最終話 甘くてスパイシーな侑李くんは、かわいくもある
結局のところ仲直りはできていない。
レギュラーと他の部員はメニューが違うから話す機会はないし、クラスは離れてるし。なんだか連絡しにくいし。私は
「
「え、わかるの?」
今日も私は
おいしいお菓子はもちろんのこと、彼はいつも優しく私の話を聞いて励ましてくれるから、とっても居心地がいいんだ。
「モヤモヤしてます、って顔してるよ」
「ごめん、せっかく呼んでくれたのに……」
「ううん。そういう正直なところ、かわいいよね。そんなときはお菓子を食べて元気出してよ」
「あ、うん……」
彼ってたまに、ああいう反応に困ること言うんだよね。やっぱりモテるから、みんなにサラッと言えちゃうのかな?
「はい、今日はマドレーヌだよ」
「おいしそう、いただきます!」
かわいい、貝殻の形のマドレーヌ。口に入れるとふわふわで、バターの香りとハチミツの甘さが広がって、幸せな気分。
少しだけ、元気が出たな。
「よかった、ちょっと元気出た?」
「そんなこともわかっちゃうの?」
目の前に座っている佐藤くんが、肘をついて目を細めた。
なんでもお見通しと言いたげなその表情は、同い年の私よりずっと大人びて見えた。
「ううん、俺が
「ありがとう、元気出たよ」
私は
そんなにやさしい気持ちで作ってくれたから、こんなにおいしいんだ。そういえば、このマドレーヌは食べると心の中がポカポカする気がする。
「そうだ、
「え、いや、混ぜて焼くだけだから簡単な方だけど……どうしたの?」
私はテーブルに手をついて立ち上がり、
「お願い、私にマドレーヌの作り方を教えてください!」
「え?
「うん! お願いします!」
急に勢いづいた私に、
「もちろんいいよ。おいしくて思わず笑顔になるようなマドレーヌを作ろう!」
「ありがとう、
日曜日。部活が休みな今日、私はまた
「いらっしゃい!」
「おじゃまします。
「ううん、気にしないで! 俺、すっごく楽しみしてたんだから」
生地を寝かせる時間が必要って聞いたから、朝の一〇時からお邪魔してしまった。
私が持ってきた紅茶の詰め合わせを渡すと、彼は「ありがとう」と言ってそれを受け取って笑みを浮かべた。
「さて、さっそく始めようか。本当に材料計るのとか全部自分でやるの?」
「うん、がんばってみたい」
教えてもらうんだから、せめて全部自分でやらないと。心を込めて、最初から最後まで、丁寧に。
「了解! じゃあさっそく小麦粉やグラニュー糖を……」
「うん、これくらいかな?」
「あ、
「え! どうしよっ」
教えてもらったのに序盤からいろいろトラブルはあったけど、その度に
「よし、一度生地を寝かせるよ」
「うん!」
ここから二時間置いてから焼くらしい。
その間に私は
「じゃあ、オーブンを一八〇度に温めて、生地を型に流そう」
「わかった!」
ゆっくりと、丁寧に、心を込めて。私は型に生地を流してオーブンに入れた。
「うちのオーブンだと一八分にセットして……よし! 待とう!」
「うん!」
待ってる間に私は道具の後片づけ、
そして、一八分後……。
「できたよ、熱いからオーブンから出すのは俺がやるね」
「ありがとう」
粗熱が取れてから、ふたりでマドレーヌを食べてみた。
ふんわりと、しっとりと、バターと蜂蜜の風味。幸せの味がした。
これで私の気持ち、伝わるかな?
「
「なんで?
彼は目尻を下げて紅茶を一口飲んでいる。
「わかるよ、
「え、そ、そっか……」
また返事に困ることを言う。
私は恥ずかしくなって、俯いて紅茶を飲んだ。
「
「ううん。むしろ
私はにっこりと微笑む彼にペコっと頭を下げる。
「ええと……あ、ラッピングも手伝ってくれてありがとうね」
「たいしたことしてないよ。うまくいくといいね、
「うん。本当にありがとう。今度お礼させてね」
いつも笑っていることが多いから、こんなに真剣な顔って初めて見るかも。
なんだか胸の奥がソワソワする。なんだろう……この気持ちは。
「じゃあ、もし
「え、名前で?」
「いつまでも「
「あ、はい。わかりました……」
あれ? 今、あさひちゃんて呼ばれて、顔が熱くなってきた。
電車に乗って
そして次の日。部活帰りに私は報告も兼ねて彼の家に向かった。
インターホンを鳴らして、出てきた彼にまずはお礼を言う。
「
「あ、あさひちゃん……」
私はそんな可愛らしい
侑李くんは、甘くてときどきスパイシー〜ふたりなら、きっとどんな夢も叶えられるはず〜 松浦どれみ @doremi-m
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