【閑話】プエリVSリク










―――――【武王】VS【魔王】








「やぁーー!!!」



「くっそッ!?“ボルケイノ・ファランクス”!!」



ライアの別人格であるアインスがプエリとリクの戦いを傍観する事に決めてすでに5分…。未だ決着は着かず、リクの高火力の魔法はプエリの剣で切り払われ、プエリの剣戟はリクの魔法に阻まれ、攻撃が当たる場所まで近寄れない。


そんなお互いの攻撃で突破口が見えない、ある意味拮抗状態が続き、どちらかがガス欠(プエリは体力、リクは魔力)になるかの長期戦状態に発展していた。



「ったく!!いつまでもいつまでも僕の魔法をズバズバと斬りまくりやがって!!いい加減やられろよ体力お化け!!“ウィンド・ストーム”ッ!!」



「そっちこそ!どんだけ魔法をバカスカ打てば気が済むのッ!!それにわたしは別に体力お化けじゃないもん!!これくらいライア姉ちゃんに鍛えられた人ならみんなできるもん!!」



リクが発生させた風の刃で形成された大きなつむじ風を、プエリはあえて風向きに逆らうように剣を一閃すると、魔法の核となる魔力が霧散され、巻き上がった砂埃や枯れ葉などがゆらゆらと地面に落ちる。


リクはプエリに対しての愚痴のついでにと魔法を発動させていたが、ただのつむじ風ならいざ知らず、触れれば剃刀よりも切れる魔法の風を生み出すのは並大抵の魔法使いでは不可能。口の悪さと年齢に見合った小柄な体型や童顔で分かりにくいが≪魔王≫という魔法に特化したスキルはかなりの力なのだと理解できる。


そして、同じくそんな≪魔王≫に真正面からやり合えている≪武王プエリ≫も言わずもがな破格な力と言えるだろう。



「―――シィィッ!!」



「ッ!?“ブロー”ッ!!!」



風の魔法によって巻き上がった砂埃で一瞬だけリクの視線がプエリから外れたタイミングで、地を這うように移動をしていたプエリの剣がリクの足へと振るわれる。が、寸での所でリクもすぐに攻撃を察知し、自分の両手から強い風を吹き出す魔法によって自分を後方へと移動させ、プエリへのけん制にも使用する。



「うっぶ!……だぁぁもう!今ので倒されてよ!」


「ぐぅ!…何故僕が倒されてやらなきゃいけないんだ!?そういうお前がさっさと降参しろ!」



このようなやり取りを2人はすでに数回は行っており、お互いがお互いに対し、異様なまでのイラつきとも言うヘイトが溜まっていた。


……今、この場にはライア(アインス)の分身体が見守っている為、どう転ぼうとリクが勝つ未来は存在しないのだが、その事実に2人は考えが及ばず、とにかく目の前の敵を倒さなきゃと興奮状態になっている。




「……だったら…無理矢理にでも!!」



『―――プエリちゃん!!』




興奮状態で、冷静な判断が出来ない人間が陥る代表的な失敗例として挙げられるのは『慌ててしまう』からだ。


慌てる…つまり、この拮抗状態をすぐに打破すべく、無理をしてでも決着を決め急ごうとしてしまうのは、ある意味失策。


少し離れた所でライアの分身体と一緒に2人の戦いを伺っていたリンが、すぐにプエリの失態に気が付き、遅いと分かっていても大声をあげる。



「ッ!そんな馬鹿正直にまっすぐ来ていいのかよ!!“ボルケイノ・ファランクス”…“ウィンド・ストーム”ッ!!」



「うッ!?きゃぁ!?」



至近距離から放たれた炎の巨槍を何とか剣で受け流そうとするが、即座に発生させられた風の魔法が炎の巨槍の勢いを押し上げ、プエリの小さい体が宙に舞う。



「う……よっとッ!!」


「プエリちゃん!!」


「大丈夫だよリンちゃん!ゴメン!ちょっと慌てた!!」



後方から心配の声が聞こえ、すぐにプエリは心配をかけまいと片手で受け身を取り、リクから距離を取る様にして一旦下がる。



「なに安心してるんだ!“ロック・バレッド”ッ!“ロック・バレッド”ッ!」



「くッ!」



受け身を取り、距離を取った所に岩の礫が勢いよく飛んできて、剣で切り飛ばそうとするが、受け身を取った際に片手を剣から放していた為に、腕力が足りず剣がすぐに持ち上がらない。



