第4話
落ち着くまでの
「じゃあ、俺をエイシャの相棒にしてくれよ」
「んん〜〜〜、まあ、レオならいいか」
「もう一つ、実験な。エイシャ手を出して」
「ん? はい」
エイシャの掌に俺の掌を重ねる。
「どう?」
「ん、なんとも無い」
「丹田に近いところじゃないと駄目なのかな?」
「タンデン?」
「おへその辺り、俺のいたところだとその辺りに《気》が集まるところがあるって言い伝えがあるんだ。まあ、俺には実感の無い話なんだけどな。という訳でおへその辺り、触っていい?」
「ん、いいよ」
エイシャの手がホルターネックの上着の裾を摘んでおへそが見えるところまで捲る。白く滑らかな肌が目の前に晒された。
吸い込まれそうな気分になりながらもその肌に触れる。想像に違わぬ滑らかな肌触りについ指を這わせたくなった。
「……んっ」
「どう?」
「ん、くすぐったい、かな」
「密着度が足りないのかな?」
「ん、そう、かも…… ねぇ、後ろからギュッてしてみて……」
「あ、ああ、じゃあ、失礼して」
エイシャの背後に回りながら俺は嫌な予感に駆られる。この展開、これで密着度によって魔力の移譲量が変わるって、なんかエロゲの展開みたいで嫌だぁ……
「いくぞ」
「ん、きて……」
字面だけ見るとえっちなシーンの挿入前だがそんなことは無い。至って健全。ただエイシャを後ろから抱きしめてるだけなんだからな。
そっとエイシャの背後から彼女を抱きしめる。左掌は彼女のおへその辺りに添える。
「ん、んぁっ……」
「艶っぽい声出すなよ……」
「ん、ごめん、くすぐったかった…… でも、あったかくて、気持ちいい」
「そ、そうか」
鼓動が速くなって、心臓の音が聞こえてきそうな気がする。
「魔力、どう?」
「ん、少しだけ感じる。でも、流れ込んでる、感じじゃない……」
「これも駄目か……」
「ねえ、夜になったら、試したい事がある……」
「夜? 今じゃ駄目?」
「ん、明るいと恥ずかしい……」
「わ、わかった。夜な」
「ん」
赤面するエイシャの表情から治療中の再現をするつもりだと察する。俺もそこまで察しが悪いわけじゃ無いからな。多分、俺も負けず劣らずな赤面具合だ。
太陽の位置から察するに昼はまわっている。
元の世界から離さず持っている爺さんの形見の懐中時計(見かけによらぬ高い防水性で壊れず済んだ)は向こうの時間を指している。表示は六時半を過ぎたところ、時差は約七時間だから今は午後一時半過ぎか。
「レオ、少しだけ、この辺り、歩いてみる?」
「そうだね、案内お願いできるかな?」
「ふふっ、ん。喜んで」
そう言って笑みを浮かべたエイシャはとても美しかった。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
エイシャに案内されてアンディグの町を歩く。
この町の探索者組合にもちょっとだけ顔を出した。
エイシャが俺の事を「ん、相棒」と告げると探索者から悲鳴があがった。何故か女性もいたんだが。
その後は夕飯の食材を求めて市場に向かう。ここでもエイシャが俺の事を相棒だと伝えると若い男性からは悲鳴があがった。
家への帰り道でエイシャに訊ねる。
「なあ、町の人、俺の事を相棒だって伝える度に悲鳴をあげてたのはなんで?」
「ん、付き合えって言ってくる人が多くて、ずっと断って一人でやってきた」
「ふんふん、それで?」
エイシャはニンマリといい笑顔を向けて続きを話し始める。
「ん、だから、レオの事、私の恋人だと思われてる♪」
「えっ、それ、良かったの? 迷惑じゃない?」
「ん、いい、レオなら…… 割と好み」
悪戯っぽく笑うその表情は本気なのか、冗談なのか判断に困る。
「そ、そう、エイシャが良いなら、俺は良いけどさ」
「ん、よろしく。レオ」
そう言って俺の左腕に腕を絡ませてくる。
胸が当たってるんですけど!
これ、わざとだよな!? 恋人のふりしてるだけだよな!?
そうじゃないとおかしいよなっ!
困惑する俺の腕を抱き、笑みを湛えたまま歩いていくエイシャとそれについて歩く俺の姿を見た人は目を見開いて俺達を見送っていたのだった。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
エイシャの家に帰ったあと、夕飯の準備は俺が引き受けることにした。
少しでも恩を返したいという想いもあったが、それ以上にこの世界の調理方法が俺の舌に合わない。というか物足りなさがあった。
これは元の世界の先人が食に拘り過ぎたせいだと思う。
基本、この世界の調理は焼くか煮るだけで調味料もあまり使わない。
つまり、素材の味で勝負!って感じ…… そんなのに俺というか現代日本人が耐えられるわけが無く、俺は探索中も調味料は常備している(湿気るのを嫌って蝋で封をしていたのが幸いして無事だった)。そういえばジェドの探索者組合で振る舞った時にも皆んなに喜ばれたなあ。
皆んな元気にしてるかなあ……
今日の夕飯は豚肉のような肉質のお肉を下処理をしたあと塩と胡椒を振って焼く。それとトマトに似た味の青い野菜を輪切りにしてレタスの様な味の葉物野菜と一緒に付け合わせにする。
こっちのパンはふっくらしてないのでエイシャの作ってくれていたスープに浸して食べることを勧めてみた。
「どうかな?」
「レオ、料理上手。美味しそう」
キュルっと可愛らしい音がエイシャから聞こえた。そうだろう、このお肉、すごく良い匂いを立ちのぼらせてくれているから俺も焼いてる時から腹の虫が騒がしい。そういえば、固形物を口にしてなかったなあ。
「さあ、早く食べよう」
「ん、食べよ」
「いただきます」
「ん? なにそれ」
「ん? 俺のいたところの食事の前の挨拶。食材や食事に携わってくれた人への感謝を表す言葉で、食後はごちそうさまって言うんだ。こっちは食事を準備してくれた人への感謝って言われてたかな」
「ふ〜ん、なんかいいね、それ。じゃあ、私も、いただきます」
「おう、食べよう」
エイシャが最初に手をつけたのは肉。そうだよなぁ、あんな旨そうな匂いがしてたら無理もないよなあ。まぁ、俺も肉からいただくけどな。
「美味しい……」
「うん、旨いな」
豚肉と比べて柔らかくて、脂の甘みが強い。そこに適量を振った塩と胡椒がいいアクセントになっている。
「サングニエルのお肉がこんなに美味しいとは思わなかったわ」
「少し下処理をしたのと後は調味料のおかげだな」
「そうなの?」
「ああ、こっちの人は肉を焼くときに下処理なしでそのまま焼くだろ? 少し手を加えるだけでも随分変わるぞ」
「そうなんだ、私そういうの、あんまり気にしたこと無かった」
「だろうなあ、こっちの常識じゃ無いもんな」
「ん、これだけでもレオを拾って良かった」
「拾ってって…… まあ、実際そうか」
「ん、そうでしょ?」
「だな」
「んふふっ」
この後も見慣れない食材に舌鼓をうちながら談笑して夕飯は続いた。
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