第5話

「私、マトリョーシカみたいな子供たち、とっても可愛いと思う!」

「え、うん…?」

 ベンチに並んで座り、肩に頭を預けている私の親友。

「たけのこみたいに、毎年、ぽこぽこ産めばいいと思うよ! 私、お産婆さんやるし。子育ても手伝うし!」

 親友、小石川菜摘こいしかわなつみの頬に紅が差す。

他人事ひとごとだと思って…」

 ぽつりと呟く。

「え、おりりん。まさか、男の人が怖いの?その、同衾が…」

「どうきん? あ、ああー…。そういう意味だったか…」

 小説くらいでしか使わないよな…。同衾。菜摘が手の指をからめてくる。

「いや、あなた、九州中の女子校で、ブイブイいわせていたのに。あら、そう…」

 変な顔をしているのに、顔をしかめる。

「あのね、だって、相手は男の人なのよ。解る?」

「うん。だから、子供ができるんだよ」

 平然と言う。私は、顔を赤くした。耳元で囁く。

「女の身体にはね、男にしか押せないスイッチがあるの。そこを押されると、それはもう夢中に…」

 菜摘がけらけらと笑う。

「いいじゃない。夫婦なんだから」

「夫婦。夫婦ねえ~…」

 腕組みして、頭を左右に大きく振る。そこで、がしっと両腕を掴まれる。

「聞いて。おりりん。私、おりりんが死んじゃったあと、京都に行ったの。あなたの家族に会いたくてね…」

 そうして、何故か、目を逸らす。

「その、気を悪くしないでね。あなたの家族って、みんな…」

 目が合う。

「陰気」

 声が重なる。一瞬、間があって、二人して笑い転げる。なんとか、息を整える。

「そうなの。凄絶な美貌って、ああいうのを言うのね。でもね、だからこそ、おりりんは明るい血を受け入れるべきだと思う。初恋がお兄さんでもいいのよ。実質、チャンスはこれしかない訳だし。私はおりりんにこの話を受けてほしいと思っている。あなたのお兄さんは、圭一けいいちくんの娘と結婚したんだからさ」

 理屈は解るけれど。口をへの字にする。

「私、生きていたら、あーちゃんの子供をものすごく可愛がったと思う…」

 鼻の奥がつんとする。菜摘が抱き締めてくる。

「いいのよ。お母さん二人で、これからやってくる子を甘やかしましょう」

「これから?」

 菜摘を見て、空を見上げる。

「私、子育ても手伝うけれど、平生は探偵をするつもり。ただふわふわとしているだけなら別に構わないらしいのだけれど。保健室の佐倉さくら先生が言っていたから。ねえ、面白そうじゃない?」

 にっと笑う。

「私も、やりたい」

「いえーい!」

 声を重ねて、ハイタッチ。

「あ、そうだ。お姑さんからもらってきたよ。ざる被った犬!」

 言わずもがな、安産祈願の置き物である。

「やっぱり、子供…。子供なんか、産めるのかしら…?」

 懐疑的になってきた。第一、死後結婚というのは聞いたことがあるが、これは生者と死者の結婚なのだ。いいのか…? そのことを菜摘に話す。

「なんかね、あの人はちょっと血筋が特殊らしいから。まるっきり、ただの人間という訳でもないというか…」

 煮え切らない。

「妖怪か何かなの?」

「神様の子供だって。座敷童子!」

 とんちんかんな答え。唇に手を当て、あの人を思い出す。なんだか一緒に居るだけで、身体がほかほかしてきそう。

「じゃあ、捨てられたら、没落しちゃうねえ…」

「いや、妻子だから、そういうの関係ないんじゃない?」

「そうかなあ。うん、でも、楽しみになってきたかも。七夕!」

 二人して、笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

御師と七夕 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