「(片手じゃあの石の礫全てを斬り払えない…!どうしたら……ッ!)」



戦闘中の、それも自身の身に危険が迫る状況下で、体感時間のみ大幅に引き伸ばされた思考の中で、どう行動するのが正解かと脳を巡らせるプエリ。


このままでは石の礫がプエリの腹と右肩に直撃するのは理解出来ている。だが、それを完全に防ぐ策がプエリには思いつかない。



「(…もうダメ!!当たる!!)」


















石の礫がプエリに当たる一瞬の時間。プエリは目の前に見える石の礫を見て、走馬灯のように昔の事を思い出した。



『うわッ!火の魔法しか使えない忌み子だ!』


『やばいよやばいよー!森が火事になっちゃうよー!』


『あっちいけー!忌み子の火の粉ー!』




昔、まだプエリが神樹の森に住んでいて、火の属性持ちという稀有な存在だと一族中に知れ渡ってすぐの頃、プエリは同じ村の同い年ぐらいの子供達からいじめの様な事をされていた。



会えば、悪口や嫌悪の目で見られ、ひどい時は『あっちいけ』と石や泥を投げつけられた。



痛い。


やめて。


あっち行く、あっち行くから!



プエリは、投げつけられる泥や様に、家へ帰る。  




そんな辛く、悲しかった時の事を思い出したプエリは……。
















――――ヒョイ



「…なッ!?」




リクが放った石の礫は、プエリに当たる事無くすぐ横をすり抜けて地面へと衝突する。






「……そうだよ……別に魔法全部を斬る意味とかないじゃん…避ければいいんじゃん!!」



プエリが行ったのは、ただ単純にリクの魔法を剣で受けず、身体を横に逸らす事によって行う回避運動。ただそれだけ。



「お、お前……よ、避けるとか……出来たのか?」



「で、出来るよ!!べ、別に剣で魔法を斬る事に集中して、避けるって事を忘れてただけだもん!!」



魔法を斬るというのは、普通に考えれば至難の業であるのに、プエリは≪武王≫の力で無理矢理それを成していた。それゆえに、プエリの思考の中に『魔法は切り払う物』として認識していた部分があり、魔法を切り払うのに集中力も必要だった為に、戦闘技能の基礎である回避行動を忘れてしまっていたという。



……まぁ普通にプエリのおっちょこちょいであるのは間違いないのだが。




「……馬鹿なのか?というか、そんな馬鹿に僕はどれだけ苦戦を強いられたと…」



「んもう!!うるさいうるさい!!魔法を避ける事も有りなら、もう負けないもん!!」



「…ッな!くッ!“ボルケイノ・ファランクス”ッ!“ボルケイノ・ファランクス”ッ!」




自棄をおこしたプエリは、すぐさまリクの元へと走り出し、その行動に驚いたリクはすぐさま迎撃の為の魔法を発動させる。



「フンッ!斬っても斬らなくてもいいならこんなの楽勝だもん!弾幕張られようと、わたしに当たる魔法だけ斬ればいいだけだし―!!」



真正面から飛んでくる魔法は切り捨て、狙いが甘い魔法は身体を少し逸らして躱し、一直線にリクの元へ走り込むプエリ。



「な、なぜだ!たかが回避一つで、この僕の≪魔王≫が負けるはずが…!」



「≪魔王≫が負けるんじゃない!!」



「ッッ!?」



魔法を切り抜け、いつの間にかリクの懐まで近寄っていたパテルの発言に、リクは顔を歪ませながら息を飲む。



「わたしの≪武王≫とライア姉ちゃん最強が勝つだけだぁー!!」


―――ヅバンッ!!!



「うわぁぁぁぁぁッ!?」



プエリの剣がリクの胴体へと放たれ、斬撃の衝撃でリクの身体が後ろへ吹き飛び、木の幹にぶつかると、そのままリクは気を失う。




「ふっふーん!どうだー!…あ!」



ドヤ顔を晒すと同時に、自分の勝利に喜ぶプエリだったが、何かを思い出したのか、すぐさま後ろへ振り返り、満面の笑みを浮かべる。




「リンちゃーん!!懲らしめたよー!!次はリンちゃんがこの子を懲らしめるんだよー!!」




「プエリちゃん……ふふ…うん!ありがとー!」




プエリの弟を取り戻し、更生をさせてあげようという気遣いがリンの胸に届き、リンはわずかに目じりに涙を含みながら、こちらに手を振るプエリに、同じく大きく手を振り返すのだった。












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残念!!全部俺でした! 大樹 @taiju0421

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