ライアの戦争【終】









帝国軍の大将である総指揮官の男……ルモア・バートンの【降伏宣言】の後は、未だ負けを認められない僅かな者達以外はすんなり王国に負けた事を認め、ライアの分身体達の指示に従い捕虜として順次王都へと護送されて行き、負けを認められずに暴れていたの者達は鉄拳制裁と言わんばかりに気絶さえ、取り押さえていった。



敵軍の総指揮官であるルモアの名は、降伏宣言を自軍へ伝えた後に聴取をした際に教えてくれた。



ルモアが言うには、自軍へ『降伏する事となった』と伝えた際には、ほとんどの者達が雁首揃えて『勝てないですしね…』と心を折られている様子だったとか。




「……と言った具合で、敵戦力の無力化に成功。後は他の残存兵が居ないかを隈なく捜索して何も無ければ我々の完全勝利ですね」



「……ふむ…いや、それは大変喜ばしい事なんだが……ライア殿?」



「どういたしましたアーノルド様?」




戦いに勝利し、きちんと報告しなければとアーノルド付きの分身体を経由して事の顛末をアーノルドに伝えれば、何やら難しそうな表情を浮かべながら声を掛けてくる。



「別人格…自分以外の魂を15つ?その結果≪分体≫の分身体が2500人?……飛行船に乗っていたエマリア副団長の遠距離部隊の者達を軽んじるつもりは無いが、殆どライア殿1人で帝国軍3000人を圧倒したことになるが…」



「3000人と言っても、後衛部隊は戦闘行為に至らず、後方の支援部隊は……なんかよくわかんない感じに戦意喪失してくれましたから、実質戦ったのは1500人いるかどうかですよ?」



「1500人が少ないみたいに聞こえるが、十分多いと思うのだが…」




アーノルドはライアの少しズレたセリフに苦笑いを浮かべつつ、ある意味頼もしいと思考を切り替える。



「…“守る為に力を追い求める”…前にライア殿の理想を叶える為に力を付ければいいと話した事は覚えているか?」



「はい、その言葉で私も自分の目指す場所がわかった気がしますし」



「……そうか…」



アーノルドにとっては軽い気持ちで相談に乗ったつもりだったかもしれないが、ライアにとっては自分の考えを曲げるか曲げないかを決める大事なアドバイスだった。



『自分が今生きている世界で甘ったれた理想論など邪魔でしかない』


『自分の理想で大事な人達が傷つき、死ぬ可能性だったあるんだ』



そんな時にアーノルドから言われた『その全てを押し通す為の力を付ければいい』という極論に笑いもこみ上げたが、結局はそれがライアにとっての正解だったのだ。



もちろん、これからの長い人生の中で今回の戦争よりも厄介な出来事があるかもしれないし、まだ強くなる必要はあるだろうから、ここで止まる訳にはいかないが。




「―――よし!決めたぞライア殿……いや、!」



「え?」



アーノルドが、今までずっと“ライア殿”呼びだったのに、いきなりライアを呼び捨てし、まっすぐな瞳で語り掛ける。



「ライア…私は君が欲しい」



「……はい?」



瞬間、部屋の中で待機していたメイドと護衛の騎士達の表情がビキッ!と固まり、ライア自身も理解が追い付かず、つい聞き返してしまう。



「ライア・ニー・インクリース……次期国王である私、アーノルド・フォン・アンファングが其方を我が右腕…宰相として迎え入れたい。それに伴って、未来の我が子とライアの子の婚約を正式に申し込ませてほしい。これは私の独断だが、元々我が父である現国王にも前々から伝えていた事だ」



「さ、宰相ですか!?それに子供の婚約って…本気だったんですか?」



「もちろん本気さ!私の師匠で、親友で、大事な臣下のライアと一緒にこの国、アンファング王国を盛り上げていきたいんだ。…駄目か?」



これは、今までの御ふざけや冗談などで言っている訳じゃない。



アーノルドの瞳には全く嘘の感情は見受けられないし、断られたらどうしようと緊張の表情を浮かべている。



「……私、教養とか全くないのですが…」



「そんな物、やっている内に身に付くものだ」



「平民の出ですし、他の貴族の方が納得しないと思うんですが…」



「納得させるだけの理由はすでにライア自身が作ってくれただろう?」




「え?」



自分には荷が重すぎるとライアは自分には無理だろうと思える理由を羅列していくが、アーノルドの返答に思わず疑問が浮かぶ。



「帝国への潜入を成功させ、戦争が始まる以前から情報を得、戦時中はバグラス砦、ヒンメルの町とリールトンの街、それに帝国へ向かったドルトン達と情報共有をこなし、肝心の帝国との戦争はほぼライア1人で解決して見せた。これだけの功績があって文句を言う貴族が居れば私は見てみたいぞ」



(…いや、それは流石に宰相としての理由付けとしては違うような…)



そんな思いを抱きつつも、アーノルドの「ともかく、ライアは私と一緒にいてはくれないのか?」と言うセリフにウっと言葉を詰まらせ、反論が出来なくなる。



「………はぁ……わかりました。どうなるかはわかりませんけど、やれるだけの事はやらせていただきます…」



「…!そうかッ!ならば早速父上に報告しなければなッ!」



「え、あちょ!?アーノルド様!?」



アーノルドに手を引かれて部屋を出て、少し驚いてしまうが、すぐにアーノルドの喜びとワクワクとしているような表情を見て「もう…しょうがないなぁ」と呆れたため息を漏らすライアだった。









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