ライアの戦争【10】











―――――上空決戦(ライアside)






各地でライアの別人格達が活躍する中、大将である帝国軍の総指揮官の男とライアは上空で激闘を繰り広げていた。



「はぁぁぁぁ!!」



「よっ…と、せりゃぁ!」



男が剣を振り上げライアへと切りかかってくるが、空中で体を捻って上手く剣をかわしながら、捻った反動を使って回し蹴りを放つライア。



男もそれにきちんと反応して見せ、剣を振り下ろした体勢のまま空中でバックステップし、綺麗にかわされる。



「……ホント強いね?割と結構本気で戦ってるつもりなんだけど」



「蹴りや拳に殺気を籠めずに本気とは随分と舐められているな。もしや俺を殺さずに捕虜として捕まえようとしているのか?だとすれば屈辱以外の何物でもないのだが」



「悪いけど、こっちは元々誰一人殺す気なんてないんだけど?そっちが屈辱を味わおうが知った事じゃないし」



男は騎士としてのプライドか、情けを掛けられるのはごめんだと発言するが、ライアにとって不殺は情けでも慈悲でもなく、ただ単に『自分が人の死に関与したくない』と言う自分本位の理由な為、いくら文句を言われた所でライアは考えを変える気はない。



「……そうか…なら、そのような考えを抱いた事を後悔させてやるッ!」



男は鬼気迫る表情で一気にライアの目の前に接近し、切り伏せんと剣を振ってくる。



狙いは首や胸、比較的攻撃が入れば致命傷になりやすい場所を的確に狙ってきている事から、相手はライアの事を本気で殺しにかかって来ている。



恐らく、この男は帝国はおろか、王国も含めた人間の中でほぼ最強と言っていいほどの実力者。



王国騎士団長であるドルトンでさえ、この男には勝てないだろうとライアは確信する。



「…プライドはそう簡単に折れないか…なら…」



「貴様の首…私の武功として持ち帰らせてもらうぞッ!!」



だが、ライアに勝てるだけのは持ち合わせてはいない。



レベル差によるステータスの優劣?違う。



剣の腕や魔法の力がライアの方が上手?違う。



そもそもの話、ライアは絶対に負ける事は無いのだ。



何故なら…




――――斬ッ!!



「取ったッ!!!…………は?」




男の人生で、最速と言っていいほどの剣速で振われた斬撃は、見事ライアの首を捕らえるが、斬り飛ばしたはずのライアの首が微動だにせずに未だ体に乗っかっており、様に見受けられる。




「な、何故…?今確実に首を斬った手ごたえが…」



「うん、確かに斬られたね……斬られた後けど」



「……何を言っている…?」




何故ならライアは…この戦いに自分の命を賭けていない。



今この場で戦っているのはライア本体の“ただの分身体”である。



仮に腕を斬り落とされようが、心臓をくりぬかれようが、最悪数ある分身体の一つが消えるだけで、何だったらすぐに新しい分身体を作り出す事も可能。



ゲームで例えるならば、ライア以外の人間達が残機1の状態で常に命懸けの戦いをしている中、ライアは残機無限の状態で仮に負けてもすぐに新しい自分を戦わせる事が可能。



「つまり、俺は貴方の心が折れるまで新しい自分…≪分体≫で生み出した分身体をぶつけ続ければいいだけ。だから大人しく降参してくれると助かるんだけど」



「……はは…なんだその出鱈目な力は……私が折れないと察してワザと首を斬らせて種明かしするなんて、正気の沙汰とは思えないな…」



「分身体は痛みを感じないからね」



男の顔に『そう言う事じゃないんだが…』と書かれている気がしたが、ひとまず気にしない。



「で、まだやる?っていうかすでに他の場所は大体片付いてるの気が付いてる?」



「何…?」



先頭部隊はすでにアインス達に壊滅させられ、前衛部隊もフィーア達に敗北し、ロープで縛られた状態で地面に倒れ伏している。



後衛部隊は未だ健在のようだが、持ち場の戦闘を終わらせたアインス達とフィーア達が、何故か後衛部隊の傍でお茶会を開いているアハトとノインの2人に合流すれば、一瞬で片が付く。



……後方部隊に至っては、ツェーンのライブで戦意喪失したのか、皆が戦いをやめ、上空で嗚咽を繰り返すツェーンに『アンコール!アンコール!』とある意味いじめの様な光景が見える(何故?)




逃げ出した帝国兵達はウィスン達3人が全員捕まえてくれているし、怪我人の治療や捕虜をロープで縛る作業などはライとインクの2人が手早くやってくれている。




つまり、すでに帝国軍は後衛部隊(約400名)しかまともに戦える部隊は残ってはいない。



「軍事用語的に当てはめれば、帝国軍はすでに戦力の殆どが壊滅している“全滅”状態……軍隊を指揮する人物として冷静な判断をするなら撤退、もしくは降伏が普通だと思うけど?」



「……どうやら舐めていたのは私の方だった。という事か…」




男は項垂れる様に顔を下に伏せ、静かに「降伏する」と宣言したのであった。



















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「……なぁ…俺らってただ気絶した敵兵を縛ったり、重めの怪我を治療して回ってたが……なぁーんか影が薄かった気がするんだが…」




地面に倒れる敵兵の折れた腕の骨を≪錬金術≫で修理しながら、そう声をあげるインク。




「奇遇ね?私もそう思う。なんなら忘れられていた気すらするもの」



そして修理が終わった敵兵が目を覚ました時に逃げ出す事が無いように、ロープで縛りあげるライがそう返事を返す。




「……まぁこういう役目もこなさなきゃいけないってのはわかってんだけど…俺も少しは目立ちたかった気持ちもあるんよなぁ」



「……ツェーンに代わってもらう?」



「それは絶対に嫌だ」




2人はそんな雑談を交わしながらもくもくと作業を終わらせていき、ライアと敵軍の総指揮官である男の戦いが終わった際に、ライア本体がライとインクの事をきちんと覚えてくれていた事に感動し、より一層本体の為に働こうと決意をしたというのは余談である。













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