないな。これは禁書だから誰かにみられたら大変だ」
その時「先生、どこ?」扉の向こうでカナタの声がした。ダイは返事すると本をそのまま机に置いて扉から出て行った。
アオはそっとテーブルの下から出ると『禁書』と言われた本を手にした。
――永逝魔法……?
聞いた事のある名前に、アオは夢中で読んだ。
『永逝魔法とは体内に入った魔力に魔力をぶつけ破壊する魔法である。魔力は体内の組織に絡みついている。そのため、魔力を破壊する時に身体組織も一緒に壊してしまう』
アオはそこまで読んで眉を寄せたが、とめることなく続きを読み始めた。
『永逝魔法を魔物に使用。永逝魔法は発動せず。魔力と魔力をぶつけて相殺するためには周囲が相当な魔力で充満している必要があった。永逝魔法は魔導士の魔力だけではなく周囲の魔力も使い、体内に入った魔力を消している』
そこまで読むとアオは本を閉じて元の場所に戻した。
――魔王を取り込んだ勇者をパートナーが魔王ごと殺すってことか。
アオは深呼吸をした。扉の外からはカナタの笑い声がした。それを聞くと気持ちが温かくなった。
――僕を殺した後、カナタ……。
ふと、ダイと勇者がうつっている写真が目に入った。写真の中の若いダイは満面の笑みの笑顔を浮かべている。
その時、カナタがダイの事を『表情筋が死滅している人』と言ったのを思い出した。あの時は笑い飛ばしたが今はその意味を重く感じた。
同時にカナタのくるくると変わる表情が脳裏に浮かんだ。
アオはゆっくりと深呼吸をすると、部屋にあった書物全てに目を通した。
「ちょっと待って下さい」
話の途中で、女が声をあげ不快に感じたが言葉止めて彼女を見た。
「あの、お師匠様なら魔道士ですよね。青の勇者様が入室した時点で分かっているのでは?」
「当たり前ですよ」アオは当然の事を聞くつまらない女のだと思いながら返事をした。「事実を伝えるために泳がしたに決まっています」
「うん?」女は首を傾げた。「伝えたいなら直接言えばいいじゃないですか」
アオは女の感の悪さにため息をついた。それに、彼女がびくついたので心を落ち着かせて笑顔を作った。
今は彼女に逃げられる訳には行かなった。
「不義魔法です。勇者村に損害を与える行為を行うと発動します」
「その魔法を知っていますが、発動するとどうなるのですか?」
「さぁ」アオは肩をすくめた。「未知なものは怖いですよね」
女は目を細めて、黒いフードを両手でぎゅっと握った。
「話を戻します。不義魔法があるから、永逝魔法使用後に勇者が死ぬことは伝えられません。それによって勇者が逃げたり、パートナーが魔法を使う事を拒否したりする可能性がありますので『損害を与える行為』に該当します」
そこまで話すと、アオは一呼吸置いて、人差し指を立てた。
「ただし、魔法の研究は厳密に管理されれば問題はないとされています。勝手に忍びこまれ意図していない所で知れたら魔導士には責任がありません。たまたま知ってしまったとしても『勇者の義務』を全うするなら『損害』にはならないわけです」
「……勇者の義務。魔王討伐ですか?」女は小さく息をはいた。「つまり青の勇者様はパートナーを人殺しにせず勇者の義務を全うしたいのですね。だから私を利用したという話ですか」
「そうです」やっと意味が通じで、アオは安心した。「勇者の末路を知ってしまった僕は魔王討伐から逃げれば不義魔法が発動する可能性があります。なら、カナタに魔王のいない世界で暮らしてほしいですよね」
「今、私知ってしまいましたよ」
女は不安そうな顔をした。
「このまま魔王討伐すれば問題ありません。知ることになる話ですから」
