エピローグ










――王国と帝国との戦争はライアの奮闘もあり、かなりの短期間で決着がついた。




帝都では≪催眠≫の力を悪用する諸悪の根源の帝国宰相ケドローモンドを捕縛し、火竜ヴォルケイアも倒す事に成功。



王都アンファングに攻め入ってきた巨人軍も全てライアが無力化し、元となった帝国騎士も全員命を散らす事なく、王都の病院で収容されている。



もちろん王都の街へ侵攻して来ていた帝国軍約3000名もライアの新たな力…≪魂合創生≫で生み出した別人格達の圧倒的な戦力差によって敵味方問わず、全員を死なせること無く戦闘を終了させる事が出来た。(一部の者はトラウマを抱えたり、ツェーンの虜になった哀れな騎士も多く存在するが)




最初に攻めて来られているリールトンの街も特に被害は出ていないし、≪催眠≫にかかっていたドルンも今は帝国の混乱を食い止める為に帝都へライアの分身体達とリールトンの街を出発済みである。





「――色々と想定外はあったけど……結果からすれば万々歳の結果かな?」



「戦争をライア1人で、それも両者無傷で終戦させて満足してなかったらそれはそれで正気を疑うのですよ」



「あはは…確かに色々と暴れたつもりはありますけど、別に俺だけじゃなく、色んな人も頑張った結果ですし…」



「その謙遜は嫌味にしかならないと思うのですよ?」






戦争が終戦し、王都のアーノルドや関係各所に報告や連絡、帝国で作戦実行したドルトン達先鋭部隊や帝都の外で待機していたミルク率いる奴隷達の回収などが一段落した後、ライア本体はヒンメルの町にある自分の屋敷の寝室で、すでに臨月のリネットと一緒に背伸びをするかのようにベットに倒れ込む。



ライア自身の身体はずっとヒンメルの町の自分の屋敷の中で待機していたので、体力が削られている訳では無いのだが、色々と精神的な疲れが一気に現れたのか、若干眠気に襲われながらもリネットと雑談に興じる。




「……ライアが倒れた時は……心配でどうしようもないくらい胸が張り裂けそうでしたが、ちゃんと無事に帰って来てくれた嬉しかったのですよ」



「……その節はご迷惑を…ちょっと油断してしまいました…」



「油断してたなら自業自得なのですよ……出来ればもうあんな事にならない様に気を付けるのですよ?」



「はい…」




叱られて少しだけしゅんとしたライアに、つい可愛いとリネットは笑みを向けてしまうが、それにライアは気が付かず、目線を下げたままである。




「さて、今日はもう寝るのですよ?ライアはまだ戦争の後始末が残ってるのですよね?他の分身体達に働いてもらう分、ライアもしっかり睡眠をとらないとダメなのですよ」



「そうですね……おやすみなさい」



今も帝都のミルク達の避難や帝都の住民達の混乱を落ち着ける為に色々分身体達を動かしている為、少しでも脳を休める為にライアは眠らなければ、分身体達を長期動かす事が出来ない。



今は忙しいので、出来るだけ分身体全員を眠らせるような事は控えたいので、リネットの言う通り睡眠をしようとベットに潜り、目をつむる。

















「……子供の為に、戦争を終わらすなんて……とんだ親バカなのですよ……」




小さく呟かれたリネットの言葉は、すでに半分眠りについているライアの耳には入らず、虚空に消える。




「お疲れ様なのですよ…パパさん…」










――――――――――――――

―――――――――――

――――――――











―――5年後―――





「よっ…ほッ!!」



―――ドゴッ!!



そこは広い空間で、1人の人間と1体の大きな巨体のワイバーンが暴れており、周囲の地面はワイバーンの蹄によって、抉られている箇所が多く見受けられる。




襲われている人間……遠目から見ればワイバーンの巨体が目立ち、気づき難いが、背は小さく、近くで見ればただの子供の様にしか見えない人間が鮮やかな立ち回りでワイバーンの攻撃を躱していく。



……いや、はっきりと言ってしまえば“子供の様にしか見えない”のではなく、間違いなく“子供”がワイバーンの攻撃を躱していると言った方が正確だろう。




「砕けろッ!!“空間断裂ディメンタースライス”」




「グギャアァァァァァ!!」




―――バズンッッ!!




