【1-30】 老獪――戦場の呼吸を読んで 上

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

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 ヴァーガル河会戦からさかのぼること半年前――帝国歴384年5月。帝国軍はノーアトゥーン郊外でアルベルト=ミーミル退役大将の武装蜂起を鎮圧した。


第1部【16-6】看破 下

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330655562542150



 反乱軍による3つの砦に拠った巧みな戦術を前に、ヴァナヘイム軍自前の討伐隊は苦戦を強いられたものの、最後は帝国軍が火力でじ伏せたのである。



 同年6月、ヴァナヘイム国の軍務尚書・ヴァジ=ヴィーザル、内務相・ヴァーリ=エクレフ、鉄道相・ウジェーヌ=グリスニルを、北方諸都市にて相次いで拘禁。


 彼等は、王都が危機に陥ると我先に逃げ出したものの、領民たちの手によって潜伏先を通報されたのである。


 対帝国主戦論を展開して領民をあおり、開戦に戦争継続を押し進めた――そうした亡国の為政者たちを、帝国司法は戦争犯罪者として裁き、銃殺刑に処した。



 こうして、ヴァ国を名実共に併呑へいどんすると、東都のアルイル=オーラム上級大将は、目的を終えた東部方面征討軍(東征軍)・20万の将兵を解散した。


 東征軍の兵力は都市の人口に相当する。それらを維持するには、オーナーたる上級大将以下、貴族将官たちに莫大な戦費がのしかかるからである。


 解散後、総司令官・ズフタフ=アトロン大将は、主力――旧ヴァ国領の一部統治を認められた将軍たち――と共に、現地に残留。彼らは手勢ともども旧都の帝国弁務官事務所所属となり、領内の治安維持に当たることとなった。




 草原の国ブレギアが侵略の軍を起こさんとしている――。


 同年夏、旧都・ノーアトゥーンの帝国弁務官事務所へ急報がもたらされた。


 帝国の統治が行き渡る前に、旧ヴァナヘイムの領地をかすめ取ろう――ブレギアの意図は明白だった。


 迎撃せんと旧ヴァ領内にて兵を募ると、帝国軍は既存戦力を含めて7万もの軍勢集めに成功する。


 当座の食糧や収入源を求める亡国の民が多かったという事情もさることながら、アトロン将軍の公明正大な人柄が、早くも占領地に浸透していたことも大きいだろう。



 それら新旧兵馬をまとめて、彼は東に向かった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


帝国視点の振り返りに興味を覚えてくださった方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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アトロンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「老獪――戦場の呼吸を読んで 下」お楽しみに。

ヴァーガル河会戦を、帝国軍・アトロン大将の視点で振り返ります。


帝国暦384年10月下旬、アトロン率いる帝国軍後詰は、ヴァーガル河の手前20キロの地点にさしかかった。


河畔には、先の戦闘でブレギア軍に敗北を喫した味方が留まっている。親鳥を求めるひなのように打ち震え、一刻も早い来援を求めてきた。


しかし、この老練な将軍は、すぐに合流することを避けた。初戦に勝利し指揮高まる騎馬民族と真正面からぶつかることを避けたのである。

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