「魔王城からでれば発動する可能性があるということですね」
「わかりません」アオは肩をすくめた。「でも君とっても悪い話ではありませんよね」
アオは口元のあった人差し指で唇を軽く叩いた。
「赤の勇者を殺さずに魔王のいない世界を手に入れられるのですから」
「……」女は目を細めて考え込んだ。
アオはさっさと魔王討伐に行きたかった。しかし、女が納得するまで待った。彼女を利用することに失敗したら残るは緑の勇者のパートナーしかいない。
アオは女の尻ばかり追いかけているあの男が嫌いであった。
女はゆっくりとアオを見た。
「一つ聞きたいのですが、森に倒れていたのは私を得るための罠ですか」
「そうですね」アオはゆっくりと頷いた。「で君を待っていました。魔王討伐は僕一人では出来ませんので」
「アカを生かすために」女は自分の手を見た。「殺人者になる」
彼女の目が光りアオはゾクゾクした。
さっきまで、魔王城に怯え自分に怯えていた女から殺気を感じ楽しくなった。
――流石、赤の勇者のパートナー。
彼女が赤の勇者を守ろうと立ち向かってきた時の事を思い出した。
女は目を閉じてゆっくりと深呼吸をし、しばらく動かなかった。そんな彼女をアオは何も言わずに見ていた。
「それが真実である保証はありますか?」
目を開けてアオの顔を見た彼女は言った。するとアオは鼻で笑った。
「不義魔法は勇者も掛けられています。ですので、嘘がつけないのはパートナーと同じですよ」
「わかりました」彼女は頷くと立ち上がった。「今から、数時間程度ですが傷がついた瞬間癒される状態にします。それで魔王の所まで突破できるはずです」
「そんなことができるのですか」アオは素直に感心した。
回復しかできない彼女を守りながら魔王の所へ行くのは大変だと思っていた。
「それに集中するので魔力探知はしません」
「構いません」
魔物の攻撃を避けなくていいならかなり楽に進める。彼女を守りながらだとしても余裕がある。
「世間話は終わりです」
アオが立ち上がると「はい」言って彼女も立った。
魔王城に連れてきた時とは気迫が違い頼もしく思えた。
「君名前は?」
「ミサキです」
アオは頷くと「ミサキ行きましょうか」と言い足を踏み出した。名前を呼ばれたことに驚いたようで目を大きくしたがすぐに顔を引き締めてアオの後をついて行った。
柱の陰から一歩出ると、オオカミの大群がいた。アオが剣を構えた瞬間身体があつくなった。横目でミサキの方を見ると彼女は手のひらを向けていた。
アオは剣を握りしめると、オオカミは大きな口を開けてアオを向かってきた。いつもならそれをかわすが、ミサキを信じて剣をオオカミの口の中に刺した。腕にオオカミの牙が食い込み、出血した。気にせず剣を動かしオオカミを切った。内臓がぶちまけられて床に血をまき散らしてオオカミは倒れた。
ちらりと腕を見ると傷はなく出血した血で赤く染まっているだけであった。
アオはそれに感心してニヤリと笑うと周りにいた数十頭のオオカミを切り刻んだ。
オオカミと自身の血で、全身が赤く染まったが傷はない。
――いいねぇ。
ニヤリと笑い、駆け出した。
少し進んでミサキの事を思い出し振り向くとついてきているため安心して走った。
入り口の正面にある階段を上がると、踊り場があり左右に分かれて階段があった。アオは迷わずに左に進むと背後からオオカミが追ってきた。
アオは飛び上がり、剣を真下に向けるとオオカミの脳みそを差した。剣を抜くと、オオカミは大量の血を噴水のように噴き出して倒れた。アオはそれを浴びでまた赤くなった。
「ミサキ」
アオの声に、階段の上で戦いを呆然と見ていたミサキが返事をした。
