ハルトの傍ら

“お前にはあれが見えるのか?”


僕にはそれがはっきりと見えた。


“お前はあれをなんだと心得る?”


「今日はなんでそんな喋り方なの?」


“いや、今それ気になる?さっきまで見事に全部スルーしてたくせに。”


普段は普通に話すのに、その日はなぜかお侍さんのような喋り方をするから、すごく気になった。


“俺は古い人間だからな。たまには使わないと、すぐ忘れるだろう?”


そんなものなのかと、半分適当に理解して、目線をもとに戻す。


「死神さん、あれはなんなの?」


“わからん。俺も初めて見た。”


僕らは、雨に濡れて黒く輝くマンホールの上の、そいつから目を離せなかった。


夕方、いや朝方だったかもしれないが、そいつの体に反射した空が、鮮やかな黄色だったことだけ覚えている。


「どうする?食べる?」


“おいおい、お前一昨日、テーブルの上の惣菜の妖怪食って、腐った味したって言ってなかったか?不味いかもしれないぞ?”


「だって昔食べたバナナっていうフルーツみたいな色してるよ?おいしかったと思うけど、、」


あいかわらずこちらをじっと見つめるそいつの体は、ところどころ土で汚れている。


“試してみるか。”


おいしくはなかった。


それでも何もないよりはいいなと、お互い顔を見合わせた。


「ちょっと甘かったね。」


“そうか?俺が食ったとこは苦かったぞ。”


「言ってくれれば分けたのに。」


“いや、俺は苦いとこが好きなんだよ。”


そんなものなんだと、半分適当に理解して、目線を上げた。


「食べたのにまだいるね。」


“よほど強いんだな。”


なんのことかわからなかった。しかし不意に、僕はそいつを仲間にしたいと思った。


「連れてっていいかな?」


“うん、こいつは天狗のやつより強そうだ。お前を守ってくれそうだよ。”


なぜだか急に寂しくなって、聞き返した。


「死神さんは?」


暖かな笑みと共に、揺らぎの少ない落ち着く声が聞こえてくる。


“もちろんお前を守るさ。でもちょっとお出かけしなきゃいけなくてな。”


「背中、まだ痛い?」


“いや、全然大丈夫だ。お前こそどうだ?”


「平気!全然痛くない!」


“そりゃよかった。”


今思えば、悲しそうな顔をする死神の背からは、赤黒い何かが噴き出ていた。


“じゃあ、、、行ってくるわ。達者でな。頼んだぞ新入り。”


死神さんの目線の先、濡れたマンホールの上、黄色いそいつがじっと見てくる。


“これからよろしくな!”


「よろしく!」


そういうとそいつは横にふらふらしながら近寄ってきた。


“名前は?”


「ハルト!あなたは?」


“それはお前さんが決めな。”


少し悩んで、


「じゃあ、、、マンホールお化け!」


“いいなまえじゃねえか!ありがとよ!”


それからしばらくはそのマンホールお化けと共に生きた。


途中、ガジュマル、ももた、ノワール様なんかもお出かけして行ったが、


彼だけは僕の元を去らなかった。


死神さんとは違って、なんというか、うるさい用心棒みたいな感じだ。




こうやって出会いと別れを繰り返した。


死神さんも含めて、50以上の友達が出かけていった。


マンホールお化けのように残ってくれる友達もいた。


今ならわかる。去った彼らが背負っていった荷物の重さを。


ちなみにマンホールのお化けだった彼には今、ベンケイという名前がある。


一番長く一緒ににいると思う。





僕の傍らには7人の友達がいる。


中には僕からは見えない奴もいるが、みんなで僕を守っている。


僕の傍らには7人の家族がいる。


若干反抗期の奴もいるが、みんなで僕を守っている。


僕の傍らには7人の自分がいる。


喧嘩をたまにすることがあるが、やっぱり変わらず、


みんなで僕を守っている。




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