子供は、ワイバーンの攻撃を一切受ける事なく見事躱しきると、魔法を発動させたのか、魔法の名を口に出したと思った瞬間に、ワイバーンの首に何か線の様な切れ込みが入り、一瞬でワイバーンの首を落として見せる。



魔法の名から推察するに、恐らく魔法の属性は【空間属性】といった特殊属性の魔法に違いない。




「ふぅぅ…これで“100体目”かな?もうそろそろ帰らなきゃみんな心配しちゃうし、早く魔石を取って帰らなきゃ!」



子供は誰に聞かせる訳でもなく、ただの確認と言った感じに今の状況を口にだしながら、ワイバーンの死体に近づき、魔石を取り出す。



「“異空間収納ストレージ”」



子供が空に手をかざし、魔法を発動させると、手に持っていたワイバーンの魔石が空に開いた異空間の穴にまるで溶け込むように消えていく。



「お肉は……いいや、もう数えるのも面倒なくらい入ってるし」



異空間の中がどれほどの広さがあるかはわからないが、少なくとも100や200以上のワイバーンの肉が収められているようで、市場に卸せば金貨が手に入るはずの高価なワイバーンの肉や素材をその辺りに捨てていく。








魔石を回収した子供は、そのままダンジョンを出る為に階層を上に上がっていき、ダンジョンの外に出る。



すると、その子供の事を迎えに来ていたのか1人の人影が子供に近づいて行き、声を掛けてくる。




「おかえりなさい……怪我とかしなかった?」



「大丈夫だよ姉ちゃん。僕がそんなに軟じゃないってわかってるでしょ?」



「軟じゃなくてもラスリは私達にとって大事な大事な弟だからね……それにもしラスリに何かあれば悲しいし、ライア本体にどれだけどやされるかわかったもんじゃないしね」



「……まぁライアおねにいちゃんの心配性な所もわかってるけど…」




そう、先程までダンジョンの中でワイバーンをいとも簡単に倒していた子供の名はラスリ。



ライアの大事な弟であり、ライアとクスト、プエリの3人の名から一文字ずつ与えられたあのラスリなのである。



年は今年で8歳でありながら、顔はライアに似て童顔で、目はパッチリと大きく、髪は肩程までに揃えたショートボブで、ぱっと見男の子か女の子かは不明な可愛らしい姿。



服装に関してはライア達の母親であるマリーの趣味なのか、ショートパンツと上はノースリーブにひざ下まである薄いカーディガンを羽織ったどう見ても女の子よりの格好である。




「…っと、それよりもラスリ。もうすでにみんな集まって来てるから、急ぎましょ」



「やっぱりもうみんな集まって来てるんだ…わかった」



ラスリの返事と共に、フュンフがラスリの身体を持ち上げ、すぐさま【重力魔法】を発動させ、空高くへ飛び上がる。




「……今日でやっと…も5歳……みんな楽しみにしてたからね」



「ふふふ……リールトンの街からはアイゼル様やアイリス様。王都アンファングからは騎士団長ドルトンさんと副団長のエマリアさん…それに国王陛下までも来てるからね」



フォネスト……話の流れで気が付くかもしれないが、約5年前。



ライアがアッという間に終戦させてしまった帝国との戦争の数か月後に生まれたライアの第一子で、長男のインクリース家が長男、フォネスト・インクリース。



この国で最も有名な【竜騎士】の称号を持ち、戦争を一人で終戦させた【戦王】であり、このアンファング王国の次期宰相ライア・ロー・インクリースの愛息子であり、現国王のアーノルド・フォン・アンファングの第一子である姫君の婚約者でもある。



「ドルトンさん達はよく家に遊びに来るけど、アーノルド陛下も来るんだ……」



「『息子同然のフォネストが5歳の誕生日を迎えるというのに、公務などやっていられない!』と言って来たみたいだね」



「アハハ…アーノルド陛下らしいね」



良く言えば平和、悪く言えば自由な我らが国王に苦笑いを浮かべるラスリだったが、そんな緩い世界も悪くないと妙な心地よさを覚える。




「……さ、早くみんなの所に行きましょうか」



「そうだね…僕が取ってきた魔石のお金でフォネストにプレゼントも買わなきゃだしね」




空高く飛び上がっていくラスリとフュンフはもうすでに開拓が終わり、すでに立派な都市と言えるだけ大きくなったヒンメルの街へと急ぎ、歳が近い甥っ子の誕生日をお祝いする為、胸を膨らませるのであった。




























「「「「「フォネスト!誕生日おめでとう!!」」」」」」












―――――――――――――――――――――――――――



あとがき


一応、これにて【残念!!全部俺でした!】は完結にする予定です!

ここまで永らく、駄文を呼んで下さり、感謝の念しか覚えません(´;ω;`)


補足しておきますが、完結とは言っておりますが、おまけの話『プエリVSリク』や『ツェーンの珍道中』の様な閑話をちょこちょこ出す予定ではあります。


と言っても、この最終回はぶっちゃけて言ってしまえば、自分のポテンシャル不足によって、話の続きが書けなくなった故の最終回なので、大分話の流れから「ここでいきなり終わり?変じゃね?」って思われる方も多いかもしれませんが、私自身ももう少しどうにか出来たのでは?と思う次第です(´;ω;`)。


まぁ単純に【一日1ページ更新】は私には過ぎた挑戦だったという事でしょう( ;∀;)


次回作など色々と考えてはいますが、もし次回作を投降し始める際は、もう少しゆったりとしたペースで更新していく次第で頑張ります!


もし、別の作品を読む機会がありましたら、また楽しんで行ってください(*'ω'*)




                     ~大樹より~





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