「君は、身体能力強化もできるのですね」
「え……」ミサキは不思議な顔をした。「そうなんですか?」
「強化されてますよ。そもそも、この回復魔法ってどうやっているのですか?細胞再生ですか?状態を過去に戻しているのですか?何かの力を強化してます?」
「えーと」
ミサキは分かっていないようで、目と口を開けて固まった。
その間に、階段上からカラスのような魔物が飛んできた。背後にいる魔物にミサキは気づいていないようあった。
「分からないならいいです」
アオは床を蹴り、ミサキの横をもうスピードで通り抜けると剣をふりあげカラスを下から切りつけた。続けてカラスが何頭か来たので全て叩き切った。二つに割れたカラスは床に落ち血だまりが出来た。
周囲に魔物がいなくなると、自身の身体を見た。
カナタの強化魔法よりも弱いが問題はなかった。彼に全力で魔法を掛けられたらおそらく城がなくなる。以前、森の一部を吹き飛ばしたのをアオは思い出した。
「何を笑っているのですか?」ミサキに指摘されて始めて自分の表情に気づいた。「ずいぶん優しい口元されるのですね」
「……」
アオは不愉快になり無言で階段を上がった。ミサキは何を思ったのかニヤツキながら追ってくるので余計に不快になった。
階段を上がりきると、大きな扉があった。
それを見てアオは深呼吸した。彼はこれ以上先に進んだことがなかった。いつも手前のオオカミやカラスあたりで引き返していた。
アオは気合を入れて扉を押したが開かなかった。
「うーん」
扉から手を離すと口元を手で隠して考え込んだ。人差し指で軽く鼻を叩くとミサキの方を見た。彼女はじっと扉の上の方を見ていた。
「何かありますか?」
「……上の方だけ黒い靄があります」
ミサキが指を差したがアオに見えなかった。
アオは剣の先端を靄があると言われた場所に向けると投げた。
「え……」ミサキは声を上げて驚いた。「刺さった。あれ、魔力ですから見えないですよね」
「そうですね」
アオは口角を上げて、刺さった剣を見た。剣は左右に揺れると落下し、大きな音がなった。
アオは剣を拾うと、扉を押した。すると、さっきびくともしなかったのが嘘のようにスムーズに開いた。
アオは中の様子を確認しながら、部屋の中に入っていった。
広間の中心には赤いカーペットが敷かれその先には玉座があったが誰もいかなかった。
静まり返り、魔物もいない。
オオカミやカラスなど城の外より大きく強力だったから、更に強敵がいかと思っていたため拍子抜けした。
振り向くとミサキが入口から入ってこない。
真っ青な顔をして玉座を見ているがアオには何も見えなかった。
「ミサキ」
「あ……はい」
彼女は玉座から目を話さず返事をした。
「何かいるのですか?」
「はい。玉座を中心に魔力の靄もがあります。多分、ソレが魔王」
アオは目を細めて、玉座がみたがやはり何も見えない。剣を握りしめて、玉座に向かって走った。
玉座に剣を突き刺そうした瞬間、弾かれた。
――これが魔王。厄介だね。
何も感じなのに額から汗が流れて、手が湿っているのを感じた。
心臓の音が速くなり、足がすくんだ。
青の勇者となりカナタと大蛇と出会った時や得体のしれない洞窟に入った時と同じ感覚があった。
本能が危険を知らせている。
――しかしひくわけにいかない。
アオは剣を握り直し、玉座の中心を刺したが強い力でおしかえされる。アオは全力で押した。
すると、足に痛みが走った。
「――ッ」
次の瞬間、バランスが保てなくなりその場に倒れた。
――え……?
痛みはすぐ消えたが状況が理解出来なかった。
倒れたまま周囲を見ると玉座の前の左足だけがあった。
――切られた?
