【2-3】 初顔合わせ 下


【第2章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330664586673465

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 エリス港の岸壁で開かれた、レイス隊によるは、にわかにお開きを迎えた。


 同僚たちをする間も、キイルタ=トラフ中尉の蒼みがかった黒髪は、1本たりとも乱れることなく後頭部にまとめられている。


 それは、彼女の意志の強さを物語っているようだった。


 新たなオーナーたる宰相息女コナリイ准将閣下へのご挨拶――それを段取っているのは彼女であり、まで道半ばなのだ。



 無数の桟橋が伸びる巨大な港湾を抜けると、無数の線路を束ねる広大な駅舎が視界に入った。


 海路に続いて鉄路と、切符の手配にも副長に抜かりはない。


 こうして、休む間もなく汽車に揺られること数時間、レイス一行はようやく帝都・ターラの城門をくぐった。


 旧都・ノーアトゥーンから帝国東岸領を経て、大海アロードを渡り、そして帝都へ――およそ1カ月の旅を終えたのだった。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277



 彼等は、その足で新たな上官――執務室の門を叩いたのである。




「長旅、ごくろうさま!」

 コナリイ=オーラムは、さわやかな金髪に水色の大きな瞳を持つ美少女に育っていた。


 セラ=レイスとその部下たちによる祈りが、太陽神へ通じた瞬間でもあった。


 彼等は内心(アシイン=ゴウラだけは実際に)、ガッツポーズをかます。彼女が父宰相や兄上級大将に似なくて良かった!と。


「?」

 来訪早々そわそわしている新参者たちに、コナリイは金色の頭をわずかにひねっている。



 コナリイ帷幄いあくが詰めている煉瓦造りの建物は、帝国陸軍省関連の施設が並ぶ街区にあった。


 准将執務室は、最上階――3階にあり、南側にバルコニーを持つ。


 そこには、陽光が差し込み、少女の肌や髪をいっそううるわしいものにさせている。彼女が袖を通す軍服――少女用の特別仕立ての制服――も照らされ、見る者に線の細さを印象付けた。



「これ、どーぞ」「はい、よろしくね」

 コナリイの小さな手が、はじめにレイス・次いでトラフ、さらにゴウラ以下1人1人に差し出される。


 そこに握られていたのは、リボン付きの紙袋であった。なかには、可愛らしく包装された焼き菓子と瓶詰が収まっている。


 彼女自身で焼いたクッキーであり、煮込んだ苺ジャムとのことだ。少女なりの歓迎とねぎらいの表現なのだろう。


 もっとも、着任の挨拶でラッピング済みのお菓子を振る舞われた将校など、帝国史上はじめてのことかもしれない。


 レイス隊(帝国陸軍?)随一ずいいちの天然娘――本人は認めていないが――レクレナですら、紙袋を手に戸惑いいる。



「あら、いやだ」

 レイス麾下の人数からすると紙袋が1つ足りないという。少女閣下は菓子とジャムのセット数を間違えたらしい。


 紙袋こそ人数分あるではないか――紅髪の中佐以下は、テーブルに残る1袋を見つめる。同時にその袋に、全員が違和感を覚えた。


 その紙袋だけが、ガサゴソという物音と共に揺れていたからだ。


「これは、うちの部下ダーモットに渡す分なの」

 と、コナリイはてへへと舌を出している。


 彼女はパタパタと執務デスクに戻ると、引き出しから小さな包みを取り出す。ちょっと失敗しちゃったヤツだけど――言い訳しながら、カムハル少尉へとそれを差し出した。


 少尉はその包紙を両手で受ける。猫背を反るようにして恐縮しながら、



 ――悪い奴じゃねぇ、な。

 新たなオーナーを見直していたのは、他ならぬレイス自身であった。彼は不格好な焼き菓子を躊躇なく口に放り込む。


 その人物眼は、嗜好しこうによる影響が大きいのかもしれない。彼は大の甘党だった。


 隊随一の肉体派・ゴウラですらひるむほど、出航前に山と買い込んだビスケットも、レイスは3日のうちに食べつくしてしまった。


 その後、石炭や真水に食料を補給するため寄港したリーア諸島では、彼は菓子を満足にことが出来なかった。


 ヴァナヘイム領で続いた戦争のため、小麦粉や砂糖が島々に行き渡っていなかったからだ。


 つまり、帝都に到着したばかりのレイスは、糖分に飢えていた。コナリイによるねぎらいは、干天の慈雨かんてんのじうだったといえよう。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。

新キャラ・コナリイもちょっと天然だった?そんな少女の活躍に期待いただける方、

ダーモットに何を渡すつもりなの――揺れる紙袋の中身が気になる方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「初めてのごはん」お楽しみに。


コナリイは会話を中断させられることを嫌がった。


「ファディ、それくらい自分でできるわ」

もう子どもじゃないんだから、と少女はいやいやする。口元を汚したまま、そっぽを向こうとするから、ソースは頬にまで広がってしまった。

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