第4話 聖剣エクスカリバー

 僕達は墓場を抜けて森へと進んだ。進むたびにどんどん霧が濃くなってきた。


「確かカイトの悲鳴の方向に進んでいくんですよね」

「ええ。もしかして怖……いという顔ではないよね。何よその顔は」


 僕の顔を見て、すずこさんはむすっとする。本人も思い当たる節があるのだろう。


「いえ、配信を思い出して」

「集中よ!」

「ホラーゲームのように……プッ」

「うっさい! 笑うな」


 すずこさんは以前、このストーリーイベントでカイトの悲鳴以上に悲鳴を上げていた。


「SNSのトレンドにも上がってましたよね。確か『もらい悲鳴』でしたっけ?」

「もー! うっさ……きゃあぁぁぁ!」


 カイトの悲鳴が微かに聞こえ、すずこさんはもらい悲鳴を出した。


「向こうですよ」


 僕はカイトの悲鳴の方角を指差す。


「わ、わかってるわよ! 言っておくけど、カイトを助けるとボスが現れるから、あんたは下がってなさいよ」


 そう。カイトを救出すると大木のモンスターが現れて襲いかかってくる。


 倒すことができず、カイトと共に奥へと逃げ続けると聖剣エクスカリバーが刺さっている台座に辿り着く。


 そして聖剣エクスカリバーを抜き取って、それで大木のモンスターを倒すというのが今回のストーリーイベントだ。


「本当に霧が濃いわね。前はこんなに濃くなかったのに」


 もはや半径1メートルほどしか視界が開けていない状態で、それはまるで雲の中を歩いているような感じだった。


「すずこさん、悲鳴は聞こえますか? ……あれ? すずこさーん?」


 返事がない。


(あれ? もしかして離れちゃった?)


「う〜ん。どうしよう?」


 仕方なく、すずこさんを呼びかけつつ、ぶらぶらと歩いていると聖剣エクスカリバーの台座に辿り着いてしまっていた。


「あれ? 辿り着いた。……え? これって抜いていいのかな?」


 どうすればいいのか分からず、僕は独りごちて、左右をきょろきょろと確認する。

 聖剣エクスカリバーと僕。周りは霧で覆われている。


「抜くよー?」


 霧に問いかけるも、もちろん返答はなかった。

「仕方ない」


 僕は柄を握って上へと持ち上げる。


 トン!


「あっ、抜けた」


 聖剣エクスカリバーは何の抵抗もなく普通に抜けた。


(以前すずこさんの配信時はエフェクトや効果音があったはずだけど? もしかして偽物とか?)


 剣先を上にして、眺める。


 長年刺さっていたにも関わらず、錆や刃こぼれもない。まるで新品同様だ。


(本物……だよね。台座に刺さった剣なんてそうそうないだろうし)


 メニューボードで鉄の剣から聖剣エクスカリバーに装備を変えた。


 そして台座から離れた時、大きな地震が発生した。


「おっとと」


 僕はタタラを踏みつつもなんとか揺れに耐える。


 揺れの大きさからして震度6以上はあった。

 なんだろうと考えていると次にズシンという地響きが。それは何か大きなものが地面を強く踏みつけるような。そしてその地響きは徐々にこちらに近づいて来ているようだった。


 そして霧が徐々に晴れ、何が近づいて来ているのかが判明した。


「……でっか」


 地響きの正体は巨大なゴーレムであった。城壁を元に人型に作り上げた姿。


「こいつを倒せってこと?」


 しかし、本来のボスはオバケ大木のはず。

 こんなモンスターはいなかった。

 やはり今回のストーリーはどこかおかしい。


「ブゥオォォォ!」


 ゴーレムは雄叫びを上げ、右腕を振り上げた。


「くる!」


 僕はすぐに回避行動を取った。


 ダン!


 ゴーレムの拳が地面にめり込む。

 カウンターで先のエクスカリバーを使ってゴーレムの腰を叩く。


 ガン!