自分の左足があった場所を見ると、なくなっていた。切り口に血がついていたがすでに止まり傷口もなかった。
足を取りに行こうと手で前進すると、足は切り刻まれ肉の破片なると床に散らばった。
魔王は強いというより戦っている感覚がない。
ただ、一方的やられている。
――封印ってどうやるのさ。
アオがちらりと扉の方を見るとミサキがいた場所に血だまりがあった。肉の破片らしきものが転がっているのが見えた。
さっきまで身体にあった熱がなくなっている事に気づくと、絶望を感じた。
――クソ。
動くにも床を這うしかない。
その時、頬の上に何かが乗った。
「うん?」
瞳を動かして、頬を見ると魔力人間が踊っていた。
「カ、カナ……」
アオの言葉反応するように、魔力人間は頷いた。
「もう、ダメみたい……」
弱々しく言うと、魔力人間はアオの頬に抱き着いた。
「カナ。助けてくれるの?」
魔力人間は立ち上がると両手でガッズボーズとった。その姿が可愛らしくて気持ちが暖かくなった。
魔力人間はよたよたと歩き、なくなった足の断面に触れた。すると、魔力人間はぐにゃぐにゃと動き次第に足の形になった。
「カナ」
くっついた黒い足はアオ意志とは関係なしに動きはじめた。足の関節をまげて立とうとしたためアオはそれに従った。
「カナ。勝てる?」立ち上がると真っ黒な足を見た。すると、足は地団駄を踏んだ。「あ~、愚問だったね」
玉座の方を見ると黒い靄や霧のようなものが漂っているのが見えた。アオが足を見るとソレは指先を動かした。
「アハハ」アオは口を開けて笑うと右足には履いているブーツや靴下を投げ捨てた。更にズボンを捲り左足と同じだけあげた。「この方がバランスいいでしょ」
左足は嬉しいのかグルリと足先を回した。
「床、冷たくて気持ちいいね」
にこりと笑うと、剣を拾った。その時、靄が束になり無数の棘になると、鋭く先端がアオに向かってきた。
「なるほど」
アオはソレを軽く除けた。棘は壁に刺さると靄になり玉座に戻った。
「見えると問題ないね」
すると、靄は大きな刃物を作り出した。それは、部屋いっぱいに広がった。
「あらら」
避けるにしても逃げる場所がない。
アオは床を蹴り扉に向かった。しかし、扉まで着くと目の前で閉まった。
ちらりと背後を見ると刃物が重いためか棘のような速さはない。しかし、このままで確実に扉と刃に挟まれて細切れになる。
剣で扉を叩いたが、跳ね返りびくともしない。
「どうするかなぁ」
下を見ると、ミサキの血溜まりと肉の破片があった。
「……ミサキって魔道士だよね。身体には僕以上の魔力があるんだよねえ」そこまで言って頭をふった。「何を考えているんだ。僕は」
深呼吸をして、扉みつめた。
「よし」
気合いを入れると、剣を握り、扉を叩き切ろうとした。その瞬間、身体が何かに包まれる感触があった。
その感覚をアオよく知っていた。
アオの剣を扉にぶつかると大きな音を立てて開き、彼は部屋の外に転げ出た。
「――ッ」
床に全身を打ち、痛みを感じた。
顔を上げると見たことのある青いブーツが目に入った。
立ち上がると、目の前にいたのは涙目になっているカナタだった。
「俺はお前から離れねぇぞ」
カナタがそういった瞬間、鼓膜がやぶれるかと思うほどの音がなった。振り返ると刃が扉にあたった。その反動で扉がしまった。
「アオ」
怒鳴りつけるカナタをみると所々血で赤く染まっていた。
彼の後ろには赤の勇者がいた。彼女が口角をあげて笑っている所を見て、カナタが勇者の末路を知っているのだと悟った。
「俺はお前を殺す気なんてねぇ。それを誰かにやらせるつもりはねぇ」
