【3-24】 慟哭

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 2度目の交渉決裂から5日後――帝国暦385年3月23日。


 ウルズ城塞は――防御指揮官以下城兵が白兵戦を敢行し、ことごとくがブレギア騎翔隊の白刃と馬蹄に倒されることで――開城した。


 ノルフ=ビフレストは城壁より周囲を見回し、ブレギア軍の備えが薄いと思われる区域へ突入したわけだが、それもブ軍の筆頭補佐官・ドーク=トゥレムが仕掛けた巧妙な罠だった。


 豪壮な髭を有する防御指揮官は、領民たちを避難させるべく突破口を切り開こうと試みたが、それもかなわなかった。


 変わり果てた数百の城兵の姿を門外に目撃し、城塞側はいよいよ戦意を喪失する。



 さらにその翌日、ブレギア軍が城塞内へなだれ込んだ。


 レオンが国主となって、はじめて行われた大々的な略奪であった。城内は、誰が放ったのか、城郭・民家かかわりなく炎が上がった。


 ウテカ=ホーンスキン以下、ブラン・スコローンほか御親類衆は――ケルトハを除き――喜び勇んで非戦闘民に襲いかかった。


 老婆から幼子まで慣れない手で拳銃を発砲し、ブレギア兵は少なくない損害を被った。だが、抵抗する者は女・子ども関係なく殺害され、従う者は金品をはぎ取られ、犯されていった。



 城主・ドラル=ウルズは、城内の掃除用具入れに潜んでいたが、延焼した炎に包まれ焼死した。


 滑稽なことに、その用具入れは内側から開かない作りだった。煙に巻かれ、熱にのたうちまわり、最後は「蒸し焼きになった」と表現する方が正しい。


 サムエル=ニーズ、ニクラス=ホッグは、城主秘蔵の財宝を差し出し命乞いをしたところ、ブレギア兵に腕ごと切り落とされた。



 城主以下主だった者たちは、城外に首をさらされた。ブレギアから離反した者がどうなるのか思い知れ――周辺諸都市に対する見せしめであろう。


 ブレギア軍による時代錯誤ともいえる残虐な処遇は、各国記者たちの取材意欲を狂ったように掻きたてた。


 それらのなかには、ゆたかな頬髭の首級も含まれていた。



 新聞各紙は、ブレギア軍とそれを率いる新国主・レオン=カーヴァルの強さを連日絶賛した。それはもう筆が折れ、紙が破れるほどの勢いで。


 若き英雄の賞詞しょうしを書き散らす分量で、新聞は発行部数を伸ばしていく。そうした論説に染まったブレギア領民は、拍手喝采――打ち手と賛辞の声――を、日増しに強めていった。


 武力の象徴という点において、先代国主に遜色なし。


 淡き金色に輝く頭髪と細身ながら躍動感あふれる瑞々みずみずしい体躯に、国民は自らの理想を投影し、熱狂の渦を増していく。



 大規模略奪が行われた翌日、ブレギア軍はウルズ城塞の解体・廃城を軍議の席だけで決したのだった。


 もはや3月も下旬である。兵牧・兵農分離が完結していないブレギア将兵は、1日も早くこの地から引き揚げねばならない。


 この決定は、撤退後ブレギア国がこの城を維持する自信を持ち得ないことを自ら宣言したものであり、この遠征において領土拡張という要素が大いに薄まったことを意味するものでもあった。


 しかし、新たな英雄譚の執筆に忙しい新聞各紙が、そうした事情に言及することはなかった。金髪の若獅子を称賛すれば部数は青天井なのだ。


 それへ水を差すような記事など、百害あって一利ない。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ウルズ城塞は最悪の結果を迎えてしまいました。


ビフレストたちの冥福をお祈りください。



【予 告】

次回、「御親類衆末席と宿老衆筆頭」お楽しみに。


居たたまれず馬首を返そうとしたケルトハは、その先に武骨な老将――バンブライが1人たたずんでいるのを視界にとらえた。


どこかから手に入れたのであろう、粗末な花を1輪ずつ遺体の胸上に添えている。そして、合掌――それぞれの指を交差させ、握りしめていた。


ケルトハは馬から降り、バンブライの横に並んだ。

「太陽神への手向けか」


「これは、ケルトハ様」

日陰のためか、宿将はいつになく老けこんで見える。

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