【4-10】 杯と愚痴と 下
【第4章 登場人物】
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新生ブレギア軍に、宿老衆の居場所は無くなりつつあった。
世代交代という使い古された言葉は、歴戦の勇将たちにも無縁ではなかった。
クェルグ=ブイク、ベリック=ナトフランタル――老将2人は、明るいうちから飲み始める日も増えていく。
陽が西に沈んだ時刻、ふらついた足どりで、宰相の質素な邸宅まで押し掛けることも珍しくはなかった。
宰相・キアン=ラヴァーダは、執務の途中であっても、宿老たちを追い返すことはなかった。必ず酒客を自邸に招き入れると、召使に酒肴の用意をさせ、彼等の話を聞いては、なだめるのであった。
この日も、
その端にラヴァーダも正座して向き合い酌をする。頭の後ろで束ねられた銀色の髪を床に垂らしたまま。
この国の先住民たちといち早く融和するため、取り入れた異文化であったが、辺境での暮らしが20年以上に及ぶ彼らは、祖国とは異なる習慣にいつの間にか適応していた。
もっとも、トゥレムやブリアン等レオンの補佐官たちの目には、「帝国の誇りを捨て、蛮民におもねるようなやり方」としか映らなかったが。
「こんなことであれば、先代が
「この国は、帝国やシイナに挟まれ、1日たりとて
父親のような年齢の宿将たちに対し、ラヴァーダは役職地位に関係なく敬語を使う。この秀麗な宰相は、老将たちの存在がなければ、自らの戦績は残せなかったものと痛感しており、敬服の念を常に持ち歩いているのだ。
第1部【4-6】産を殖やし業を興す 下
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「なんの。あの小僧どもが立派に戦っておるではないか」
「そうじゃ、先代が落とせなかったエルドフリームを、小僧どもは攻略したからのう」
ひとしきり酒を飲み干すと、彼らはきまってテーブルに突っ伏してしまう。勢いで肴が散乱しても構わず。
「エルドフリーム城塞攻略で最前線に立たれたのは、ブルカン将軍以下、皆様方ではありませんか……」
ラヴァーダは、燻製肉を拾おうと腰を浮かせる。だが、彼の問いかけに応じたのは、2人が立てる寝息であった。
【地図】ヴァナヘイム ブレギア国境 航跡 第2部 第4章
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818023214098219345
時節は2月――草原は真冬の冷気に包まれており、簡易ストーブしかない室内は冷え込んでいる。宰相は召使に毛布を持ってこさせると、1人1人にかぶせて回った。
ブイクは、あぐらをかいたままテーブルにうつ伏せになり、ナトフランタルは絨毯の上に横になって、それぞれ豪快ないびきをかいている。
ブルカン、ナトフランタル両名とも、頭髪は寂しくなるばかりであった。
双方とも「常在戦場」の精神のままに、冬場でも帝国の略式軍装に袖を通していた。二の腕は変わらず
草原の国の宰相は、テーブル上の皿も片付けていく。彼は、陶器の瓶を手にして驚く――この日 客人に出された山羊乳の酒は、ほとんど減っていなかったからだ。
床に転がった杯を拾いあげながら、ラヴァーダはそっと溜息をついた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
戦場に必要とされなくなりつつある老将たちの悲哀を感じ取られた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
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バンブライやブイクたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「コナリイのお客様 上」
女児准将は忙しい。
朝は自国領内の者たちと年始祝賀会の段取りについて協議し、昼前には軍議参加のため馬車で陸軍省へ出かけ、ティータイムには応接室で客人の対応だ。
慌ただしい移動の際も、コナリイはすれ違う相手に笑顔や敬礼を忘れない。白手袋をはめた片手が掲げられるたびに、淡くやわらかな金色の髪が揺れる。
「すぅっっっごおく、綺麗な
レクレナ少尉は、階下のレイス麾下執務部屋に戻るや、客人が絶世の美女だったと先輩・同僚へ報告する。
「「「「よっしゃー!」」」」
カムハル少尉以下、ニール准尉、ロビンソン軍曹、ムーア曹長等男衆は、一斉に沸く。
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