「他の人にやらせるもなにも……」
アオは扉の下に広がっている血溜まりと肉の破片を見た。
それを見たカナタはまるでそれを知っていたかのように小さく頷いた。
赤の勇者はすぐにミサキに駆け寄った。
「ミサキ」叫びなら、膝をつくと肉の破片を手にした。
「そうなのか?」
カナタに見られて、アオは小さく頷いた。
「ミサキ、ミサキ」
赤の勇者は何度も名前を呼び肉の破片を見つめた。
その姿は痛々しく、かける言葉は見つからない。
「ミサキ」
彼女は微笑むと、持っていた肉の破片を口にいれた。
「え……?」アオは驚愕した。
赤の勇者は次々と肉の破片を体内に入れていった。すると、次第に赤の勇者の身体が黒ずんできた。
アオが止めようと足を踏み出すと、目の前に首をふったカナタがいた。
「あれ、マズイでしよ」
「まぁ、作戦の一つだから」
「はぁ?」頭を無造作にかくカナタにアオは大きな声を上げた。「あんなん暴走したらどうすんだよ。馬鹿なの?」
「そん時は俺が倒すよ」
「お前、魔道士だろ」
自信満々のカナタの頭を思いっきり叩いた。
久々に会ったが、『馬鹿』は健在であったとアオはため息を着いた。
肉の破片を食べ尽くした赤の勇者の身体は真っ黒になり勇者仮面が割れて床に落ちていた。
真っ赤な目は血走り、魔物のようであった。
「グルルル」
唸りを上げる彼女にアオは構えた。しかし、彼女はアオとカナタを襲う事なく扉を素手で叩き出した。大きな音がなり砕けた扉の破片が床に落ちた。その衝撃で、床にひびができ穴が開いた。
アオは呆然と立ち尽くしたが、カナタは頷き満足げであった。
「なんだ、その顔は。赤の勇者が魔物化してんだよ」
「カッコイイな」カナタは大きく頷いた。「魔力を取り入れてパワーアップだなぁ」
「はぁ?」アオは楽しそうなカナタに眉を寄せた。
赤の勇者は広間に入ると、すぐに玉座に向かった。すると、黒い靄はアオに出した物と同じ広間の端から端からまである大きな刃を出した。
避けることが出来ない刃が赤の勇者を襲った。しかし、彼女は逃げるどころかそれに立ち向かって行った。
「え?」
アオは刃が赤の勇者の腹部にぶつかりそうになると眉を潜めた。しかし、アオの予想に反して赤の勇者は無傷であった。
彼女と接触した刃が細かい粒子になって消えた。
「なにあれ?」
「お前魔力見えねぇんじゃねぇの?」
カナタは首を傾げたがアオの足を見てすぐに頷いた。
「足が関係してるのか?まぁ、見えなければさっきの刃から逃げられねぇもんな」
カナタがケラケラと笑うとアオは未熟さを感じ落ち込んだ。
「見えなかったから足をなくしたんだ」
「あ~」カナタにじっくりと左足を見られた。彼は何度か頷いた。「俺があげた人形か」
その時、赤の勇者の方で大きな音がしたため、アオとカナタは音の方をみた。
玉座に大きな穴が開き、黒い靄がすくなくなっていた。
赤の勇者はそれを好機と見たのか、靄を何度も殴りつけた。靄が減り玉座の背もたれに穴が開いた。
その時、玉座の後ろから今まで以上に濃い靄が現れると赤の勇者を包んだ。
彼女は呼吸ができないようで暴れている。
「カナタ」
アオは名前を呼ぶと駆け出した。するとすぐに全身が熱くなりカナタの魔力で全身を覆われた。いつもは感じるだけであったが今は彼の魔力に包まれていることがハッキリと見えた。
アオは剣を握りしめて、赤の勇者を包んでいる靄を切った。すると、中から赤の勇者の顔がでてきた。彼女は靄から這い出ると、その靄を殴りつけて粒子にした。そんな彼女の顔には表情がなく、まるで機械のようであった。
しばらく攻撃をしていると、靄がほとんどなくなった。
