ライアの戦争【9】











――――――――後衛部隊と残党兵(アハト、ノインとウィスン達)









最前線?というより、帝国軍の先頭部隊達とやり合うアインスとツヴァイのコンビ。



中央の比較的騎士のレベルが高そうな前方部隊をフィーアとドライ、そしてズィーベン。



飛行船には比較的性格が戦闘向きじゃないゼクスとフュンフ、おまけでツェーン。



残る帝国軍は今、アハトとノインが訪れたこの帝国軍の中心であるはずの中央部隊のみ。



既にアインス達もフィーア達も敵騎士達を圧倒し始めているので、その勢いに乗ってアハトとノインも意気揚々と攻めに来たのだが、何やら様子が可笑しいのだ。




「なんなのだあの化け物どもは!?」



「前線の騎士達は殆どが壊滅……すでに我らの部隊と後方の支援部隊しかまともに機能してません!」



「王国はこれほどまでの戦力を隠し持っていたというのか…団長はまだ戻らないのか!?」



「駄目です!依然上空の敵と交戦中!押されています!」



「くッ!我々は是が非でも団長が戻られるまで倒れる訳にはいかない!!防御陣形を固め、こちらからは決して攻勢には出ない様に徹底させろ!!」



「「「ハッ!!!」」」



アインス達と戦った先頭部隊もフィーア達に翻弄された前衛部隊も共通していた物は、全員がライア達王国軍を倒そうと躍起になっていた事。



支援が目的の後方部隊でさえ、飛行船へ向けて遠距離攻撃を主体に攻勢に出ているというのに、何故かアハト達の前にいる後衛部隊は守勢の陣形を固めている。




「うーん……どうするノイン?」



「我らが勝手に決めていい事なのかしら?せめて本体に決めてもらう方がいい気がするのだけれど」



未だ敵に気づかれずに上空に浮かぶアハトとノインは、呑気に今後の行動をどうするのかを話し合う。



「うち的には本体と同じく、出来るだけ戦闘は避けたいタイプだから、戦いにならないのなら大歓迎だけど」


「私も別段、戦闘に喜びを覚える性格ではありませんし、で済むなら大歓迎ですわ」



アハトとノインは性格や趣味趣向の違いはあれど、比較的非好戦的なライア本体と限りなく近い考えを持っており、戦わなくていいなら戦わずに誰も怪我をしない選択を取りたいタイプだった。



流れで始まってしまった戦いも元はと言えばアインスが『つまらねぇ』と少しは戦いたいなどと我がままを言った事により、ライア本体が『あ~…まぁそこは成り行きで』みたいなノリで戦闘を許可したのだ。



と、いうか、別人格の中で戦いたがりの戦闘狂はアインスとツヴァイだけだ、他の別人格達は程度に差はあれど、全員が戦いを避けるタイプの性格。



恐らく、ライア本体が『比較的キレイ』と称した魂はそういった戦闘や争い事を好まない性格であり、ライア本体が一番最初に造り上げた『汚れがひどい』方の魂を土台にしたアインスが戦闘狂な事を考えると、魂の汚れが酷ければ酷いほど戦闘狂の気があるのでは?とアハト達は考える。



そう考えれば、もう一人の戦闘狂の分類にされたツヴァイは、どちらかと言うとアインスに影響されてああなった印象があるので、やはり純粋な戦闘狂はアインスだけだなと結論付ける。




「ひとまず、うちらは本体の戦闘が終わるまで静観でいいよね?」



「そうね…一応他の場所に援軍に向かわれない様に監視はしておきましょうか。監視ついでに先程飛行船の中から拝借したいい香りの紅茶がありますの…それを飲みながらゆったりしましょ」



