UFOキャッチャー 👾

上月くるを

UFOキャッチャー 👾





 お、ぼうず、よく来たな~、あのコロナはんが居座っておったから、三年ぶりか。

 おっきゅうなったな~、ほうか、五年生か、どおりで「じいじ」言わないわけや。


 ほうか、サッカーと水泳、がんばっとるんか、やっぱりな、男はからだやからな。

 いいからだつくっとくと、あとが楽やで、その辺のヤンキーたらに負けんからな。


 じいちゃんか? 元早起き野球四番バッターのプライドにかけてがんばっとるで。

 この歳で、九時五時ではたらいとるんは、そうはおらへんで、自慢やないけどな。


 それというのもな、前の職場のバッティングセンターで見染められたからやで~。

 ちょうど打ちに来た市長はんがな、あの男どうやって、秘書はんに言うたらしい。


 で、市営クリーンセンターの臨時になった、ま、ヘッドハンティングやな。(笑)

 じいじ、ずうっとからだを使う仕事について来たやろ? それが幸いしたんやな。




      🏋️




 そりゃあおまえ、仕事いうんは苦もあり楽もありだけどな、ある意味、思い用や。

 いやだいやだ、なんでこのわしがこんな仕事せなあかんのやと思うたら負けやな。


 ろくにはたらかず休憩時間ばかり待っておったら、毎日がおもろいわけないやろ。

 けんどな、自分が少しでも市民の役に立っておると思うたら、楽しいてならんで。


 そりゃあ、事情を知らない人らは、あんなところで声を嗄らして車を誘導したり、粗大ゴミの仕分けをしたり、寒くて汚くて危険で、いやな仕事やと言うかも知れん。


 だがな、じいちゃんは誇りをもってはたらいておるんじゃよ。これでもセンターになくてはならない人間でな、みんなにレジェンドと呼んでもらっておるんじゃ。🤠


 それにな、ふふふふ、これは内緒じゃが、たまには感じのいいご婦人が、いかにも心細げなようすで、軽自動車に古布団や毛布を乗せてオドオド運転して来るわけよ。


 そういうときはな、すっとんで行って手伝ってあげたいところをグッとこらえて、車の誘導や置き場の指示をとくに親切にしてあげると、こういうわけじゃ。(*'▽')




      👽




 ところで、いい機会だから、おまえにひとつ教えてもらいたいことがあるんじゃ。

 近ごろ、家庭から持ちこまれる粗大ごみに、巨大なぬいぐるみが目立ち始めてな。


 まごまごすれば人間の大人ぐらいありそうな、クジラとかイルカとかトカゲとか。

 以前は見かけなかったのに、コロナ明け前から急に増えて来てたまげとるんだわ。


 なに、 UFO キャッチャー? なんじゃそりゃ、ああ、ゲームセンターのアレか。

 たしかむかしはクレーンゲームとか言わなかったか? あ、そう、どっちも同じ。


 その景品がどんどん巨大化して、子どもばかりか大人の人気まで集めてるのかい。

 ったく近ごろの連中は……そんな暇があるんだったら筋トレでもやったらどうだ。


 まあ、それはともかく、じいちゃんとしては、かりにも可愛らしく笑うとる動物の人形をガラクタ同様に処理場に放りこむのは、ここがな、チクチク痛むわけじゃよ。


 じいちゃんひとりの力でどうこうできる話じゃあないが、なあ、どうよ、ぼうず、大の動物好きなおまえなら、じいちゃんのつらい気持ち、分かってくれるじゃろう。




      🎐🎐🎐🎐




 それから十年後、筋肉自慢の老人もさすがに引退し、あっさり異界へ去りました。

 大学卒業と同時に史上最年少の国会議員になった孫は、祖父の代弁者として奔走。


 いたいけない動物のぬいぐるみをゲーセンのクレーンで釣り上げ、飽きるとポイと粗大ゴミに出すというあそびは、非情なペットショップ経営と共に規制されました。




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