【1-29】 軍靴を一歩先へ 下

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

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 ブレギア首脳陣の方針は決した。


 左翼の味方を捨て置き、アリアク城塞へ引き揚げるのだという。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 ウテカ=ホーンスキンに、御親類衆は反論を封じられた。


 ブイク・ナトフランタル両宿将が稼いでくれた時間を無駄にしない――取ってつけたような感情論を一族筆頭は振りかざした。


 いつの間にか、対岸の帝国軍の追撃には十分に配慮すべきとの議題に移っている。


 左翼を粉砕して北上してくるであろう帝国別動隊からは、1キロでも多く距離を置きたい。だが、逃走のような形で後退しては、対岸の帝国敗残兵による追撃を許すことになろう。



「……30年以上の長きにわたって先代を支えてきた功臣たちの扱いが、これか」

 それまで、幕営の片隅に坐していたレオン=カーヴァルは、ポツリと漏らした。


 だが、この若者はうつむくほどに深く腰掛けており、表情も隠れがちである。そのつぶやきも、後ろに立つ筆頭補佐官・ドーク=トゥレムにすら全容が聞き取れぬほど、小さなものだった。


 先代国主の遺児は立ち上がった。ヒステリーを起こしている叔父と、打算に頭をめぐらすその一族に背を向けて。


 彼の補佐官衆もそれへ続く。


「レ、レオン殿!?どちらに向かわれるのか」

「……」

 叔父からの質問にも、若者は答えない。軍靴を一歩進める度に、明るい金色の髪が律動的に揺れる。


「……ご命令を」

 追従先頭の筆頭補佐官が、低く尋ねる。


 分かり切ったことを――若者は底意地悪そうな笑みを押し殺し、口を開く。

「我が直卒じきそつの軍勢を、左翼前線に押し進めよッ!」


「「「「ハッ!」」」」 

 若き補佐官たちが一斉に唱和する。


「レ、レオン殿、なにを勝手な……」

 大きな両目をこれでもかと広げ、ウテカが口にした制止の声にも、レオンは意に介さなかった。


「勝手にさせていただくッ!」

 叔父のかすれた言葉を怒声でかき消すと、金髪の若者は幕舎を抜けた。



 表に出たレオンは、肺のなかの空気を入れ替えるかのように深く呼吸をする。そして、顔を上げた。


 一目散に馬を駆けさせていくのは、若き主人の命を受け、放矢のように飛び出していった補佐官たちだ。


 進路の先にあるのは、彼等がいるべき場所――国主直轄軍の天幕群だ。


【11月10日11時】ヴァーガル河の戦い 地図⑥

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330669332985359



 丘上にあるためだろう、白い幕舎が青空によく映えている。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ついに動き出したレオンに期待いただける方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「老獪――戦場の呼吸を読んで」お楽しみに。

ヴァーガル河会戦までの経緯を帝国軍・帝国視点で進めます。


草原の国ブレギアが侵略の軍を起こさんとしている――。


同年夏、旧都・ノーアトゥーンの帝国弁務官事務所へ急報がもたらされた。


帝国の統治が行き渡る前に、旧ヴァナヘイムの領地をかすめ取ろう――ブレギアの意図は明白だった。


迎撃せんと旧ヴァ領内にて兵を募ると、帝国軍は既存戦力を含めて7万もの軍勢集めに成功する。

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