――封印必要ないじゃん
安堵した時、赤の勇者が悲鳴を上げた。その大きさにアオもカナタは耳をふさいだ。
叫びながら転げ回っている彼女の身体の穴から黒い靄が出ていた。靄はすこしずつ集まりはじめた。
「アオ、勇者の印だせ」
後ろからカナタの怒鳴り声が聞こえた。
アオは、彼の指示に従いマントと上着を脱ぎシャツになると二の腕にある勇者の印を出した。
『――……』
カナタは人差し指と中指を立てると顔に前に持ってきた。そして人語とはかけ離れた音を出した。それが始まると勇者の印が赤くなり熱くなった。
「うぅぅ」焼かれるような傷みに膝を付きそうになったが、『カッコ悪い』と思い足に力を入れた。
周囲にあった黒い靄がスーッと勇者の印の中に吸い込まれていった。黒い靄が身体に入ると視界がぼやけてきた。身体の自由がきかなくなり、足がふらついた。左足が地について動かなったのでなんとか立っていられた。
部屋の黒い靄が見えなくなった頃、身体に力が入らず後に倒れた。
「大丈夫か?」
カナタに受け止められて、床に寝かせられた。
「……」ぼんやりとする頭で自分の身体を見た。手足が赤の勇者のように黒ずんでいるのが見えた。
頭がぼうっとして何も考えられなかった。
「じっと、してろよ」
そう言われたが、動く事ができない。
勇者の印があった場所に触れられている感覚はあった。
寝起きの感覚をずっと続いているようであった。
「終わった」という声が聞こえるとカナタに担がれた。
床に赤の勇者だったと思わしき塊があった。黒くはなかったが、肉の塊のようになり人形を保っていない。
部屋を後にして、廊下、階段と運ばれた。来る時はあんなにいた魔物の影も形もない。
少しずつ、意識がはっきりとしてきた。
魔王城から出ると、近くの木の下に転がされた。
「お前、細いのに重いな」
カナタが横に座り悪態をついた。
「そりゃ」自分の言葉がはっきりと出ている事に安心しニヤリと笑った。「お前よりも二十センチ以上高いからな」
「おっ、元気そうで良かった」
カナタは目を大きくして満面の笑みを浮かべた。その表情が幼い頃にように鮮明に見えた。
「え……。鮮明?」
アオは自分の顔に手をやり勇者仮面がなくなっていることに気づいた。
「あぁ仮面?」カナタに顔をじっと見られた。「捨てた」
「はぁ?」
目を大きくして、カナタを見ると彼は変わらず楽しそうに笑っていた。
「魔王倒したんだ」
カナタにそう言われて、アオは勇者の印があった手をみた。そこにはもう何もなかった。
「勇者不要だろ」
ニッと笑うカナタにアオは頷いた。それから、自身の身体を見た。意識が朦朧としている時は真っ黒だった身体を元の色になっていた。
ただ、魔力で作られた足だけは黒いままだ。
「説明しろよ」
カナタを見ると彼は面倒くさそうな顔をして頭をかいた。
「赤の勇者の攻撃で弱った黒い靄つうか、アレが魔王なんだけど。赤の勇者に入り彼女の魔力と合体しようとしたぽいんだよね」
カナタは頭をかき考えながら話しているようであった。
「でも魔力オーバーで、身体が使えなくなって出てきた所をお前の身体に封じた」
アオは黒い靄が勇者の印に入り、身体が黒くなったのを思い出した。
「それが」カナタは自分の左手とアオの黒い左足を指さした。「魔王の魔力を吸収した。ついでに赤の勇者の魔力も吸収してたな」
「あ、赤の勇者は?」
アオは周囲を見たが、カナタ以外だれもおらす木々が風にゆれていた。目の前にあったはずの大きな魔王城も消えていた。
「肉の塊見たろ」カナタは肩をすくめた。「彼女が魔王を終わらせきゃ封印はできなかった。あの靄はすぐ武器になるからな」
