第2話

◇◆ ◇◆ 礼央れお Side. ◇◆ ◇◆


 もうそろそろ、唯奈ゆいな里依紗りいさの二人が家に帰って来たと思う頃に俺はジェドの街で新米探索者として如何どうにかやっていた。ルゥビスの街で解体技術や採取技術を学んでいたおかげで同ランクの探索者よりも状態の良い素材を持ち帰るということが認められて、採取依頼を指名されるようになっていた。


 今日の俺は指名依頼の薬草採取に街の外にやって来ていた。

 周囲に獣が殆どいないことで知られている森。

 この辺りの獣は無闇に人に襲いかかることがないから素材採取がメインとなる新米におすすめされている採取場所。


「さて、雨が降りそうだからさっさと済まそうか」

 今回、依頼のあった素材はリジュという朱色の花を咲かせる百合に似た植物。

 特別な薬(なんの薬かまでは俺は知らない)を作るのに必要な素材だそうだ。必要となるのは球根だけなんだけど花や葉も素材になる。

 ただ、植っているのが日当たりの良い崖で、比較的簡単に取れるところに生えているのはこういった指名依頼が入る頃には残っていないというのが現実。

 実際、目処をつけていた採取ポイントには掘り返された痕だけが残っていた。

「やっぱり簡単に取れるところのやつはないか……」

 少し険しい場所になるけど以前見かけた崖の方に向かう。

「こっちは取られてなかったか」

 リジュ採取の報酬額としてはリスクの高い場所。

 滑落の恐れがあるこの場所にわざわざ採取に来る探索者はいないだろうと考えてここにやって来た。


「持ってて良かった探索者セットってな」

 初心者が持っていく物に困らないようにと消耗品が詰め合わせになっている組合特製の装備品。

 持ってなくて困ったという話はルゥビスでも山ほど聞いてきた。


 ひとかかえで足りないくらいの岩にロープの片方を巻きつけ、反対側を自分の腰に巻いて途中に遊動索と呼ばれる器具を取り付ける。

 これでロープを送りながら崖を降りていく事が出来るし、採取の間両手が使えるようになる。

 しっかりと岩にロープが括られていること、遊動索の動作を確認してから崖を下る。


 最初の採取場所まで約五メートル。その次はそこから右下に二メートル。

 順調に採取を済ませているうちに雨がポツリ、ポツリと降り始める。

「ありゃ、間に合わなかったか」

 依頼達成目標数は十個、現在の採取量は七個。あと三個必要だった。

 残り三個は今いる場所よりも下方五から八メートル。ロープの長さ的には余裕があるはずだし、他の採取ポイントの目処も立ってない。

「他に行くあてもないし、あそこのを取りに行くか」


 このあと楽観した判断が誤りであった事を痛感する事になった。

 最初はポツリ、ポツリと降り始めた雨だったけど、この頃には頭上は厚い雨雲に覆われてすっかり暗くなり、雨は打ちつけるように強く降ってきて、多分十メートル先はわからないような状況だった。

 ガラッという音が聞こえたと思ったら小石が肩に当たる。尚も続くガラ、ガッという音を訝しく思って頭上を見上げると大粒の雨と一緒に拳大の石が崖の上から落ちてきた。

「ヤバイ!」

 咄嗟に頭を庇うが続け様に落ちてくる石のいくつかが頭を庇う腕に当たる。

「っ!」

 痛みのあまり足を滑らせたことで身体が回り始める。一度回り始めた身体はある程度回ったら反対方向に回ることを繰り返す。

 そのうちに一際大きな音が響くとともに俺の身体は浮遊感に襲われた。最後に目にしたのはロープを掛けてきた大岩が崖を超えてくるところだった。

「う、うわああああああっ!?」

 その光景を目にした俺は絶叫をあげた。

 その直後、頭に拳大の石が当たったのを最後に俺は気を失った。


◇◆ ◇◆ 唯奈ゆいな里依紗りいさ Side. ◇◆ ◇◆


 唯奈ゆいな里依紗りいさ礼央れおがジェドの街に向かったことを探索者組合の受付・リーリレイアから聞いたあと、すぐにでもジェドへ向かいたかった。

 一刻も早く礼央れおを保護しなければという想いに駆られていた。


 ルゥヴィスの王城に戻って「礼央れおを捜索に行く」と騎士団長に伝えた。

「駄目です。ユイナ様とリサ様にはこのあとも対応して頂かなければならない事案があります」

唯奈ゆいなだけじゃ駄目?」

 里依紗りいさしなを作って上目遣いに訊ねてみたが色良い返事は返ってこなくて、バッサリと「駄目です」の一言が返ってきた。

 少しの間、騎士団長と口論を繰り広げたあとで唯奈ゆいなの我慢が限界にきた。

「私達が対応しないといけない事案、全部もってこい!」

 ダンっと大きな音を立てて一枚板のテーブルが跳ねる。


 この一悶着のあと、従者の持ってきた依頼書の束を二人は超速で捌いていった。

 それでも礼央れおを追いかけることができたのはその日からひと月後のことだった。


「これでやっと礼央れおを探しに行ける」

「ええ、ひと月もかかったわ」

 ひとまずジェドの街に行くまでの準備を済ませて今日は休むことにした。


 里依紗りいさ唯奈ゆいなの寝室は別。

 ひとりでベッドに横になって目を瞑っているのに全然寝付けない。

 礼央れおくんが出て行ったのは里依紗のせいじゃないかってどうしてもそう思ってしまう。


 それは半年くらい前の出来事。

 予定より早く帰ってきた私達。先に汚れを落とそうと思ってお風呂場の前まで来たところで不意に聞こえた呻き声に扉を開けた。

 その時、浴槽にもたれていた礼央れおくんと目があった。バツの悪そうな表情は今も思い出せる。

 それに小さい頃一緒にお風呂に入った時に見たのとは全く違う逞しく育った身体と大きくそそり立った男性器。私はそこから目を離せずにいた。

 その私の視線に気がついた礼央れおくんが男性器を隠そうとしたその時にドクンと脈動したそれが爆発した。ビュルルっと吹き出した精液が私の頬まで飛んで来てベチョっと音を立てた。


「あっ!?、あっ、ご、ごめん!」

 そう言った礼央れおくんの言葉に私は何も返すことができずに頬を垂れる精液に手を伸ばした。それはまだ温かくて今まで嗅いだことが無い臭いがしていた。

 譫言うわごとのように「ううん、ごめん。急に開けた私も悪かったわ」そう言って私はその場を離れた。


 あれから暫く経って礼央れおくんとは普通に接することができるようになったと思っていたんだけど。

「男の子って自慰しないと駄目って侑子ゆうこも言ってたしなあ…… 礼央れおくんも私達がいたらできなかったよね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る