【3-30】 先鋒

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 帝国暦385年7月10日、抜けるような夏空の下――ブレギア軍の大天幕では、エルドフリーム城塞攻めに向けての軍議が開かれた。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 ケルトハ=ホーンスキンは、御親類衆末席から幕内を見渡す。


 同城塞攻略は、ブイク、ナトフランタル等の慎重論虚しく、レオンので決定した。


 宿老たちからの非難がましい視線を、柳に風と聞き流すと、先代遺児はすくと立ち上がり、口を開く。

「ブルカンッ」


「……ハッ?」

 一呼吸遅れて、ソルボル=ブルカンが進み出る。


 白い民族衣装を羽織った老将は、若き主君に名指しで呼ばれたことに、驚いた様子を隠せていない。


「貴様に、エルドフリーム攻略の先鋒を任せる」


「……ッ!?」

 草原出身の将軍は、主君の命令をにわかに理解しかねたようだ。


 古今、先陣は武人のほまれである。戦場では華々しい活躍が期待され、戦後大きな褒賞が約束される。


 まして、エルドフリームは、小覇王と呼ばれた先代国主ですら城攻めを見送ったことで知られている。攻略の糸口につくことすら名誉であろう。



 ケルトハの首筋に汗が一筋流れた。若き国主による先鋒指名により、天幕のなかの温度がさらに上がったように感じられる。


 てっきり、この度の攻略戦も、花形はレオン派閥の臣下が担うものだと思われていた。


 そのため、周囲を観察するケルトハはもちろんのこと、名指しをされたブルカンをはじめ、老将軍たちは驚きを禁じえないようだった。

「な!?」

「なんと」


 撤退を説き続けていた者が、突然、最前線への配置転換されたわけである。驚きと戸惑いの舞踊ワルツは当然のことであろう。


 その一方で、老将たちはどこか嬉しそうでもあった。


 先陣を仰せつかったブルカンなどは、小刻みに揺れている。湧き上がる喜びを、戸惑う表情で噛み殺そうとすらしているようだ。


 強敵や大会戦で先鋒を任されるということは、武人の本懐。武者震いは、人生の大半を戦場で過ごしてきた者たちにとって、生理現象ともいえる反応なのかもしれない。



 旧友・レオンの下した人事の妙は、このような宿老たちのを生かしたものであったといえよう。


 だが、ここでケルトハは違和感も覚える――金髪の幼馴染が好むようなやり口ではないのだ。


 ケルトハはその大きな瞳を細め、主君の脇に立つドーク=トゥレムを一瞥いちべつする。おおかた、あの黒癖毛の筆頭補佐官あたりが、また入れ知恵した――という線が実情かもしれない。


 いずれにせよ、さすがは百戦錬磨の将校である。ブルカンに当初見られたような浮つく様子は、軍議の途中からうかがえなくなっていた。



 散会後もエルドフリームの各堡塁ほうるいから本郭ほんぐるわまでを描いた模写図を、ブルカンは飽きることなく見つめていた。


 本郭陥落までのイメージが整えているのだろう――時に何やらつぶやき、時に分厚い手指を動かしつつ。


 名宰相・キアン=ラヴァーダが見出した草原の勇将が、難攻不落の名城にいかにして挑むのか――これは学ぶべきことが多そうだ。



 ケルトハは1人頷くと、宿将を残し大天幕を後にした。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


エルドフリーム攻略の先鋒人事について、結局レオンは筆頭補佐官の提案に従ってしまったな、と気が付かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「高笑い」お楽しみに。


だが、ここにきて、城塞側の砲撃もやや息切れが見られた。敵味方の砲弾交換の隙間を狙うようにして、間髪入れずブルカンは麾下の騎翔隊に突入を命じる。


振り下ろされた彼の白い袖に合わせて、騎兵が疾駆していく。


少ないながらも、味方による援護射撃が騎翔隊を追い抜いては着弾し、城塞の視界を封じる。宿将・バンブライの下す砲撃指揮のタイミングは、絶妙であった。

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