「お、いいねぇ!なら敵に見つからない様に【幻魔法】で姿を消しておこ!」




戦闘が無いのならば、自由にしていようとアハトとノインは瞬く間にティーセットとテーブルを分身体を操作して用意させ、アハトによる【幻魔法】の効果により、後衛部隊の騎士達が守りを固めるすぐ目の前でおしゃれなティータイムが行われるが、誰にもバレる事無く、アハトとノインの誰にも見つからないお茶会はツェーンの大々的なライブが行われるまで続いたとか。











―――――――――――

―――――――――

―――――――









――残党兵……それは戦いに敗れ、敵に叩かれる前に逃げ出し、生き残った者達。



戦争と言う規模の大きい出来事の中ではまず必ず生まれてしまう敗走者達。



「くそ!?なんであんなバケモンが王国にッ……やってられっか!!」



それは今回の戦いも例外ではなく、アインスやフィーア達の戦いを遠目で確認し、恐れを抱いた騎士が誇りや名誉の何もかもを投げ捨て、自分の命を守る為だけに逃げ出す者が一定数存在した。



もちろんアインスやフィーア達も出来るだけ敵を逃がさない様に戦っているが、敵を気絶だけに押しとどめ、殺さない様に手加減している事もあり、数名は取り逃がしてしまっている。



「…俺は国に帰って、この事を報告するんだ……だからこれは逃げじゃない……次に繋げる為の栄誉ある判断を……俺はしたんだッ!!」



敵前逃亡は元より、指揮官の命令を無しに勝手に行動する事自体が罪である事を都合よく頭の中から忘れ去り、自分が逃げ出す為の理由を必死に自分に言い聞かせる。



『醜いわね』



「ッ!?」



突如、戦場から逃げる男の耳に、まるで残響の様に響く女性の声が聞こえ、思わず足を止めて辺りを警戒する。



「だ、誰だ!?」



『戦場から逃げ出しておいて、自分を慰める為に理由付け?…貴方なんて、帝国に帰った所でお払い箱よ』



「ぐッ!貴様ッ!私を愚弄する気か!?姿を見せろッ!たたっ斬ってやる!!」



見えない敵。それは戦場を逃げ出してきた人間にとって恐怖以外の何物でもないが、それでも帝国騎士としての無駄なプライドは健全だったらしく、虚勢を張る様に腰からぶら下げた剣を引き抜く。



だが…。



―――キンッ……



「……は…?」



剣を引き抜き、体の正面で構えようとした瞬間に、何か目で追えない程の何かが目の前を横切り、剣の真ん中部分からキレイに真っ二つに切り落とされ、男は間抜け顔を晒す。




『馬鹿ね…なぜ私達が貴方に声を掛けていると思っているの?』



『私達は貴方を…と言うより、貴方みたいに逃げ出した人達を捕らえに来ているのよ?』



『……姿が見たいなら見せてあげるけど……いいの?』




声が、二重…三重に聞こえて来て、剣を切り落とされた男は悟る。



“逃げた所で追い付かれる運命だった”





『『『私達…貴方が一生懸命逃げようとした人達と同じ顔だけれど?』』』





「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」





男の前に現れたのは、先程まで戦場で暴れまわった化け物と同じ顔をした“化け物”だった。








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――――――







「ふふふ…どうどう?さっきの名演技だったでしょ?これならウィスンとして情報集めする時も役にたちそうじゃないかしら?」



「さっきの男の人も『ぎゃぁぁぁぁぁぁ』って叫んでたものね!あははは」



「もう!ウィリス?ウィリア?まだ逃げ出した人達は結構多いし、私達の仕事は捕まえた人達から尋問して情報を抜き出すのも仕事なんだからね?」



「「はーいウィンお姉さま」」




残党兵達を広い範囲で索敵し、見つけ次第確保に動いていたのは【ウィスン】のウィン、ウィリス、ウィリアの3人組。



3人は先程、騎士の男を捕まえた時とは違った雰囲気を醸し出しながら、うきうきとした表情で捕まえた捕虜達の尋問をしに歩き出すのであった。











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