北斎の「富士越龍」の龍の向きについて

九月ソナタ

富士越龍(ふじこしのりゅう)

今日は葛飾北斎の「富士越龍図」についてです。

(近況ノートに図をアップしてあります)


絵図には、黒い煙を吐く富士を超えて、痩せた龍が昇っていこうするところが描かれています。

北斎(1760-1849)は生涯でたくさんの龍を描きましたが、この龍が一番貧弱ですよね。これは老いた自分が高みを目指して昇っていま様子を描いたといわれています。

また日付が嘉永二己酉年正月辰ノ日と書かれていて、晩年のお正月に描いたことがわかっています。

彼は五月十日に亡くなりました。

今日ですよね。


それで、書こうと思ったわけですが、私にはこの絵について、私の発見ではないかしらと思うことがあります。

この図で注目したいのが、龍の向きです。この龍は右上に向かって動いています。


私はよくアジア美術館に行くのですが、そこの中国と韓国の部屋に行きますと、龍が描かれた壺、皿、掛け軸などがそれはたくさんあります。いつか、展示中の数を数えたことがあるのですが、27でしたか、でも詳しいことは忘れました。

それでは発見というのは、その全部の龍が左に動いている姿が描かれていたということです。


それで、おもしろいと思って調べてみたところ、龍は普通、右から左に移動するというのです。ぐるぐる回っていきますから、時には逆向きにはなりますが、方向としては顔を左向きにして進みます。

また、水を飲む場合などは左から右に下りてきたりもしますが、下りてくる時、のんびりしている時は方向は関係がありません。

でも、勢いをつけて移動する時には、右から左に動き、その時に特別のエネルギーが出るのだそうです。


ところが、この富士越龍の痩せた龍は恒例の方向ではなく、その逆、顔を右に向けて昇っていっています。すごいことです。

これは誰も描いていない図です。中国の図にも、ありません。

つまり、北斎は新年にあたって、九十近くになっても、よぼよぼになっても、反骨精神を持ち、もっと生きて、もっと絵を極めたい、そういう心意気がこの龍の向きに表れていると思うのですが、どうでしょうか。







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