第5話 再ログイン

「疲れたー」


 すずこさんはベッドに大の字でうつ伏せになります。


「今日は本当に疲れましたね」


 ゴーレムを倒した後、僕たちは保護していたカイトと共に町へと帰りました。


 その夜はカイトを無事連れ帰った僕らを町の人はたいそうもてなしてくれて、その後、町長から聖域と聖剣エクスカリバーの伝説を聞かされました。


 このイベントは以前の配信で内容を知っていたため、長ーい町長の話は苦痛でした。


「なんか眠くなってきた」

「僕も眠くなってきました」


 どうしてだろうか。ものすごく眠い。


「ちょっと休もうか」

「というか休むしかありませんよ」


 朝までは何もイベントはない。


「おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


  ◯


 目が覚めると目の前が真っ暗でした。

 頭に何かが着いているような。

 取り外してみるとそれはVRゴーグル。

 そしてここは僕の部屋。


(あれ? ログアウトしてる?)


 スマホで時間を確かめると夜の23時03分。

 僕は一階のリビングに向かうと湯上がりの母がいて、


「やっと起きた。ご飯はチンして食べなさい。それとお風呂は先にお父さんが入ったから」

「うん」


 僕はご飯をチンしてから食べて、そして父の後のお風呂に入って、寝た。


  ◯


 翌日の学校。


 朝礼が始まる前にクラスメートの武と美月がやってきて、「昨日の星咲すずこの配信見たか?」と武が聞いてきた。


「配信? あった?」

「見てねえのかよ」

「すごかったのよ。前代未聞よ」


美月が首を縦に振る。


「何? 何かあったの?」


 2人がすごく興奮するので聞いた。


「それがよ。『アルビオン』を最初からプレイしたんだよ」


(ん? 最初から? それって僕の……)


「でね。それが製作者も知らない予期せぬ事態の連続だったの?」

「予期せぬ……こと?」


 思い当たる節があり、嫌な汗が出る。


「それがね。アバターは星咲すずこの姿で、しかもストーリーも少し違ってるのよ」

「え!?」


 それはまさに昨日の……。


「で、もう1人の男と一緒に冒険するのよ」

「そしてその男ってのがマサヒロって奴でさ」


 武の言葉にドキッとする。


「もしかして僕?」

「はあ? 何言ってんだよ。全然違うっつうの」

「違う」

「うん。似てないね」


 美月が苦笑する。


(あれ? でも確かに昨日は僕が……)


「おーい。ホームルーム始まるぞー。着席しろ」


 担任の佐藤が教室に入ってきて、皆は自分の席へと着席する。


 左隣の美月が小声で、「後で見てみるといいよ」と言う。


「……うん」


  ◯


 放課後、僕はすぐに家に帰って、自室ですずこさんの動画を見た。


 そこには昨日の冒険が配信されていた。


 そしてそこに出ている少年マサヒロは昨日の僕と少し違っていた。


 けどそれは僕はだけでなくすずこさんもだった。


 僕もすずこさんもゲーム系のキャラとなっていたのだ。


 すずこさんは元々Vtuberのアバターそっくりだったからたいして違和感はなかったけど、僕は今の顔がゲーム系のアバターに変換されて違和感があった。


(でもどういうことだ? 昨日は配信ができないと言っていたはず)


 そこでスマホが鳴った。


 なんだと思い、画面を見ると【すずこ】と表示されていた。


 しかもダウンロードした覚えのないディスコから。


「え? ディスコ? すずこさん?」


 とりあへず僕は通話に出てみる。


「もしもし?」

「マサヒロ!? 良かった。本人ね」

「すずこさん!? どうして僕のスマホに?」

「知らないわよ。君の連絡先が載っているんだもん。連絡先交換してないわよね?」

「はい。していません」

「う〜ん。どういうこと? あっ!? 配信は見た?」

「全部ではありませんけどざっとは。どうして配信したんですか?」

「私ではないわよ。いつの間にか配信されていたのよ。もうわけがわからないわ」


 すずこさんが通話の向こうで憤慨していた。


「とりあへず『アルビオン』にログインして」

「今から?」

「そう。運営に昨日のことを話すとね、あれは全くの原因不明の不具合ってことなの。それで原因解明のため、もう一度ログインしてって言われたのよ」

「ええー!」

「お願い」


 すずこさんが甘え声を出す。


(ううぅ、そんな声出されると断れないじゃないか)


「配信しませんよね」

「うん」

「ログアウトはすぐにできるんですよね?」

「そこは分からない。でもウチの事務所やゲーム会社もモニタリングしてるから……たぶん大丈夫」

「えー」

「私もログインするから。ね? お願い」

「わ、分かりました」

「やったー。ありがと」


  ◯


 そして僕は『アルビオン』にログインした。


 再開は宿屋からだった。


 隣のベッドではハイエルフのすずこさんが座っていてメニューボードを操作していた。


「おはようございます」

「あっ、マサヒロ、起きた?」

「何してるんですか?」

「状況確認」

「状況?」

「ごめん。やっぱログアウトできないわ」

「ええー!」

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推しのVtuberと異世界冒険! 赤城ハル @akagi-haru

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