最終回 アオコの夢

「な、なんだこれは……」


 みんな騒然としている。

 それもそうだ。

 まだ帰国していないはずの女が、皇帝を殺害しているのだから。


「ア、アオコ、なのか?」


「ただいま。アンリ」


「くっ!!」


 アンリは急いでナーサの元へ駆け寄った。

 脈を確認して、生死を判断している。


「ば、バカな……」


「これでカローは平和になる」


「キサマ!! 自分が何をしているのかわかってるのか!!」


「わかってるさ。私は皇帝になる。シーナのように、この国を支配する」


「正気か、アオコ」


「アンリは今日から、私の部下だよ」


「ふざけるな!!」


 アンリが剣を抜く。

 連なるように、他の兵士たちも恐る恐る構えた。


「正気に戻れアオコ!! 確かに、お前は散々苦労してきた。だからってこんなの、これのどこがシーナ様だ!!」


「甘いよね、アンリって」


「なに!?」


「私はとっくに正気だよ。成し遂げるだよ。力による、絶対的な支配を」


 カエルムを発動して、邪魔な兵士たちを殺した。

 数名瀕死を免れた者が、アンリを放って逃げ出していく。


 賢いな。


「そこまで堕ちたか、アオコ!!」


「だったらなに? まさか、私を倒せると思ってるの? 救世主である私を」


「くっ!!」


 アンリが剣を握り直す。

 彼女だって戦士だ。相手が友であろうと、己の忠義を貫く武人なのだ。


「どのみち、お前は処刑される。皇帝になどなれない」


「誰も私を捕まえられないよ」


「いいや、ここで私が、お前に引導を渡してやる!! 私の手で、私の手で!!」


「やってみなよ。アンリだって、スキルを持ってるんでしょ?」


「うおおおお!!!!」


 アンリの剣が私の胸部を貫いた。

 痛い。声をあげてしまいそうなほど。

 そうか。みんな、こんな痛みを味わっていたんだ。


「な、なぜ防がない!! お前なら……」


 ハッと、アンリが剣を落とす。


「……まさか、アオコ、お前」


 まずいな。


「私に、殺されようとしているのか」


 さすがアンリ。

 私の古き友。

 なんでもわかっちゃうんだ。


「そんなわけないでしょ。たまたま、くっ、かわしきれなかっただけ……」


「いいや、きっとそうだ。お前はそういうやつだ!! しかし何故だ。どうして!!」


 みるみる力が抜けていく。

 これが、死んでいくってことか。


 寒い。

 鳥肌が止まらない。


「アオコ!!」


 こうなっては、きちんと説明する他ないか。


「ナーサを殺すことは、決まってた。あの子はもはやカローの癌だから。けど、これでもう、カローに不安要素はない」


 キリアイリラも死んでいる。


「カローはまた生まれ変わる。それを率いるのは、アンリなんだよ」


「ふざけるな!! そんな勝手なこと!!」


「どのみち、私は皇帝殺しとして逆賊扱いだもん。さっき逃げたやつが、私の悪行を広めてくれる。湖の国を倒し、欲をかいて皇帝を殺した極悪人。そいつを殺した英雄に、アンリがなるんだ」


「な、なんてバカなことを……」


 私は、みんなから散々期待されてきた。

 重圧が辛かった。


 同じことを、アンリに押し付けようとしている。

 けれど大丈夫。きっとアンリなら上手くやれる。

 私より頭が良くて、優しくて、真面目だから。


 それに、苦しいときにはノレミュもいる。


「うっ」


 血を吹き出してしまった。

 頭がぼーっとする。死んでいくのがわかる。


「アンリ、リューナをお願い。どうか、リューナを……」


 私の手を握ってくれた。

 大粒の涙を流して、頷いてくれた。

 どうやら、私の願いを受け入れてくれたらしい。


「そう思うなら……」


 生きろ。とは言えない。

 今まさに、私を殺したのは自分なのだから。


「わかった。リューナ様は、私に任せろ」


「ありがとう。アンリと友達になれて、よかった」


「最初は、辛く当たってすまなかった」


「いいんだよ。……ねえ、最後に教えてよ、アンリのスキル」


「あぁ教えてやる。使ってやるさ」


 アンリのスキル。

 それは、『望んだ夢を見せるスキル』。

 戦闘や政治においては何の役にも立たない、慰めのためのスキル。

 なるほど、だから教えたくなかったのか。

 弱くて恥ずかしいって、思っていたんだ。


 とても素敵な、アンリの人間性を表したようなスキルなのに。


「見たいな、あの夢の続き」


 どうせ望んだ過去には戻れないから。

 そしたら、また会える。

 みんなに。

 ライナに。


 そう、すべてはライナの死からはじまった。


 たくさん死んだ。

 多くの悲しみを生んだ。



 ライナ。

 トキュウスさん。

 クロロスルさん。

 ポルシウス。

 ケイミス。

 コロロ。


 シーナ。


 クレイピア。

 ユーナ。

 ルルルンさん。

 キリアイリラ。

 ナーサちゃん。


 そして私。


 十三人。


「アオコ、お前こそが英雄なんだ……」


 はじめてアンリが私を抱きしめてくれた。


「立派な、皇帝になってね。アンリらしく、アンリの色で……」


 誰かがいる。

 目の前に、誰かが立っている。


 見間違うはずがない。

 ずっと鮮明に覚えていた顔。


 私も、もうすぐそっちに行くよ。

 夢のなかで、待ってて。


「ライナ、終わったよ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからカローの平和は二〇〇年も続いた。

 後に他の大陸に侵略されるまで、一度も戦争をしなかった。


 さらに時が経って、アオコは皇帝殺しの裏切り者として歴史に名を残す。

 本当の彼女を知る者は、誰もいない。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※あとがき


終わりです。

完結です。

僕史上最高傑作です。


えへへ。


応援ありがとうございました。

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気ままなスローライフを目指してどんな手段を使っても成り上がり……たくはなかった。 いくかいおう @ikuiku-kaiou

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