第24話 鰻飯談義

 やがて、2人の店員がたれの利いた蒲焼を5人前、運んできた。

「では皆さん、どうぞ」

 宇都宮氏に薦められ、同席者が一斉に鰻をつまむ。

 甘辛いというか、辛甘いというか、いかにも外食店のうなぎ飯に出てくるような鰻の蒲焼である。


「これはこれで、普通にうまいですね。私らは酒を飲むから別にこういう味でなければ食えないなんてこともないですが、酒を飲まない人や、飲めないときにいただいても、十分食欲もそそられますし、妙にあっさりした感じでもないし、かと言ってしつこいわけでもない。これなら、どんな客層にも合いますよ」

 堀田氏の弁に、最年長の真鍋弁護士が冷酒をすすり、一言。

「堀田先生のおっしゃる通りですな。確かに、これはどんな客層にも合う味付で、普通にうまい。列車食堂や弁当でいただく鰻飯は、まさにこんな感じです。ええ」

 山藤氏は、まんざらでもないという表情ではあるものの、少し山椒を利かせたような弁を述べる。

「確かに、真鍋さんや堀田君のおっしゃる通りです。それは認めます。ですが、酒を飲むのであれば、やっぱり、この店の蒲焼、それも白焼あたりがいいですな。特に日本酒のつまみにするときなんかには」

「そら、そうですよ。とはいえ、列車食堂で鰻の白焼は、出すにはちょっと厳しいのとちゃいますか?」

「ええ、堀田先生のおっしゃる通りです。そりゃあ、一度やそこらは食べてみようと思われるかもしれませんが、そういうものばかり揃えますと、今度は酒を飲まないお客さんが列車食堂を敬遠されることにもなりかねません。まして、子ども連れに敬遠されるのは、長い目で見てもよろしくないように思えます」

 これは、国鉄官僚の川中氏の弁。

「川中さんのおっしゃる通りです。列車食堂って、ただでさえもいろいろな面で営業に制約がある上に、あまりにレアなものと言いますか、そういうのを出すってわけにもいきませんよ。しかも、白焼とか、あれはあれで、下ごしらえも大変です。味を安定させないことにはメニューに載せられませんし。まあ、珈琲1杯で粘る客もどきさん方はともかくとしても、ビールで粘るような人であれば、白焼は案外売上を伸ばす起爆剤には・・・」

「それはしかし、宇都宮君、無理筋ではないかな?」


 少し間をおいて、宇都宮氏が答える。

「でしょうね。しかし何です、営業する側としましては、鰻飯はなんだかんだで、年中需要もありますし、それなりの価格で提供できますし、多少の下ごしらえは必要にしても、他の料理程厄介ではありませんから、ありがたいメニューですよ」

「そうでしょう。かつ丼や親子丼、ほかにも他人丼というものもありますけど、そういった丼物よりもむしろ、手間もかからず利益率はいいかもしれませんな。しかも、手間はあまりかからない。山藤君が昨日乗車されたビュフェあたりでも、それなりの形で出せるわけですからねぇ。鰻弁当の調製も、あの設備画ればできましょう。あとは湯煎か電子レンジで下ごしらえしたものを温めて重箱の飯に乗せればできあがりですな。それなら、手間はあまりかからない」

 最年長のベテラン弁護士の弁に、国鉄官僚の川中氏が答える。彼もまた出張でよく列車を利用するので、食事が列車内ということも、たびたびある。

「利益率はともあれ、やっぱり、鰻を食べるとなれば、浜松の名物とまではいわないにしても、それなりの御馳走、ってことにもなりますからね。旅先でちょっと食べるには、悪くない選択肢ですよ。しかもそれなりの値段も取れますし、たれの味さえきちんと安定させておけば手間もさほどない。加えて、最近は養殖が発展していますから、年間を通しておおむね安定的に食材を供給できますからね。しかも、他の食材をそうそう用意しなくてもいいと来ておりますから、食堂業者さんには、ありがたいメニューですね」


 堀田氏が、ここで一言。

「なんだかんだで、日本人は魚介類、食べ慣れていますからね。山藤さんみたいに食堂車に行けば必ずステーキみたいな人も中にはいますけど(苦笑)、それはともあれ、鰻ともなれば、魚がそう好きでない人でも、食べる人はいますからね」

「堀田君より西洋かぶれの権化みたいな扱いをされているようですが、私は日本食も大好きですよ。刺身とか寿司とか、ね(爆笑)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

システマチックに、粋に ~新型寝台とビュフェ 与方藤士朗 @tohshiroy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画