転生先はダンジョンの中。スキルも無いのにレベル1って…… これもう積んでますよね…… ははっ、はぁ(泣)

鷺島 馨

転生先はダンジョンの中。スキルも無いのにレベル1って…… これもう積んでますよね…… ははっ、はぁ(泣)

【異世界へ】


 春の陽気に誘われて近所の公園へと向かっていた僕・北沢きたざわ あきら(十五歳)はホント不幸としか言いようのない事故に遭った。


 歩道橋の上で騒いでいた高校生男女数名の傍を抜けて行こうとした時にふざけていたんだと思うその人たちが僕の背中にぶつかった。


「あ、悪りぃ」

「えっ!?」

「きゃぁっ!?」

「うそっ!?」

「おいっ!?」

「やべっ!?」


 手摺りに伸ばした手が空を切った。

 勢いのついた身体はそのまま前に倒れていった。

 何故だろうか。こういう時って時間がすごくゆっくり流れていく。自分の状態は理解できるのに身体がついてこない。

 このまま倒れたら頭を打つ。それは理解してる。理解しているのに身体の前に腕を持ってくることができない。

 あ〜、まいったなぁ…… 来週遊びに行こうってりっちゃんと約束してたのに…… 悪いことしたなぁ……


 それが北沢きたざわ あきらとしての最後の記憶になるとは思ってもいなかった……


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


「痛い…… それに硬いし、暗いし、生臭い……」


 どこかわからないけど衛生的に良くないことだけはこの硬くて臭い床でわかる。わかるんだけど…… どうしてこんなところに僕はいるんだ?


「確か…… 歩道橋を渡ろうとして……………… そうだ! 落ちたんだった」


 真っ暗でなんの明かりもないこの場所にどうしているのかわからない。けど、身体の痛みは硬い床で眠っていたことが原因のものだけで骨が折れたり、打ち身、擦り傷なんかは負ってなさそうだ。手探りで身体を弄ってみても外傷は無さそうなんだけど、なんとなく身体の感じが違う。具体的にいうとあったモノが無くなって、無かったモノがある。そんな感じ。それに髪の毛もなんか長くなってる。


 なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? 


 疑問符がグルグルと頭の周りで渦巻いている。そんな錯覚を覚えるほどに混乱した。百歩譲って異世界に転生したとしても僕、神様に会ってないし、スキルも貰ってないよ。お約束の展開は? ねぇ、どうなってるの? こんな真っ暗なところに放り込まれるようなことしてるのこの身体は!?


「そうだっ! ステータス! メニュー! 駄目だ。でない……」


 よくある異世界転生もののように神様からチートなスキルも貰ってない。けど、こんな暗くて生臭いところに神様が来るとは思えないから異世界転移という線はないものとして考えよう。そうなると……


「うえっ、ここってもしかして地獄? 僕、そんなに悪いことしてないはずだけど……」


 十五年の人生を振り返ってみてもそんなに悪いことはしてない。そのはずだ。

 なのに、どうして、こんな目に遭ってるんだろう……

 理不尽な状況にいつの間にか涙が溢れて落ちていた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


【ダンジョンマスター】


「今日も来訪者は無しか…… いい加減誰か来てくれんと我も飢えてしまうぞ」


 我はこの『紅の祠』と呼ばれるダンジョンの管理者だ。つまり我はダンジョンマスターだ。

 とは言っても先代が「普通の幸せを手に入れる!」と叫んで弟子の我に押し付けたのが大体三十年前のこと。

 我が引き継いで間も無く五階層の守護者が討伐された。

 それはまあいい、想定範囲内の話だ。問題は守護者を討伐した探索者が六階層へ続く道を見つけられなかったことだ。

 先代が巧妙に隠した。なんてことはなく守護者が守っていた石棺の底が二重底になっていてそれが六階層への降り口なんだけど、ここまでは守護者を討伐したら次の階層への降り口が出現していたから五階層が最下層という勘違いをされたうえ「最下層の守護者を討伐しても大した物が手に入らなかった」という噂まで流れたらしい。

 本来は最下層の守護者(我ではない)を討伐したものには『炎の護符』というアイテムが手に入るようになっていたのだけど……


「まあ、来ぬもんは仕方ない…… 飯にでもするか……」


 部屋の奥にある鏡を潜って地上へと続く昇降機に行かんと足を踏み出した。

 グニュッとした感触が靴底に伝わり「ひっ!」っと声がこぼれたのと同時に「ぐゅっ!?」と変な音が足元から聞こえてきた。


「灯りを!」


 我の声に応えて明るくなった昇降機の間。そこには信じられないものが居た。

 ど、っど、どうして? なんで? どうやって入ってきた?

