第3話

◇◆ ◇◆ 礼央れお Side. ◇◆ ◇◆


 目が覚めたら知らない天井だった。って、当たり前か直前の記憶は残っている。崖から落ちたんだ。そう実感すると共に身体の右側に痛みが走る。左側は温かいものに包まれている。

「なんだこれ?」

 掌をモゾりと動かす。

「ひゃんっ!?」

「ひゃんっ?」


 頭を左に傾けると光沢を放つ白金の髪が目に飛び込んできた。

 掌はなにか(想像はついているけどだ)に包まれている。そこから掌を引き抜こうとした途端に「んんっ!?」とくぐもった声と共にぎゅっと挟み込まれたような感触としっとりと湿り気を帯びた感触に包まれていた。

 体勢的に考えてこの誰か分からない(声から察するに女性)人の足に俺の掌が挟まれている。位置的に考えると非常にエロいところに挟まれている。

 ヤバイ、これ起きてるのがバレるとマズくない? 目を閉じてやり過ごすしかない。そう考えていたのだけど甘かった。


 彼女? の腕が俺を抱きしめる様に動き、右腕の痛みに我慢しきれず声をあげてしまった。

「っ、痛っ!」

 おまけにその拍子に左手の指が湿り気を含んだ柔らかな部分に触れる。指の腹がぷっくりと膨らんだシコリの様なところに触れた途端に女性は声をあげた。

「ひゃ、ん、んんっ……」

 艶めかしい声と共に顔をあげたその女性と目があった。

「あっ」

「あっ!?」


 お互い上半身裸のままで簡素なベッドの上で向き合う。腰から下には上掛けが掛かっていて見えない。

 下は履いていたのでやましいことはしていないと思う。

 さっきの艶っぽい声が頭に残っていてどうにも思考がそっちに引っ張られてるな。彼女は裸だというのに全く恥ずかしがる素振りも見せないことが俺を冷静にさせた。

 白金の長い髪を今は胸の前に持ってきているのでぷっくりと膨らんでいるであろうさくらんぼは見えない。

 整った顔立ちは元の世界のグラビアモデルやテレビで見る芸能人よりも美人で結構ストライク。バッチリ好みだ。

 身長は俺より低くて推定160センチ程、胸はなかなかの大きさがあって推定90センチ程、そして驚く程のくびれ、多分40センチ前半(人間離れしている)、これをコルセットなしで実現しているから驚いた。腰まわりは85センチくらいか。


 じっと彼女を見つめていると口元がモゴモゴとしている。

 あ、恥ずかしくないわけじゃなくて対応に困っていたのか。そう考えると俺の方も急に恥ずかしくなってきた。


「あ、助けてくれてありがとう」

「ん、助かって、良かった……」

「ところでここが何処か教えてもらえるかな?」

「ここはアンディグ」

「アンディグ? 何処それ?」

 聞いたことの無い地名に冷や汗が流れた。

「その前に貴方、名前は?」

「あ、城里しろさと 礼央れお、レオって呼んで」

「そう、レオね。私はエイシャ。ただのエイシャよ」

「改めて助けてくれてありがとうエイシャ」

「ん、どういたしまして。それでアンディグが何処かって話だった?」

「そうそう」

「アンディグは、蒼の国ブレウの北にある小さな町」

「聞いたことがない……」

「レオは何処から来たの?」

「俺はジェドって街から来た」

「ジェド? 聞いた事が無い」

「じゃあ、ルゥビスは?」

「ん、北にある国」

「ええっ!? 俺、隣の国まで来たの?」

「違う、正確には間に商業都市アンクロがある」

「俺、よく生きてたな……」

「ん、そうね、私が見つけた時には大きな木に絡まったロープに括られて宙ぶらりんになってた」

 思い出したのかケラケラと笑うエイシャ。

「宙ぶらりん!?」

「ん、一週間くらい前に大増水があって川が氾濫してた。水が引いたから周辺の被害状況を確認してたらレオを見つけた。ホント、上流から流されて来たとしたらよく生きてた」


 エイシャから一週間と聞いて急に腹が主張を始める。

 ぐぅ〜という音が部屋に鳴り響いた。

 思わず顔が熱くなる。そんな俺を見てエイシャは優しく微笑んだ。

「ん、ちょっと待ってスープを用意する」

 そう言ってベッドから降りた。その後ろ姿に思わずドキッとした。

 隠そうとせず歩いていく彼女の後ろ姿。サラサラと揺れる綺麗な白金の髪を透かして俺の目に飛び込んできたのは滑らかな感触を想像させる引き締まった桃がそこにあった。

 そっと左の掌を見る。

「多分あそこに挟まれてたんだよな……」

 思春期男子の妄想が暴走しそうになるのを慌てて制止した。身体は正直に反応していたがな。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 エイシャの持ってきてくれたスープはコーンスープに似た味がした。


 腹が落ち着いたところで現実的な話をすることにした。幸いにも俺の背嚢はいのうは流されずに残っていたから少しは持ち合わせがある。

「エイシャ、それでな、如何程出せばいい?」

「ん? なんのこと?」

「助けてくれたお礼」

 傷自体は殆どが打撲で折れている箇所はなさそうだった。頭を少し切っていたけど幸いにも深くは無かったし、血も止まっていた。


「ん〜〜っ、まあ、お金はいい。そっちのお金はここじゃあ使えない」

「えっ!?じゃあ、俺、無一文同然なの…… あっ!じゃあ、探索者として依頼を受けて……」

「レオって探索者だったの?」

「駆け出しですが」

 そう言って組合証を見せる。

「ん、……残念なお知らせがあります」

 真顔でそう告げられるのつらい。

「その組合証、こっちでは意味が無い」

「……嘘」

「ん、ホント」

「えっ、じゃあ、俺もしかして、こっちで依頼受けれないの!?」

「ん、そうなる」


 膝に手を突き、ガックリと項垂うなだれる俺。その肩にポンと手を置いてエイシャが慰めてくれる。

「私の相棒としてなら依頼を受けられる」

「ホントに!?」

「ん、レオは魔術とか使える?」

「いや、多分使えないと思う。魔力が無いようなことを言われた覚えがあるから」

「ん、そうなんだ。さっきの感じだと相当な魔力量だと思ったんだけどな」

 そう言ったエイシャは何故か頬を朱に染めてモジモジしている。

「なあ、俺、なんかした?」

「んっ、んん〜〜〜、っと。その、レオに触れていたところから私に魔力が流れ込んできた」

「ドユコト?」

「ん、レオを治療するのに治癒魔術をかけてたんだけど、結構酷い傷だったから私の治癒魔術だと何度もかけないといけなかった」

「ふんふん、それで」

「魔力切れを起こして眠ってる間にレオの掌が触れているところが暖かくなって、気がついたらいつも以上に魔力が回復していた。それでその、そのまま、治癒魔術をかけてたらレオが目を覚ました……」

 そこまで話したエイシャの顔は朱を通り越して真っ赤だった。多分その時のことを思い出したんだと思う。俺も思い出して顔が熱くなる。

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