「そうか」アオは頷いた。
赤の勇者と親しいわけではなかったが、もう会えないとなると寂しさを感じた。
「そういう約束だ」とカナタはつぶやいた。
「約束?」
カナタはその場に転がると空をみた。暗かった空が次第に明るくなってきていた。
「お前、なんのために赤の勇者のパートナーを魔王城に連れてきた?」
彼の言葉にアオはバツの悪そうな顔をした。何も答えずにいるとカナタは言葉を続けた。
「皆、知っていると思ったんだけどさ。パートナー以外の永逝魔法は効果ねぇーよ」
「え?」アオは驚いてカナタの顔を見た。
「魔力の波長が合う勇者とパートナー組むんだ。俺さぁ、その波長でお前を探したんだ」
――波長。
アオはミサキとその話をしたのを思い出した。
「カナタは魔力で人間を識別できるの?」
「当たり前だろ」さも当然というような顔をカナタはした。「魔力の波長は全員違うだろ」
「そうか.」
カナタは目をきょろきょろ動かした後、口を開いた。
「赤の勇者はミサキを取り戻したかったらしい。戦力として俺を連れて魔王城に来たんだ」
カナタは魔王城があった場所に見ながら話し始めた。
「我がミサキと共に魔王討伐を行う」
禍々しい魔王城の前にまで来ると、アカはカナタをじっと見た。
「えー」カナタは不満であることを全面に出した。「死にたくないねぇてやつか?」
赤の勇者はゆっくりと首をふり、少し考えて込むと魔王城を見た。
「逆だ。魔王を体内に封印して永逝魔法を掛けると勇者は死ぬ」
「うん?」
カナタは眉を寄せて考え込んだ。
「魔物倒す時と同じか。魔力を魔力にぶつけると魔力に絡んでるモンも破壊されるのか」
「……」アカは口を経の字に曲げてカナタを見上げた。「うぬが戦闘している姿を見ると忘れしまうが、魔道士なのだな」
「おう」カナタは頷いて魔力の塊を手のひらに出した。「だから、魔力で倒すって言ってんじゃねぇーか」
カナタは後を振り向くと無数のネズミの形をした真っ黒な魔物めがけて魔力の塊を次々と出し叩き込んだ。するとあっという間にネズミは動かなくなった。
カナタは周囲の魔力を確認すると魔王城の壁に寄り掛かり座った。
「あ、アオ奴に魔王の部屋に入ったみたいだなぁ」
「そんな事も分かるのか?」
「魔道士なら普通だろ。で、どうすんだ?」
「え……」
アカは驚いて黙り込んだ。それにカナタは目を細めた。
アオなら目的地についた瞬間、適格な指示が出た。だから、『勇者』とはそういった能力に長けているのかと思っていたため残念に感じた。
「だーから、ゆーしゃさまの作戦は?」
「いや……」アカは黙り下をむいた。「どうあがいても、我か青の勇者が死ぬ道しかない」
彼女は黙った理由が理解できた。
普通に考えればそうだ。
体を震わせながら片手を抑えて下を向く、アカがとても小さく見えた。実際小さい。常に堂々とした態度をとっているがカナタよりもずっと年下だ。
自分と同い年のアオと比較するのは酷だった。カナタは頭をかきながら、永逝魔法について整理した。
永逝魔法とは勇者の体内に封印した魔王を倒すモノ。魔王とは魔力だ。
永逝魔法は二回使う。一回目は勇者の印に魔王を吸収する。その後、勇者に周囲の魔力を吸収させて体内ある魔王と戦わせる。
永逝魔法の効果は魔力吸収。
そこまで考えるとカナタは立ち上がり、アカを見た。彼女は驚いて彼を上げるときょとんとした。
「おい、アレだ。永逝魔法は魔力吸収。存在が魔力な魔王を吸収した勇者から全部吸えばいんだ」
そう言って、カナタは自分の左手を見せた。