 この昇降機は我の持つ『紅のリボン』が無いと作動しないように作り変えているから先代も使うことはできないはず。

 それなのに昇降機の間には全裸の子供が仰向けで転がっていた。踏み出した我の足はその子供の股座を踏んでいて靴底に感じていたグニュッとした感触が次第に塊感を伝えてきた。

 恐る恐る足をあげると反り返った男性器がそこにあった。


「うにゃ〜〜〜〜〜っ!?!?」

「っひう!? う、うえぇ〜〜〜〜〜〜!?!?」


 昇降機の間に我と全裸の男の子の叫び声が響いた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


【状況確認】


 あまりに驚くことが多すぎてまだ混乱していた元・北沢きたざわ あきらは自分の身体をあらためて凝視した。


「やっぱり男の子になってる……」


 北沢きたざわ あきらは体型やボーイッシュな格好を好んでいたことや名前から男の子と間違われることはあったがれっきとした女の子。それがいまは男の子になっているうえに鏡に映った外見、ダンジョンマスターと名乗った女性との身長差から年齢も十に満たないんじゃないかと思っている。

 性別や外見が違っていることから転生したんだと思う。納得はできないけどそういうもんだと諦めた。でも、普通は転生なら赤ん坊からだよね! なんで中途半端に若返ってるの!? それも子供なんてギルド(あるかはわからないが)で仕事を受けることもできないよね!? それにダンジョンってなんで!? 僕一人だよね!? 保護者もいないよね!? これ、もう詰んでるよね!?


 パニック状態に半ば陥った僕のところに(自称)ダンジョンマスターさんがボロい貫頭衣を持ってきた。


「前にダンジョンにきた探索者が忘れていったものしかないけどとりあえず着ろ」

「うっ、はい……」


 現代社会ではここまでボロい服を見たことがない。

 そう言えるほど擦り切れて変なシミもついたソレを頭から被る。外見から想像していたような悪臭はしない。そのことにホッとした表情をしたことに気づかれたからか、


「雑巾にでもしようかと思って洗ってあるから安心しろ」

「は、ははっ、はぁ……」


 ダンジョンマスターさんの言葉に従ってボロ布を身に纏ったところで改めて彼女の顔を見る。どこかで見たことがあるような……


「あ〜〜っ!? See CupのRinに似てるんだ」

「んなっ!? きゅ、急になに言いだすんじゃ!?」

「え〜〜、Rinでしょ? 違うの?」

「な、な、な、なんのことじゃ」


 この感じ、多分間違いない。

 去年のイベントを最後に姿を見せなくなったアイドルのRinに違いない。りっちゃんがファンだったからその話は何度も聞いた。もう耳タコだよ。

 それにしてもまさかこんなとこでアイドルと会うなんて思ってもみなかった。

 僕が思考の海から意識を浮上させたところでRinも落ち着きを取り戻したみたいで僕に問いかけてきた。


「なんで我、Rinのことを知ってるのじゃ? あれから五十年は経ってるのに……」

「えっ…… Rinの姿を見なくなったのって去年のことだよ……」

「つ、つまり、ものすごく時間の流れ方が違うということか……」

「「…………」」


 えっ、ちょっと待って五十年って、どう見てもRinがそんなに年上に見えない。て言うか、顔だけ見ればアイドルしてた頃と変わらないんだけど。あの頃のRinは十七歳だったから、単純に五十を足すと六十七!? いやいや、そんなはずないよね。どう見てもりっちゃんに見せてもらった画像と変わらないように思えるんだけどなぁ。

 試しにSee Cupの曲で唯一僕が知ってるのを口ずさんでみた。


「♪〜〜」

「っ!? ラ〜〜」

「…………」

「あっ……」


 イントロに反応するように歌い出したのをジーっと見つめているとRinは頬を染めて歌うのをやめてしまった。


「どうぞ続けてください」

「やだよ。恥ずかしい…… この歳になってアイドルソングなんて歌えないよ」

「この歳って、どう見てもアイドルの頃のまんまなんだけど……」

「いやいやいや、五十年もこっちで過ごしてたら、もうアイドルはできないよ。見た目はこんなでも精神的には過ごした年月の分だけ成長してるんだし…… それに、キミもこうしている間に元の世界とどんどん乖離していってるんだからね。まあ、気にしても帰る方法がないから意味ないけどね」


 こうして会話しているうちに最初の「我」とかちょっと威厳があるふうに話そうとしていたのも忘れたのか普通に会話してるRinに改めて問う。


「それでRinのことはなんて呼んだらいいの? Rinでいい?」

「Rinはやめて。凛佳りんか公家くげ 凛佳りんかよ。苗字は嫌いだから名前で呼んでいいわ。凛佳りんかさんと呼んで」

「わかったよ凛佳りんかさん。僕は北沢きたざわ あきら。生前は一応女子だったんだけど……」

「えっ、アンタって転移者じゃないの? じゃあ、神様には会った?」

「神様!? えっと、会ってない、です」

「じゃあ、スキルは? ステータスは?」

「やっぱりスキルとかステータスってあるんだ…… でも、メニューとかステータスって言っても表示されないんだけど」

「こうやってみて」

「こう?」

「そう」


 人差し指と中指を揃えて上に弾くようにふる動作を真似る。

 なにも出ないんだけど……


「ステータスオープン」

「えっ!?」

「ハイっ、復唱して」

「えっ、あっ、えっと、ス、ステータスオープンっ! っ!? で、でたっ」


 うん、ステータスが表示されたことは感動なんだけどステータスの低さに泣きそうになった。


【名前】:北沢きたざわ あきら(仮)

【レベル】:1     【職業】:

【能力値】

 筋力:  6 知恵:  8

 信仰:  1 敏捷:  4

 生命:  6 運 :  1

【スキル】

 なし


 そしてHP/MPといった数値が無いことに疑問を抱いていると僕の疑問を察したように凛佳りんかさんが視界の隅あたりを指差した。

 あっ、こんなとこにHP/MPバーがあった。でも数値は表示されないんだ。


「ぶふぁっ!? (仮)かっこかりってなに! それにステータスひっく! 笑わせないでよね」

「えっ!? なんで!? どうして僕のステータスが見えるの」

「ふっふっふぅん。それはねぇ…… ダンジョンマスター特権でダンジョン内に限ってだけど他人のステータスが見えるんだよ」

「ずるい、僕にも凛佳りんかさんのステータス見せてよ」

「ん〜〜、まあいいか。はい」

「どれどれ…… なにこれ……」


 なんと言ったらいいのか、表示はされているのに文字化けだらけでなにもわからないんですけど……

 ジトーっとした視線を凛佳りんかさんに向ける。


「レベル差が大きいと相手のステータスは見えないんだよ。これは鑑定魔法でも一緒だからね」

「ってことは僕に凛佳りんかさんのステータスが見えないってことはレベル差が大きいと」

「まあ、これでもダンジョンマスターだからね」

「?」

「ダンジョンマスターにレベルの上限は無いみたいなんだよね」

「っ!? ちなみに人間の上限は……」

「うちに来てた探索者だと…… 一番高かった人で二十だったかな?」

凛佳りんかさんのレベルって? 二桁?」

「ううん。違うよ。あ、一桁じゃないよ」

「Oh……」

「それより名前、どうするの? いつまでも(仮)かっこかりのままっていうのも都合が悪いんじゃない? ギルドに登録するにしてもステータス見られるわけだし」

「ギルドあるの!?」

「あるわよ。ほらギルドカード」


 僕の前に差し出された凛佳りんかさんのギルドカードには『リンカ』と記されていてレベルは五。五? どういうこと?

 いや、それより職業がメイジって、ダンジョンマスターじゃないの?


「あ〜〜、表示についてはステータスに欺瞞情報載せてたからね」

「ん、んんっ、それで、どうして凛佳りんかさんがギルドカード持ってるの?」

「なんでって、ご飯食べるのにもお金はいるし、ダンジョンで手に入るモンっていったら『紅の魔石コア』くらいだし、換金するならギルドが一番高く引き取ってくれるからね」

「なるほど…… そういえばお腹が空いてる気がする」

「あ、そうだ。ご飯買いに行こうとしてたんだった。どうする? 一緒にくる?」

「えっと、地上までどれくらいかかるの?」

「ん〜〜、すぐだよ」

「えっ、このダンジョンそんなに浅いの? それともテレポートの呪文? 『いしのなかにいる』ってならない?」

「ならないわよ。専用の昇降機があるから」

「そ、そう。よかった」


 そういうわけで二人で地上に行くことになった。

 最初にいた部屋にあった(生ゴミの入った)樽を持たされたけど。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


【地上へ】


 昇降機で地上にあがる途中で僕もギルドに登録しておいた方が便利だと凛佳りんかさんからアドバイスをもらった。名前は変に変えても馴染めそうに無いから『アキラ』にすることにした。これなら名前を呼ばれて反応できないなんてこともないだろうし。

 昇降機はビックリするくらい静かに上昇して静かに止まった。


「こんなエレベーター元の世界でも無いよ」

「だよねぇ、それに私だけが使えるがないとエレベーターも見えないからね」

「それでここから出口までどのくらいなの?」

「ん〜〜、ちょっと待ってね」


 そう言って凛佳りんかさんはマップを開いてその表示を確認する。


「オートマッピングなの?」

「違うよ。他の探索者がいないか確認してたとこ」

「てことは、それもダンジョンマスター権限?」

「そうそ。よし、誰もいない。ついてきて」

「えっ、そこ、壁じゃ……」


 凛佳りんかさんがエレベーターの正面の壁に進むとそのまますり抜けた!

 まごまごしていると壁から凛佳りんかさんの顔が生えてきた。


「早く!」

「ええい、ままよっ」


 ええい、ままよなんて言葉、自分が言うなんて思わなかった。それはいいとして目の前が出口って、すごい便利…… 便利でいいのかな?

 スタスタと慣れた足取りで進む凛佳りんかさんの後を追ってダンジョンから出た。その瞬間にここが異世界だという実感が僕を襲った。


 中世風な建物。そこらを歩くいかにも冒険者、いや、ここじゃあ探索者って言うんだったっけ。それに道行く人の服装もそれっぽい。

 その光景は僕を興奮させた。


「ワクワクしてるとこ悪いけど先にギルドに行くよ」

「なんで?」

「お金がないの」

「あ、はい納得しました……」


 ダンジョンからギルドまでの距離は大体一キロでこの街には『紅の祠』の他に三つの祠があるらしい。


「まあ、私たちはお互い他のダンジョンに入れないんだけどね」

「それはDMだから?」

「ん。そういうこと」


 お喋りをしながらギルドへの道を進んでいくと探索者相手の露店らしきものから胃袋を刺激する匂いが漂ってくる。

 グキュルルルルゥ〜〜と激しく主張してくる胃袋に僕は顔が熱くなった。


「早く行こう」

「う、うん」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ギルドに着いてすぐに樽を裏に持っていって「ダンジョンで回収してきました」としれっと言った凛佳りんかさんはそのまま魔石の買取も済ませちゃった。

 そのあとは問題なくとはいえなかったが、なんとかギルドで登録を済ませた僕はお古の服と装備を買ってもらった。


「いやぁ、ギルドの職員があんなに必死になって止めたのは初めて見たよ」

「ははは…… 『絶対に一人でダンジョンに入るな』って言われたし……」

「うんうん、かすっただけで死んじゃいそうだもんね」

「うっ、それは洒落にならないんですけど」

「じゃあ、ご飯に行こうか」

「うん」


 ご飯といっても食堂はギルドとダンジョンの間にはなかったから露店で食べるのかなと思っていたら、凛佳りんかさんはそのままギルドの奥の酒場に向かっていってカウンターの中のお爺さんに「いつもの二つ」と言って注文を済ませちゃった。


 やってきた料理はなんというかワイルド。

 分厚いステーキに野菜を茹でたものが添えられているというものだった。

 味付けは全体的に塩が効いているという感じで大雑把なんだけどいまの僕の身体にはそれがとてもいい感じに思えた。


「ごちそうさまでした」

「はい、ごちそう。じゃあ帰ろうか?」

「えっと、僕も行っていいのかな……」

「なに言ってるの? 他に行くあてもないんでしょ? 同郷のよしみで面倒見てあげるわよ。その分、働いてもらうけど」

「あ、うん、ありがとう……」

「ほら、しんみりしない!」


 食べ終わった頃になると店内は多くの探索者で賑わい始めていて僕たちの方を窺っているのか挑発か、どっちにしても気分の良くない視線が向けられてきていた。

 凛佳りんかさんは被っていたフードを一層目深に被って顔を隠した。そのまま凛佳りんかさんはお爺さんのところに行って、料理の代金の支払った。席に戻ってくるなり顎で「出るよ」と合図を送ってきて、僕の腕を引っ張ってギルドを出た。


