第54話 それから②
「それで? 誰と連絡をとってたの?」
すっかり夜がふけ、有声は横にいるルビに話しかけた。ルビが自在に姿を変えられるので、それが分かってからは一緒のベッドで寝るようになった。
ルビは寝られることを喜び、早く教えるべきだったと後悔していたぐらいだ。
有声よりも少し大きいぐらいで、ほとんど変わらない。小さくなった方がスペースに余裕ができるが、ルビがそれを許さなかった。小さくなって、可愛いと愛でられるのはプライドが許さない。そういう反抗もあり、ベッドを大きくして対応した。
「わざわざあの時間に連絡したってことは、緊急の話だったんじゃない? 何があったのか教えて。それとも、俺には言えない話?」
つんつんと体を指で押しながら、有声は口を尖らせる。その動作に悶えつつ、ルビはキリッとした顔を作る。
未だに、格好いいと思われたいという気持ちがあった。これまで格好悪いところを、散々見られていたのにも関わらずだ。
『小賢しいのが増えてきたから、そろそろ忠告をする頃合いかと思ってな』
「また? そんなに酷い状態になってきてる?」
たまに街に出かけることはあるが、基本的には人間のいる場所からは離れて生活している。そのため、世間の動向をあまり把握してなかった。
「この前は、同盟組んでここを破壊しようとしていたんだよな。今度は何をする気?」
『……それがな、また召喚を行おうとしている。それも1人ではない』
「は? それは法律で禁止されたのに、一体どこの馬鹿がやろうとしているんだ?」
ルビの言葉に、有声は目を細め静かに怒る。
彼は、三郎もそうだが、自身と同じような境遇の人をこれ以上増やさないために、周りに力を貸してもらい、世界にある法律を作らせた。
――今後一切、他の世界から人の召喚を禁じる。どんな理由があろうとも、この世界にある人や技術だけで解決する。それ以外は認めない。
もちろん反発もあったが、これまで勝手に召喚されて苦しい思いをした人の賛同が多く、完全合意に至った。
それなのにも関わらず、法律を破って召喚を行おうとしている馬鹿が現れた。
静かだが、そのうちにある怒りは大きかった。
『我も、まさかそんな愚かな真似をする者がいると思わず、真実かどうか調べていた。そして先ほどの連絡で、どこの国で準備をしているのか報告を受けた』
「どこ? なんで、早く教えてくれなかったの」
『落ち着け。そうやって、暴走しかけるのが目に見えていたからだ』
召喚関連の話は、怒りで有声の視界を狭める。とにかく許さないと、乗り込んでいきそうになるのを、ルビがなんとか止めていた。
なだめすかして、時にはオルとロスの力を借り、有声が怪我をしないように頑張った。そのため、止められる算段が無ければ、無駄な混乱を避けるために話す時期を見合せた。
言わないという選択肢は、有声との約束で隠し事をしない、があるので選べなかった。
「でも、準備を始めているってことは、いつ実行するか分からないだろ。早く止めなきゃ。もう、無理やり連れてこられる人を増やしたくない」
『ユーセイの気持ちはよく分かる。しかし事を急いでは、相手に逃げられるかもしれない。それは望まないだろう?』
「……うん、ごめん。熱くなりすぎた」
『よい。それぐらい頭にくることだ。定期的に引き締めないと、すぐに調子を乗る。駄目だな。きちんと、監視しておかなくては』
ルビは深い深いため息を吐いた。同じように怒りを感じているのを察し、有声はなだめるために体に触れる。
「人間もそうだけど、みんな間違える。忘れる。良くないことだと分かっていても、行動を起こしてしまう。……間違いは正さなきゃ。悲しむ人を増やさないために」
『ユーセイは悲しかったのか?』
「分かっているくせに。ルビに会えて幸せだよ。俺は、この世界に来られて良かった。でも運が良かっただけだから。俺みたいに幸せな人ばかりではなくて、辛い思いをしている人の方が多い。そんな賭けみたいな行為は不必要だ。今後一切」
『ああ……お主が現れたことに感謝はするが、行為を肯定したくない。きちんと取り締まろう』
「うん。教えてくれて、ありがとう」
『ああ。また明日、詳しいことを話そう。そして一緒に、忠告をしようではないか』
「了解。俺も協力するから」
ふわあっと大きな口を開けて、有声は眠りの体勢に入る。その口元にルビは顔を寄せ、笑い合いながらキスをした。
翌日、世界中の人間。それ以外の種族にも向けて、通信魔法が発せられた。生きている者は、何も例外なくだ。
通信魔法は映像付きで、ルビの姿が実寸大で映された。
その姿に圧倒されたのは、多くが人間だった。ドラゴンの話を聞いていても、実際に見たことがない。映像でも食い殺されそうな気がして、腰が抜けた人もいた。
『……簡潔にしか言わない。愚かなことを考えている者は、即刻中止せよ。さもなくば……』
「みんなで突撃するから、よろしく。命知らずな人はやってみな……はは。いつでも相手をする」
ルビの後ろから、ピースをした有声と、オルとロスが牙を向いて現れた。ほのぼのとした言い方をしたが、有声の雰囲気はルビ以上に恐ろしかった。
馬鹿なことを考えていた者も、これからしかけていた者も、計画を頓挫させた。
この日もまた、伝説となり後々語り告げることとなった。
あるところに、他の世界から召喚された人間がいた。彼はドラゴンに見初められ番となり、オルトロスを子供とし、たくさんの種族と交流を深めた。
彼の持つスキル『通訳』が他と違うと分かった後、人間だけでなく色々な者から狙われた。
しかし、その全てを番のドラゴンや家族が排除していったおかげで、彼は平穏とは言えなくても無事に過ごせた。
ついでのように召喚された形となったが、彼は最後の時まで幸せだった。
『通訳』スキルで愛される? 瀬川 @segawa08
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