三章充電中【改訂版】勇者召喚に巻き込まれて二年が過ぎました。〜幼馴染二人は勇者と聖女で、いい加減養われている事に耐えきれなくなった俺は二人の元を離れます〜

鷺島 馨

勇者召喚に巻き込まれた一般人のその後

第1話

 二年前、俺と幼馴染二人はこの世界『アルジョンブロン』に召喚された。

 ユイナ(白井しらい 唯奈ゆいな)は『勇者』、リサ(遠野崎とおのざき 里依紗りいさ)は『聖女』として。


 召喚の際に一緒にいた俺は巻き込まれた一般人。

 称号も特別なスキルも無し。

 この二年間、完全に二人に扶養されている状態。

 ゲームのようにステータスが見れるわけでもないから自分がどの程度のことができるのかも分からない。


 俺はそれでも何かできないかと探索者組合の裏方の仕事を手伝って日銭を稼いでいた。

 その甲斐あって最低限、護身程度には武器を扱えるようにはなった。

 それ以外にも解体技術や知識は日々増えていった。武器の扱いよりこっちの方に適性があるのかもしれない。

 そんな生活をしていると探索者組合の皆んなにも認められてきたのか、正式な職員にならないかという誘いが来るようになった。


 受付のお姉さん、リーリレイアさんからは組合の近くにある住居の案内も受けている。

 仲の良くなった探索者から剣術を習ったりもしている。やっぱり最低限の自衛手段くらいは欲しいからね。


 それに唯奈ゆいな里依紗りいさが王城に呼ばれて不在の時には二人に内緒で探索者の依頼に同行させてもらったりもした。なんとか低ランクの依頼がこなせるようになった頃、俺は正式に探索者組合に加入した。

 この探索者組合の組合証は他の街へ入る時に身分証にもなるからどうしても欲しかったんだ。

「これで、二人がいなくても他所の街に行けるようになった」

 かねてより計画していたことを実行に移す時が近づきつつある。

「いい加減、二人から自立しないとな」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 その決意から二ヶ月。

 すっかり俺に対して庇護欲を抱いている二人に気づかれないように旅立ちの準備を済ませていた。

 出立は唯奈ゆいなたち二人がこの街を離れている間にしようと決めていた。


礼央れお、また明日から暫く家を空けるね」

礼央れおくん、危ないとこに行ったらダメだよ」

「あ、ああ、わかってるよ里依紗りいさ

 計画を決行する日がやってきた。

 唯奈ゆいな達が出ていった翌日、俺はリーリレイアさんに出立の挨拶をする。

「リーリレイアさん、俺、ジェドの街に行って来ようと思うんです」

「また戻って来ますか?」

「向こうに暫くいると思うので戻るのはいつになるか分からないです」

「そうですか……  残念です」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですね」


 それから組合の裏に回ってお世話になった方に挨拶をしてまわる。探索者の知り合いとも挨拶を交わし、ここにいない人にもよろしく言ってもらえるようにお願いしてから組合をあとにして、馬車の乗り場に向かった。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ジェドの街に向かう馬車の中でうたた寝をしていた俺はこの世界に呼ばれた時のことを夢に見ていた。


 あの日、俺達三人は下校途中に茶虎柄のさくら猫(去勢手術を受けた地域(野良)猫で耳の先端にV字の切り込みが入っている)が怪我をしているのを見かけたところまでは間違いなく元の世界だった。

 その猫に最初に気づいたのは里依紗りいさ。彼女が猫に近寄ろうと路地に足を踏み出した瞬間に唯奈ゆいな里依紗りいさの足元に光を放つ魔法陣(だったと思う)が広がった。

 俺は丁度その魔法陣が重なり合ったところに立っていて、どちらに手を伸ばそうか逡巡した。


 それは一瞬の出来事だった。

 ふわっと身体が浮いたと感じたその次の瞬間、眼下には俺達の住む町があるのに頭上には平原と森、それと点在する街があった。それらはあっという間も無く俺達を飲み込んだ。


 目を閉じるその直前に捉えた二人は、優しい白い光の粒子に包まれていた。

 何故かそれを見た俺の口からは「妖精……」という言葉が溢れた。遠ざかっていく二人を包む光球に向かって手を伸ばす。

「行くな!!」

 そう叫んだ俺の身体は背後から弾かれた様な衝撃と共に二人の方へ飛翔した。


 その衝撃で意識は遠のいていく。僅かに残った意識の中「にゃ〜お」という鳴き声を聞いた。

 ぼんやりと輝く猫のような光体は同じように輝く翼を背に持った白い髪の女性の腕の中で俺に向かって鳴いていたように見えた。

 それがこの世界に来る直前までの記憶。

 多分、あれがなければ俺はこの世界に来てなかったんだと思う。


 次に意識が覚醒したその時、俺の目に入って来た光景、滲んでいたそれに徐々に焦点が合うように輪郭が定まってくる。

 俺達は魔法陣の中心に横たわっていて、周囲に幾つもの石柱が規則的に並び俺達を取り囲んでいた。


「(おお、成功だ。異世界の)勇者を召喚したぞ!」

 最初は頭の中に響くように聞こえてきていた会話と聞いたことのない言葉は次第に理解できる音として捉えられるようになった。言葉がわかる、のか?

 その声のした方に視線を向けると十人くらいの人がいた。

 ゲームとかでよく見るような、如何にも神官といった服装に身を包んだ男女が八人、貴族っぽい服装の男女が各一名そこにいた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ガタンと大きく揺れたその衝撃で俺は目を覚ました。

「う〜ん、寝てたのか……」

「おっ、兄さん起きたのか。休憩だってさ」

「あ、ありがとうございます」


 こんな感じでのんびりとした旅は続いて、特に何かが起きることなく俺はジェドの街に辿り着いた。


◇◆ ◇◆ 唯奈ゆいな里依紗りいさ Side. ◇◆ ◇◆


 俺の出立からひと月後、家に帰ってきた唯奈ゆいな里依紗りいさはテーブルの上の手紙に気づくことになる。


『探さないでください。礼央れお


 二人はその手紙を前にテーブルに手をついて肩を振るわせる。

「ねえ、里依紗りいさ。どうする?」

「どうするも何も探しに行かなきゃ……」

「何処に?」

「まずは探索者組合から」

「すぐに行こう!」

「そうね、お姉さんとしては心配だもんね」


(俺と二人に血縁関係は無いし同い年だ!)

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