「はぁ…… あの探索者たち苦手……」

「なんかあったの?」

「ん〜〜、登録した時にダンジョン内での注意点を聞いたでしょ?」

「うん」

「ダンジョン内で討伐したモンスターは魔石コアを取り出しても消えないでしょ? それと一緒で探索者が捨てていったゴミも消えないんだよ」

「あ、それで樽に入れたゴミをギルドに持っていってたんだ」

「そうだよ」

「それであの人たちはなんかしたの?」

「あの人たち、魔石コアを取り出すの下手なんだよね」

「つまり?」

「後片付けが大変なのよ」

「それって、モンスターがしてくれないの?」

「してくれない…… 五階層までの魔物が少なくなってて、そこまで手が回らないのよ」

「他の祠もそうなの?」

「どうだろ? でも、探索者が来てた頃はそんなことなかったから他所はそんなことないんじゃないかなぁ」

「それって、もしかして凛佳りんかさんの生活費(魔石コア)に消えてるんじゃない?」

「あっ」


 なんとなく察した。凛佳りんかさんがギルドに持っていってる魔石コアは一階層から五階層のモンスターをポップさせるための魔石コアだったんだ。それを生活費にしてるからモンスターがいないと。あれ、でも生ゴミがあるってことは探索者は来てるんだよね?

 その疑問を込めた視線を凛佳りんかさんに向けた。

 ツイーっと視線を逸らされたことから推測する。


「ダンジョンに探索者来てないんですか?」

「来てない……」

「でも、ゴミがあったよね?」

「私のご飯のあと……」

「えっと、ギルドで食べてないの?」

「一人で食べてたら絡まれるじゃない。だからいつもは露店で買って帰ってるの」

「あ〜〜、納得……」

「あ、そうだ! 料理できる?」

「できないことはないけど……」

「じゃあ食材買って帰ろ!」

「それって、僕が作るの?」

「うん、私作れないし!」

「あ、うん、頑張ってみる。不味くても文句言わないでね」

「それは食べてから考える」

「うっ、そこはお手柔らかに、お願いします……」


 そのあと露店で食材を買ってダンジョンに戻る。

 一応、格好は戦士とメイジなんだけど手に持ったカゴに食材や身の回りの小物が入っているこの姿でダンジョンに入るって…… どう見てもおかしいでしょ。そのあたりのこと凛佳りんかさんはどう思ってるんだろ。


【僕の異世界生活(泣)】


 僕がこの世界に転生して一月が過ぎた。

 僕はいまだに凛佳りんかさんのダンジョン『紅の祠』に居候させてもらっていた。そしてギルドカードの【職業】欄に新たな職業が表示された。

 戦士(仮)から家政夫…… にジョブチェンジしていた。

 第二職業なんていうものはないらしいし、家事をすることで経験値が入ってるみたいでレベルも二になった。


 ちなみにいまのステータスはこんな。

【名前】:アキラ

【レベル】:2     【職業】:家政夫

【能力値】

 筋力:  8 知恵:  8

 信仰:  1 敏捷:  6

 生命:  7 運 :  2

【スキル】

 なし


 なんていうかこう、パッとしないしスキルも生えてこないし、僕はこのまま家政夫としてダンジョンで過ごすんだろうか。

 それもずっと凛佳りんかさんに養われて。いや、確かに対価として家事はやってるけど。でも、あ、だから家政夫なのか。

 職業欄が家政夫になった理由はなんとなく理解した。したけど。


「納得できなぁ〜〜〜い!」


 ダンジョンの奥深く、凛佳りんかさんと僕の住居スペースに叫び声が響いた。僕の異世界生活はこれからどうなってしまうんだろうか。

 嗚呼、物語の主人公みたいな凄いチートスキルを手に入れて主人公ムーブしてみたかった。


「どうしたのぉ?」

「あ、いや、その、なんでも……」

「ぷふっ!? か、家政夫、家政夫って!? あ、あはははっ、ひ、ひぃ、おかしい、職業:家政夫って、あ〜、ははっは、ひ、ひぃ、い、痛い、痛い、お、お腹、痛い、ねじれるぅ」


 そんなに笑わなくてもいいじゃない……

 それにしても家政夫かぁ…… ホント、どうなるんだろ。僕の異世界生活……


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GW皆さんいかがお過ごしでしたか?

私の住む地域は連休前の予報より天気が持ったのでそこは良かったです。


【改訂版】勇者召喚に巻き込まれて二年が過ぎました。〜幼馴染二人は勇者と聖女で、いい加減養われている事に耐えきれなくなった俺は二人の元を離れます〜


https://kakuyomu.jp/works/16817330651966857548/episodes/16817330651966883731


こちらのストックを書いている間に浮かんだ駄文になりますが宜しければお読みいただければと思います。

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転生先はダンジョンの中。スキルも無いのにレベル1って…… これもう積んでますよね…… ははっ、はぁ(泣) 鷺島 馨 @melshea

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