第59話 孤高
時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものだ。
フランソワさんが言っていた異世界転移の予定日を2週間後に控えた魔法隊は、相変わらずモンスター討伐を行っていた。
しかし、戦況は全く良くない。
「攻撃より自己再生されるペースの方が早そうだぞ!?」
「まずいっ!! 前衛部隊が半分吹っ飛ばされた!! 戦線が崩れるぞ!」
目の前に現れた1体のモンスターに、魔法隊は一方的に攻撃されていた。
こうやって苦戦するのは何も珍しい事ではない。ここ2週間はケガをしないで帰ってくることがなかったほどだ。
3日前から、魔法隊はようやく1体のモンスターのみを出現させている。しかし今日の朝出現させた3つの頭を持つ巨大な竜のようなモンスターは、自分の体を癒す再生能力を持っていた。どういう原理か羽を持たずに空中をすいすいと縦横無尽に動き回っている。
「キリがないだろ、これ!」
俺はその再生能力を目の当たりにして悪態を付いてしまってしまった。
「全部隊は後退!! 迫撃砲行くぞおおおぉぉぉ!!!」
ライフルの攻撃が意味をなさないことが判明し、後衛の部隊はすぐに迫撃砲を用意した。
合図とともに、前衛部隊は散開する。先ほどの攻撃で吹っ飛ばされた隊員たちは苦悶の表情を浮かべながらもすぐに移動を始めている。
「撃てえええぇぇ!!」
直後、モンスターに向けて迫撃砲が発射される。
素早く動くモンスターは砲弾を難なくかわしたが、それは問題ではない。地面に砲弾が着弾すると、辺り一帯を目も開けられないほどの発光が包む。
『ズドオオオオオォォォォォォン!!!』
内臓が揺れるほどの轟音が鳴り響き、周囲にはものすごい爆風が吹き荒れる。
爆風が止みモンスターの状況を窺うと、今もなお宙を舞っている。しかし爆発に巻き込まれた長い尻尾と両脚はズタボロには引き裂かれたような跡があった。
「あれで死なねえのかよ!?」
むしろ、あの爆発で体が消し飛んでいないことに驚いた。
上手い事避けてダメージを最低限に抑えたのか……?
しかし、そのダメージはモンスターにとっても想定外だったようだ。
今まであっという間に傷を癒していた再生能力も、傷が大きすぎるのか治癒する速度は遅くなっていた。
「総員、攻撃!!」
朝からこのモンスターと戦い始めているが、すでに日が傾き空は真っ赤に染まっている。
魔法隊はここが勝機だと判断し、総攻撃を仕掛けた。
そうしてモンスターを討伐し終わったのは薄明の頃だった。
◇◇◇
一日の癒しを取るには風呂が一番。前に王子がそんなことを言っていたが、それには激しく同意する。
「はあぁぁぁぁぁ……今日は一段とやばかった……」
「毎日ケガ人が続出してるけど、今日は重症者も多かったもんね」
俺は王子と共に最上階の銭湯にやってきていた。他にも多くの隊員がこの銭湯を利用しているが、広さが尋常じゃないので混みあうことも無い。
「普通ケガをしたら戦線を離れることになるんだけどな。沙織の回復魔法は異常だよな……」
「正確には神聖魔法だけどね。大怪我しても翌日にはまた戦線に戻ってるってちょっとかわいそうかも」
そんなことを話す俺たちも、体には所々擦り傷が出来ている。
一か所治ってもまた新しい傷が一か所出来ていくような毎日なので、小さな傷なら沙織に回復を頼むことは無くなった。
そうしてゆったりくつろいでいた時、大浴場の入口がバァン、と開かれた。
いきなり大きな音が鳴ったものだから、全員の注目が入り口に向けられる。
「はぁ、はぁ……大変ですっ!! 全国各地に人型モンスターが出現! 魔法省から招集命令が届きました!!」
息絶え絶えで大浴場にやってきた隊員のその様子に、俺はただ事ではないことが起きたのだと理解した。
魔法隊のエンジニア〜好き勝手に魔法具を作っていたら魔法隊にスカウトされた件〜 まぐな @arstagram_125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法隊のエンジニア〜好き勝手に魔法具を作っていたら魔法隊にスカウトされた件〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます