第23話 ヒキニートに仕事を与えてみたら大変なことになったんだがwww その1 よくあるボディーガードの仕事


 翌日からはそれなりにバタバタとした日々だった。



「はい。今日は香草集めです。アキヒサさんのスカウトランクなら、香草自体は目で見ればわかると思うので、おおまかな場所をお教えしますね」


「はい。今日は毒蛇退治ですね。なつみさんが居るので全滅は無いと思いますから、噛まれたらグルッヘさんに解毒してもらってください。大丈夫です、体が残っていれば生き返れます」


「はい。今日は迷宮へのお使いですね。浅層キャンプ地への連絡員になります。アヤちゃんが一度行ったことがあるので、案内してもらってくださいね」


「はい。今日は猫ちゃん探しですね。ええと、数は……。101匹ですね!」


 

 というのも、パスタさんが休む間もなくクエストを積み上げていくのだ。


 101匹の猫探しって……。ワンちゃんかよ……。



 言うまでもなく、最後のクエストが一番きつかった。

 

 予想外のモンスターも出てきたしな……。


 



 

 

 オレ達三人のでこぼこパーティーもそれなりの形になってきており、クエストを徐々にこなす事が出来るようになっていた。


 アヤメの氷魔法自体はかなり頼りになるうえ、なっちゃんには全く効かないのだから相性は本当に抜群である。


 

 つまり現状最も戦力にならないのは、悲しいながらオレである事は明白なのだが、ではあの二人だけでパーティーを組んだらどうなるのかというとだ。


 ポンコツお騒がせ魔法使いとコミュ力皆無のヒキニート娘である。考えるまでもない。



 そんなわけで、不肖ながらオレがリーダーとなりパーティー内での諸々の仕切りを引き受けていた。

 

 誰か変わってくれるなら変わって欲しい……。

 


 

 

 そんな、ようやく時間が空いたある日の午後。

 

 食事を終えたオレ達は、ギルドの椅子の背に寄りかかりながら愚痴ていた。


 

「な、なあ。パスタさんてかなりスパルタじゃないか……?」


 アヤメも普段の尊大な態度はどこへやら、机にぐったりと上半身を預け倒れ込んでいる。


  

「余もここまでとは思いませんでしたわ。クエストを上手く選んで回してくれるのは助かるのですが……」



 アヤメがパーティーを組めたことを一番喜んでいるのは、実は本人よりもパスタさんの方が上なのかもしれない。


 

「…………」

 

 

 オレとアヤメが疲労困憊で話をする横で、ベンチに寝転がったまま微動だにしないなっちゃん。

 

 ゆさゆさゆさ。


 揺すってみれども何も反応がない。


 

「なつ? どうかしましたの?」

 

「なっちゃん?」


 

 なおも強く揺すると。

 

 バタっっ!

 

 なっちゃんが床へ落下し、そのまま床に大の字に倒れ込んだ

 

 

「「し、しんでるッッ!」」

 


 なっちゃんは白目を剥いていた。




 ニートに大量の仕事を過剰摂取させると死んでしまうらしい。

 

 やったねなっちゃん! これで晴れて社会人デビューだ!


 

「ちょっとアキ……。どうしますの? 家に連れて行って休ませます?」

 

「……まあ大丈夫だろ。普通の社会人は一日26時間までは働ける。いけるいけるまだイケる」


 

 一昔前は『24時間働けますか!』なんて栄養ドリンクのCMがあったぐらいだ。

 

 ……いやぁ。今の日本であのCM流したら反響凄いだろうなぁ。

 

 

 「やだ……。わたしの命、安すぎ……」

 

 

 床の死体から抗議の声があがった。

 

 ほら大丈夫!

 





 

「今日はこれで最後か」



 隣町までの荷馬車の警護である。


 そこそこ羽振りのよい顧客が絡んでいるのだろう。

 

 大きな八台の馬車に、俺たち以外にも別の冒険者が護衛についていた。


 隊列の前方を強そうなモヒカン頭(グルッヘといい。この街ではモヒカン流行ってるのか?)のあんちゃんがリーダーのパーティーが先導し、オレ達初心者パーティーは隊列の最後尾を三人で歩いている。


 

「あ、あに。労働基準法違反で提訴したいかも……」

 


 なっちゃんがトボトボと歩きながら、心底恨みがましいといった感じの目をオレに向ける。


 妹よ、そう言うでない。

 

 あにだって流石にここ数日のお仕事続きには疲れているのだ。

 ただでさえ、慣れないこの世界での冒険者仕事だしな。


 しかし、その言い分もわからんでもない。

 


 ……ふむ。

 


「この仕事が終わったら、あとは風呂入って晩飯だな。あにが晩御飯は作るから、たまにはアヤメと一緒に入ったらどうだ?」


「天才か。なんでわたし、今までその発想でてこなかったの。自己嫌悪かも」

 


 エロアイディアが出てこなかったから自己嫌悪するって。


 すげーやつだなお前は。

 

 

「なあアヤメ?」


「そ、そうですわね。だ、大丈夫でしょうか……」

 


 言いながら、何に不安を感じているのか理解できていない様子のアヤメ。

 

 それはたぶん、前にギルドで出会った際に、なっちゃんに追い詰められた記憶が悪さをしているのだと思う。


 若干トラウマのようになっているのが不幸だった。南無。

 

 まあ、あれについては繰り返すが自業自得なのである。

 

 どんな理由があれ、見知らぬ人に相談無しに攻撃魔法を撃ってはいけない。



 ……普通は相談してもダメだが。


 

「……ん?」

 


 そんなしょうもない話をしながら隊列の後ろをダラダラと歩いていたオレ達だったが、山道に差し掛かったところで隊商の動きが止まった。


 どうやら、ここからは見えないが山道を曲がったところで何かあったらしい。

 


 

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妹が世界屈指の勇者候補の超人だけどオレ意外とまともに会話出来ない限界ちゃんなので、どうにか勇者になるまでプロデュースしていきたいと思います すっぱすぎない黒酢サワー @kurozu_3

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