【3-23】 最後まで刃の交換といこうではないか

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 ウルズ城塞・ブレギア軍による2度目の交渉も不成立に終わった。


 取りつく島もなく、肩を落として立ち去って行く城塞使者・ビフレストを、ブイク、ナトフランタルの両宿将は、ブレギア陣営の入口まで見送った。


「まことに面目次第もございません。主命を果たすこともかなわず、おめおめと帰城することになろうとは」


 両将軍にとって美髭びぜんの使者は同年輩であり、防御戦の指揮ぶりは敵ながらであった。軍人としてのさがなのだろうか、干戈かんかを交えたことで親近感すらわいている。


「ご使者どの、落胆なさいますな」

「さようさよう、我らからも若君に取りなしてみますゆえ」

 髭の使者を慰めつつ丁重に見送ると、両宿将は馬に飛び乗り、レオンの幕舎に向けて駒を進めた。


 若君に直談判し、1日も早くウルズ城塞攻防戦にピリオドを打つのだ。



 ところが、国主の白い幕舎の前まで来ると、馬上の両将軍の前に、線の細い見なれた男が立ちはだかった。


「……どちらに行かれるおつもりで」

 神経質そうな声音に癖のある黒髪――老将たちはその顔を見なくとも、それが筆頭補佐官であることを誤認することはなかった。


 準備の良いことで、ドーク=トゥレムは補佐官一のファイター・ムネイ=ブリアン以下、屈強な衛兵たちを従えている。


「補佐官ごときが邪魔だ。そこをどけ」

 馬を押し進めようとしたブイクに、トゥレムは変わらず冷厳に応じた。


あるじより、誰であっても通すなと言われております」


「馬鹿な。我が軍の今後に関わる重大事なのだぞ」


「何であろうと、主命により、この先にお通しするわけには参りません」


「貴様、正気かッ!?」


「将軍たちこそ主命を、何と心得られておられるのか」

 いつまでも若造扱いしおってからに――トゥレムの言葉はそうした怒色すら帯びていた。


「城塞では、多数の幼子が乾きに苦しんでおるのだぞ」

「そんな彼等に最終決戦を促すとは、どういう料簡だ」


「自業自得です。思想なき浅薄な城主と共に『草原の馬糞どもを手玉に取ってやった』などと、お祭り騒ぎをしてきたツケを払わせるまで」

 ブレギア我等を甘く見てきたことに報いを受けさせましょう――天上界神と地下界神の怒りの鉄槌てっついを叩き込むことに、何の憂いがありましょうや。


 言葉の端々まで重く暗く湿気に満ちていた。本性を剥き出しにしたドーク=トゥレムという男は、ここまで度し難い存在だったのか。



 老将たちは、歯ぎしりとも声とも思える嘆息を一つすると、駒の向きを乳白色の幕舎に向けた。そして、馬上姿勢を正して大きく息を吸い込むや、言葉と一緒に吐き出す。


「若君ッ、聞こえておるか!?。リューズニル城塞と同じてつを踏むことはおやめなされッ」


「麦の種蒔きは間もなく始まりますぞッ。敵の降伏を受け入れ、早々に兵を引き揚げますよう――」


 宿将2人による呼びかけは、虚しく白い天幕にぶつかるばかりであった。


 天幕はそれらに応えることなく、夕闇のなかに沈んでいった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ウルズ城塞の今後が心配な方、宿老衆と補佐官衆の亀裂が気になる方、

かつて、レオンがウテカの天幕から追い払われたシーンと重なった方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


【1-23】 闇夜の行軍

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661506004856


ビフレストたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「慟哭どうこく」お楽しみに。


ウルズ城塞は――防御指揮官以下城兵が白兵戦を敢行し、ことごとくがブレギア騎翔隊の白刃と馬蹄に倒れることによって――開城した。


ノルフ=ビフレストは城壁より周囲を見回し、ブレギア軍の備えが薄いと思われる区域へ突入したわけだが、それもブ軍の筆頭補佐官・ドーク=トゥレムが仕掛けた巧妙な罠だった。

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