【3-28】 煤けた鍋

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 帝国暦385年6月中旬、アリアク城塞にはブレギア各所領から、続々と将兵軍馬が到着していた。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 この年の3月下旬、ブレギア軍はウルズ城塞の主要城壁を破壊したのち、火をかけた。同城塞が灰燼かいじんに帰したのを見届けるや、ようやくレオンは全軍をアリアク城塞に向けて引き揚げたのであった。


 アリアクにて軍団解散の命が下るや、各隊はやれやれとばかりに散会していった。一路自らの所領に向けて。


 各々の村落に戻ったブレギア兵は、軍装を解く間もなく畜産や農産に従事する慌ただしさであった。村という村では、馬の出産や次の種付け、馬乳酒の仕込み、さらには畑の鍬入れや種蒔きが大いに遅れていたのである。


 それから程ない5月中旬、畜産業と農業の落ち着きを待たずして、レオン=カーヴァルは再び「征西の大動員令」を発したのである。ブレギア全土に向けて。


 こうして6月中旬、ブレギア軍は再びアリアク城に結集するに至る。



 前回の出兵から間もないことや、ウルズなど拠点となる城塞や砦を破却していたことから、ブレギア軍は抵抗を受けることなく西へ進軍。


 ウルズ城址じょうしから先、ブ軍に従うそぶりを見せなかった砦3つを一蹴した先に、大きなが静かに横たわっていた。




 旧ヴァバヘイム領・エルドフリーム城塞である。




 帝国暦385年7月上旬、要塞ブレギア軍の若き主脳部が次なる標的に選んだのは、この城塞となった。


 エルドフリーム城塞は、アリアク城塞から250キロも旧ヴァナヘイム国領の内側に進んだ先の丘陵を指す。


再掲:【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 平原の中に突如浮かび上がるこの丘岡きゅうこうは、その遠景から、地域の民からと呼ばれて久しい。エルドフリームとは、ヴァナヘイム語で「火ですすけたもの」を意味する。


 しかし、その呑気な名前からは想像がつかぬほど、この城塞は堅牢であった。


 10年前、ブレギア先王はこの城を落とさずして囲みを解いている。小覇王と諸国から恐れられたフォラ=カーヴァルをして攻略を諦めさせたことで、「煤けた鍋」は一躍名を馳せることになった。


 そうした視点でこの城塞を検分すると、なるほど急峻な丘陵が丸ごと城砦になっているのに気が付く。そして天然の堀として、ニール河の急流が城の足元を削るようにして流れている。


 このエルドフリーム城への攻撃については、宿将たちは口を揃え、語気を強めて反対した。


「先王ですら、攻略を諦めたのです」

「いまはラヴァーダ宰相もいらっしゃいません」

「我々だけで、いかほどのことができましょう」

「どうか、ご再考を」


 バンブライ、ブイク、ナトフランタル、ブルカンは、入れ替わり立ち代わり、撤退を進言する。


 ――小覇王を諦めさせた城塞だからこそ、宰相不在のいまだからこそ、エルドフリームは価値があることを、老いぼれどもは分からんのか。


 筆頭補佐官・ドーク=トゥレムは舌打ちした。


 季節は早くも夏を迎えようとしている。鼻や首筋それに禿頭にまで汗を浮かべて、迫ってくる老人たちが、彼には暑苦しかった。


 エルドフリーム城塞攻撃の是非については、「先代から仕える宿将たちと、先代遺児の若き補佐官たちの対立」という構図が、決定的なものとして現れはじめていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ほとんど休めていないブレギア兵によるエルドフリーム攻城戦の先が心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「うたた寝」お楽しみに。


「エルドフリームを落としてから、ブレギアに帰るぞッ」


「「「「ハッ!」」」」

脇に控えていたドーク=トゥレム以下、レオン直属の若者たちがすぐに唱和する。


驚きを押しとどめながら、尚も慎重論を述べようとする老将たちを、レオンは片手で制する。これ以上の反対は許さぬとの、若い主君の意思表示であった。

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