第23話 鰻を食べる場所と味付と調理法の問題
「それでは、私どももいただきます」
川中氏と宇都宮氏が遅れて鰻に箸をつける。
「確かに、この店の鰻のたれは絶品ですね」
宇都宮氏の弁に、川中氏がさらに付け加える。
「これは確かにうまいです。宇都宮君、食堂車でこのたれは出せますか?」
「無理ですね」
あっさりと否定されるのはなぜだろう。
「何分にも、うちの食堂は鰻専門店と違いますから」
その弁に、山藤氏が納得の意を述べる。
「そりゃそうじゃ、宇都宮君。では逆におたくの食堂の鰻飯をこの居酒屋で出してみるとしよう。どうじゃろうな?」
ここで、堀田氏が参戦。
「山藤さん、この店も鰻専門店ちゃいますやん。何だかんだで、日本食堂さんの鰻の蒲焼やうな重を出されても、それなりに客はつくでしょう」
「堀田先生の御見立て通りじゃないですか。確かにこの店の鰻のたれは絶品ですし、炭火焼だけあって、なかなか香ばしくてよろしい。日本食堂さんの鰻飯も私は頂いたことがありますが、同じ条件でやりあったら、そりゃあ、そちらさんのひいきになる方も少なからずいらっしゃいましょうな」
真鍋弁護士の弁に、山藤氏が返答する。
「真鍋先生のおっしゃる通りにはなるでしょう。ただどうです、あのサロンカーとやらで電子レンジで温めて出す鰻飯ですけど、なんかね、お客に来るまでの調理と提供される場所のあの雰囲気、悪くはないですけど、何かねぇ、私のような居酒屋好きの酒飲みにはちょっと、違和感はありましたよ。堀田君や石村さんに贅沢言うなと言っていた私が、一番贅沢なのかもしれませんけど(苦笑)」
「では、山藤君にお尋ねする。この居酒屋の雰囲気で、宇都宮さんのところのレシピ通りの鰻をこの炭火で焼いて蒲焼にして、この店でこうして飲みながら頂いたらどんなものでしょうかな。逆もありですぞ。この店で下ごしらえされた鰻飯を、あのサロンカーの電子レンジで温め直して提供していただいて、夕食がてらに昨日の山藤君みたいに一杯飲みながらやってみるとしますか。単に入れ違いで終わるかな?」
真鍋氏の質問に、山藤氏がビールを少し口にして回答する。
「こちらの鰻をあの食堂車で提供するとなりますと、やはり、味が壊れりゃせんですかな。宇都宮君のところのお店は、その調理法に合った味付をしておるはずです。その前提のないこの店の味付であちらで出せば、御客の好みが極端に分かれてちょっとややこしいことになりかねません。なんせ列車食堂ですから、あまり味で冒険はできませんでしょうから。そこは宇都宮君、どうかな?」
うなぎをつまんでビールを飲み切った宇都宮氏が、ビールのおかわりをまとめて頼みつつ、店員に何やら話している。
「今日は折角ですので、皆様にうちの鰻飯の鰻を蒲焼にして、こちらのお店で炭火で焼いていただいて、召し上がっていただければと思います。お題等は、一切心配ございません。その代わり、皆様の御感想を戴ければ幸いでございます」
宇都宮氏はこの店に来る前に、居酒屋の店長と何やら話をつけていたという。
「実は私も、日食さんからその点の御依頼を受けておりまして」
この話、国鉄官僚の川中氏にも伝わっている模様。
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