「くぅ〜〜〜」


 ゴーレムは硬く、衝撃の振動が手首へ伝わる。

「硬っ!」


  ◯


 もう何度目かの剣撃。


 ゴーレム自身はのろく、攻撃の予備動作も分かり易く、避けるのは難しくはない。


 けど、どんなに剣撃を繰り出してもゴーレムに傷がつけられない。


(どうしろって言うんだよ)


 こういう場合は弱点というものがあるが、どこが弱点なのか。


(頭かそれとも関節か? 膝裏は攻撃しけど効果はなかった。ということは頭かな? けど……高い。なんとかしてよじ登って……難しいな)


 そう考えた時、ゴーレムは違うパターンの仕草をし始めた。

 両腕を上にして、怒ったかのように雄叫びを上げる。


「な、何?」


 なんかやばそうな気がして僕は距離を取る。


 それが功を制したのか次のゴーレムの攻撃を避けることができた。


 なんとゴーレムは僕に飛びかかってきたのだ。


「プレスかよ。危な。あれなら一撃でぺしゃんこだな……ん!?」


 僕はゴーレムの背中に亀裂を見つけた。


(もしかして!?)


 僕はゴーレムが起き上がる前にゴーレムの背中に飛び乗って、背中の亀裂に剣先を突き刺した。


 すると──。


「ガアァァァ!」


 ゴーレムが悲鳴らしき声を発した。


「もしかしてこれか?」


 僕はもう一度、聖剣エクスカリバーを亀裂に向けて突き刺そうとしたけど、ゴーレムが暴れて振りほどかれてしまった。


「痛た。もう一度……」


 しかし、ゴーレムはすでに立ち上がっていた。


「マサヒロ!」


 なんとすずこさんがこちらに駆け寄ってきた。


「アイスアロー!」


 すずこさんは氷の矢でゴーレムの足元を狙う。氷によってゴーレムの足は地面に引っ付く。


「今のうちに離れて」

「ありがとうございます」


 僕は急いでゴーレムから離れてすずこさんの下に向かう。


「こいつなんなの?」


 すずこさんがゴーレムを見て、怪訝そうに聞く。


「聖剣を抜いたら現れたんです」

「抜いたの?」

「はい」

「はあ〜。なんか本当に手順やらなんやらがめちゃくちゃね。ゴーレムなんて敵いなかったわよ。それに聖剣を抜くにはカイトの案内が必要だし」

「カイトはどうなりました?」

「見つけた。そしてオバケ大木も倒した。今は危ないから隠れるように言っといた。さて、どう倒したものかしら?」

「背中の亀裂が弱点です」

「オッケー」


 けどすずこさんがゴーレムの背中に矢で攻撃しても倒れる気配はない。


「これってもしかして聖剣で突き刺さなければ駄目ってやつじゃない」

「ですかね」


 すずこさんの攻撃では無反応なのに初心者の僕が聖剣を刺しただけで悲鳴を上げてたのだ。これはそういうクリア条件なのだろう。


「ゴーレムは一定の間隔でプレス攻撃をするんです。その時がチャンスです」

「それじゃあ、足を止めるのは駄目ってことね」

「はい」

「分かったわ。プレス攻撃してくるまで、ちまちまと駆け回りなさい」

「……ん? 僕だけ?」

「私は遠距離タイプだし」

「ええ!?」

「援護射撃するから。ほら行った!」


 僕はすずこさんにおもいっきり背中を押されました。


「もう!」


 再度ゴーレムに近づき、敵の攻撃を避けつつ、プレス攻撃を待つ。


 ドン!


 避けることに集中してたせいか後ろの壊れた壁に背中をぶつけた。


「やばっ」


 ゴーレムからの攻撃が避けられないと思ったら、


「させないよ!」


 すずこさんの援護射撃によってゴーレムの動きが一時的に止まる。


「ありがとうございます」


 ゴーレムはすずこさんの援護射撃に怒ったのか、視線をすずこさんに向けます。


「お前の相手は僕だ!」


 僕はゴーレムの左足をエクスカリバーで叩きます。

 そしてゴーレムは足元の僕に視線を戻します。


「鬼さんこちら手の鳴る方へ!」

「フゴォォォ!」


 ゴーレムは両手を上げました。


(この予備動作はプレスだ!)


 そして予想通りにゴーレムは僕に向けて倒れてきました。

 それを僕は右へと飛ぶことで回避して、すぐに立ち上がり、ゴーレムの背中に乗りました。


「これでお終いだーーー!」


 僕は叫び、聖剣エクスカリバーをゴーレムの背に突き刺しました。


「グゴォォォ!」


 ゴーレムは両手足をじたばたしていましたが、しばらくして電池が切れたおもちゃのように止まりました。


 僕は聖剣エクスカリバーを抜いて、ゴーレムの背中から地面へと飛び降りました。


 するとゴーレムは黒い灰になり、そして散り散りと消えていきました。


「終わったねマサヒロ」

「はい」


 僕達は喜び、そしてハイタッチしました。

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