「なるほど」アカは頷いた。「勇者と通さずに直接魔王を左手に封印できないのか?」
アカの言葉にカナタは頭をかいて左手を見た。
「コイツ、空気中からの魔力を吸えねぇみたいなんだよな。生物からは積極的なのにさ」
アカは納得したようで頷いた。
「だが、魔王を吸収するために弱らす必要があるな。そんな簡単に封印できるならもう他の勇者がやっている」
「そだなぁ」カナタは頭をかいた。「魔王が魔力ということは魔導士しか見えねぇじゃねぇか?」
「ふむ」アカは腕を組んで首を傾げた。「魔力吸収にはぬしの左手が必要だ。勇者が死なずにすむなら永逝魔法は任せよう」
アカがそう言った時、カナタは目を細めた。
「どうした?」
カナタはアカの問いにすぐに答えられずに黙っていた。
「城の中で何か異変があったのだな」
アカの言葉にカナタは頷いた。
「ミサキが死んだ」
「……」
アカは口を強く結んだ。彼女の勇者仮面の隙間から涙がこぼれた。
しばらくすると、アカはカナタを見た。
「我がミサキの肉を食べ彼女の魔力を体内にいれて戦おう」
「マジ?」カナタは驚いた。
「それで魔力が見えるようになる。しかし、魔力の量が多すぎるから短時間しか身体もたん」
「いいのか?」
「ミサキのいない世界で生きたくはない」
アカの勇者仮面にはめこまれた赤い石がカナタを真っ直ぐ見た。
「あぁ」
パートナーがいない世界にいたくない気持ちをカナタは痛いほどよくわかっていた。
「そうか」話を聞いていたアオは頷いた。
「でも実際、アオの足があって良かった。俺の手だけじゃ終わってた」
そう言うとカナタは立ち上がり、アオに手を差し伸べた。
「で、これからどうすんだ?村に帰るのか?」
カナタの質問にアオはゆっくりと首を振った。
「帰ったら無事じゃすまないよ」
アオはカナタの手を掴み立ち上がった。そして、アオは自分の左足とカナタの左手を見た。
「僕らの体内には魔王がいるしね」
「そうだな」
魔王の魔力はカナタの左手とアオの左足に分かれて吸収されたため本来の力が発揮できず今は静かにしている。
「じゃ、旅するか。その辺の奴を倒して売れば食うのには困んねぇだろ」
「そうだね」
数時間後。
「ミドリ様」
彼女のパートナーであるソラがのんきな声で呼んだ。
「なんだ」
眠そうな声を上げながら、ミドリはソラに近づいた。
「見てください」ソラはサラチを指さした。「魔王城が消えていますよ」
「あ~。青か赤が討伐に成功したのか」
「どうします?」
「このまま旅を続ける。以前もいったが村に戻るつもりはない」ミドリはソラに向かって手を上げた。「それじゃ……」
別れの挨拶をしようとした時、上げた手がにぎられた。
「なんのつもりだ?」
ミドリが眉を寄せると、ソラはにこりと笑った。
「お別れなんて言わないでください。ボクにはミドリ様しかいません」
感動的なセルフを言っている彼の視線はミドリの胸にあった。彼女はそれに気づくと、大きなため息をついて、彼の手を強く握るとそのまま持ち上げて投げ飛ばした。
「わぁ」
ソラは木にぶつかると、地面に落下した。そんなソラに背を向けるとミドリは足を進めた。すると、ソラは慌てて彼女を追った。
その頃、勇者の休憩所ではユキノが料理をしていた。
「カナタは勇者様をつれて戻ってくるんかな」
いつも戻ってくるかわからない弟の帰りをユキノは楽しみにしていた。
勇者不在〜魔王討伐当日捨てられたけど、勇者を追いかける事にした。待っていたのは勇者を殺す未来だった〜 くろやす @kuroya44
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