第4話

「…あの、ジャスル?」


私以上に、この状況をどうしようかと顔が真っ青になっている魔界の王がそこに居た。

まぁ…確かに家族のことを考えると、私だってどうしていいかと動転してしまったけれど、でも、過ぎちゃったことは仕方ないわね。

それよりも、できるだけ早く手紙を出せるように頼もう。


「ジャスル。

ほら、落ち着いてくださいませ。

もう2度とこのようなことが無いように、いっぱい反省して下さいね。

ジャスルには知らない人たちでも、私の大事な家族です。

貴族の令嬢が居なくなるとは大変なこと…なんです。

それとね。

その…、あちらの世界に行くことはできますか?」


私を妃にと、この世界に転生した時から望んでくれていたジャスル。

私の為にといろいろと動いてくれていた。

それはもう、真っ直ぐにに私だけを見て。


だからって、このまま魔界に…とはいかない。

きちんと今後のことを考えなければいけない。

そんな私に、魔界の王は威厳すらも感じられないような…、捨てられた子犬の様な表情で尋ねる。


「行くことはできる。

…だが、あちらに戻ってしまわないか?

フィアをやっと手に入れたのに。」


「ジャスル、私は物じゃないわ。

自分の考えも持っているし、大切な人達もいる。

だから、ちゃんと考えて、そして、あなたのことも、これからもっと知っていきたい。

あなたが私を想ってくれていたからって、そんな、いきなり妃になんてなれないけれど、その…。

少なからず、ジャスルのことは嫌いでは無いわ。

多分、愛して貰って、くすぐったいし、嬉しくも思っている。

だから、ちゃんと一緒にこれからのことを考えていきましょう?」


私には、王太子殿下に愛を伝えられても「どうせ婚約破棄される」と、真っ直ぐに私を見てくれていた彼の気持ちを無下にしたという後悔がある。

それに、最推しだった魔王様が私を探してくれて、守ってくれて、待ってくれて、ずっと愛してくれていた。

嫌な気はしないに決まっている。

だけど、ゲーム終わりましたから結婚!とはならない。

もう少し、時間が欲しいし、私も愛するということを知りたい。


「…本当にすまなかった。

だけど、本当にこれまでずっと待ったんだ。

一緒に過ごして考えてくれるのであれば、待つのは慣れているから構わない。

フィアの心を尊重する。」


そう言って私の髪にキスを落とした。


ねぇ、その不意打ちって…。

もう、やめてよー。

すぐに堕ちそうになるから、その無駄に放つ色気とイケボと最上級の美しい顔、近づけないで…。


「フィア、顔が赤いぞ?

もしや、ショックで熱まで出てきたか?」


ううん、違う、あなたの顔と声のせいよ。


その時、扉側から咳払いが聞こえた。

ルイス様だ。


「レターセット、持ってまいりました。」


「あ、ありがとう。」


真っ赤な顔を仰いで冷やしながら、ペンを執った。


「フィア、その…。

今更なのだが、きちんとそなたの家族に会っておきたいのだが。

謝罪もしたい。

それから、フィアへの愛も伝えたい。」


愛って…。

お父様とお兄様、大丈夫かしら?


「あの、それは、私と一緒に来て下さると?」


私の問いにジャスルよりも先にルイス様が答えた。


「それは当然です。

大事なお嬢様を誘拐してきたのですから。

ジャスル。

ダリア公爵は娘を大切にしていると、溺愛しているということですので、覚悟なさい。

あぁ、ダリア公爵令息も父に負けないぐらい妹を溺愛されてますからね。

お詫びとして、魔界に広大な領地でも準備しておきましょうかね。」


「ルイス、脅さないでくれ。」


そんな2人のやり取りに、不謹慎にも吹き出してしまう。


「ふふっ。

お2人は仲がいいんですね。」


「…いえ。

奥様、これは仲がいいとは言いません。

幼少期より一緒に過ごしてきた私しか、このポンコツ…じゃない、王であるジャスルを叱責することができないので、嫌々小言を言っているだけです。

それに、これからはジャスルを窘めるのは奥様のお仕事ですからね。

この人、たまにとんでもなくやらかすので。」


「…だから、まだ奥様ではないです。

それに、ジャスルがやらかしても、私ではルイス様みたいには叱れません。

お2人のやり取り、見ていて私が楽しいので、引き続き宜しくお願いしますわ。」


そんな私の言葉に、「はぁ…」と溜め息をつきながら、出ていくルイス様。

その姿を見送ったジャスルは口を開いた。


「フィア。

あれは俺にとって、大事な…たった1人の右腕なんだ。

俺に対しての口は悪いが、心から信用できる。

そなたを想う俺をずっと助けてくれていた。

仕事もあいつ以上にこなしてくれるやつはいない。

これから何か困ったことがあれば、ルイスに話せ。

まぁ、1番は俺に話して欲しいが。」


「ふふっ。

はい、わかりました。

手紙、ルイス様にお願いしますね。」


そして家族へ向けて。


「お父様、お母様、お兄様。

ご心配おかけして申し訳ございません。

私は何も心配される様なことは無く、楽しく過ごしております。」


私の中では時間経ってないもの。

ジャスルとルイス様のやりとり、楽しんじゃってるし。

ご飯も普通に美味しかったし。

人間の食べ物と同じなのかな?


会いに行くって書こうとして、ジャスルのことは何て書けば?

魔王様?

ううん、いきなり駄目ね。

婚約者?

ううん、それも絶対駄目。

みんな、泡吹いちゃうわ。


うーん…。

あ!

保護してくれてる人でいいか。

さすがに誘拐したっては書けないもの。


「一度、私を保護して下さっているジャスル様とお目通しをお願いしたいと思っています。

宜しくお願い致します。」


俺の紋章を使えばすぐに届くと打ってくれた蜜蝋。

これ、いろんな分野を勉強されているお兄様は気づきそうだけど、早く届くなら…まぁ、いいか。

私は、ルイス様に手紙を預けた。





手紙を手に、ダリア公爵家の前に立つルイス。


「ったく、この紋章があれば異世界間も検閲無しに通せるけど、俺に届けさせるなって…。

ただでさえ忙しいのに。

その上、面会の日取りも決めてこいだなんて、いっそ俺がこっちの世界に移住しようか…。」


そう言いながらも、大事な友のやっと叶いそうな恋慕に協力するルイス。

そして、門番に尋ねた。


「失礼、ジョシュア・ダリア様はご在宅でしょうか?

妹君のオフィーリア様からの手紙を預かって参りました。」

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断罪エンドを回避していたら、シークレットキャラに捕まってしまいました~強制力により、婚約者様は聖女にとられましたけど~ わん.び. @one_bi

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