雨女の美学
雨の中、傘も差さずに歩く女子高生。
長身すらっとした体を少し前に倒し、雨粒をすべて前頭葉で受け止めている。
濡れた長い黒髪は、オイルをつけすぎた時みたいになっている。
紺色の制服は、きっともっと薄い色だったのだろうが、とにかく、濡れに濡れていた。
ここで一つ疑問に思う。
ああいう人種は基本オシャレな折り畳み傘を常備しているはずだし、なにより今朝、鏡の前で気づいたはずなんだ。
ああ、今日は雨なんだ、って。
まとまらない髪に舌打ちをする年頃なはず。とすると彼女は表面を着飾ることに執着していないタイプの、今ではめづらしい生物なのかもしれない。
部屋に鍵がついていることもない。
父親の下着と自分の服が一緒に洗濯されても特に何も感じない。
自分に娘ができた日には、是非こんな絶滅危惧種に育ってほしいものだ。
しかしまあ、本当に目と鼻の先なのだ。パソコンが入っているとはいえ、20メートルごときでダメになる程粗悪なものを使っているつもりはない。家に着き次第速攻で取り出せば、湿気によるダメージもない。
じゃあ貸してあげてはどうか。
いや、急に声をかけられたら恐怖かもしれないし、彼女の家もすぐそこだったら恥をかくだけだろう。
結構綺麗な子じゃないか。
それは関係ない、下心で話しかけるんじゃないんだし。
ただまあ、容姿がブスってわけでもないから、避けられることはないはずだ。いや、逆にチャラいと思われて終わるのか?
そもそも、譲渡ではなく貸与な訳で、お互い面倒臭くないかそれは。
そんなことを考えているうちに家に着いた。
今から追いかけて、これ!というのはいささか変だし、そこまでして何になる。
ただこの心の底の方を引っ張っているのはなんなんだ。
雨の音が好きだ。香りも見た目も。なんならあの暗さだって、日焼け止めが必要ないんだから節約になる。
しかし一度外に出てしまえば、嫌なことばかりだ。
傘の傾きを気にして注意が削がれ、常にズボンの裾をいちいち確認して歩き、上はおろか、水溜りを気にして前すらまともに見れない。
その分時間の経過が早くて助かるが、普段できることができない。判断も鈍る。聞いた話によると交通事故件数は五倍に膨れ上がるらしい。
風との相性もいいのか悪いのか。
明日も雨らしいが。
傘、もう一つ持って行ってみようかな。
桃の木のなる頃に。 ねあ @ner_kpop
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。桃の木のなる頃に。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ミステリィとオカルト好きの独り言最新/野島製粉
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 54話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます