第22話 鰻を食べつつ、鰻を語る

 やがて、鰻のかば焼きがやって来た。

 5人前あるのだが、まずは3人前。

 気を利かせた宇都宮氏と川中氏が、年長者3人に回した。

 山藤氏は、それに加えてビールを頼んでいた。

 そのジョッキも、同時にやって来た。


「あと2人前、もう少しお待ちください」


 若い男性店員らは、そう言って厨房に戻っていった。


 蒲焼に山椒をかけ、山藤氏は一切れとってつまんだ。

 そして、口中のたれの残滓をさらにビールで流し込んだ。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 いやあ、やっぱり、炭火の蒲焼はよろしいですな。

 せっかくなら、こっちのほうがよろしいわ。


 とはいえ、昨日の電子レンジの鰻飯も、悪くはなかった。

 なんせ、下調理がきちんとされておったからね。

 それを、あの電子レンジで温めるだけで、あとはあらかじめ飯をよそった重箱にたれをしみ込ませつつ具材、まあ鰻の蒲焼じゃが、それを乗せて、あとは吸物とお好みの山椒を一緒にお客に提供すれば、ウエイトレスさんはお仕事完了じゃ。

 ビール片手に鰻をつまみながら、時に腹ごしらえの飯を食べる。

 締めのラーメンともいかんわけでしてな、ああいう場所は。

 ならば、この蒲焼のたれのかかった飯をゆっくり食べて、腹を満たせばいい。

 ビールが、よう進みました。

 あとは適当につまみを頼んで、もう1本。


 メニューのほうも見ましたが、前日の食堂車に比べて割に簡易な印象は否めませんでしたが、それでも、腹の膨れるものはありますし、酒もありましたから、私自身はそう貧相な感じは受けませんでした。

 車内の内装のあのカラフルさも含めて、なんだかね、ちょっと華やいだ気持ちで一杯やれましたから、悪くはなかったですよ。


 ついでに言えば、今朝も朝食をそのビュッフェでいただきました。

 まあ、いつもの洋朝食ですけど、カウンターの目の前の窓に向って景色を見ながらの食事と相成りまして、非常に風情があって良かったですよ。

 あまりの雰囲気の良さに、思わず、珈琲をお代わりしてしまいました。

 コーヒー自体が特別うまいとか、そういうわけじゃないですけどね。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 ひとしきりサロンカーと銘打たれたビュッフェの感想を述べた山藤氏は、再び蒲焼をつまんでビールを飲む。そこでまた、一言。


「でもやっぱり、この店の炭火蒲焼がよろしいわぁ~」


 蒲焼をつまみつつ酒を飲んでいるヤメ判の弁護士が、たまりかねて一言。

「確かにこの炭火蒲焼は美味いよ。だが山藤君、あんたも舌が肥えましたなぁ」

「山藤さんは、お若い頃から結構味にはうるさい方でしたよ」

 堀田氏の弁に、山藤氏が答える。

「まあそりゃあ、堀田君、陸軍士官学校時代はしっかりしたものを食べさせていただけたからなぁ。海軍さんはもっと良かったみたいじゃが(苦笑)」

「いつだったか、厚かましいことを言うなと私におっしゃいませんでしたっけ?」

 堀田氏が思わず尋ねる。

「陸軍で役得ありすぎた私が、ひもじい中大学で研究に打込んでおられた堀田君や石村さんに申し上げるのは確かに言い過ぎかもしれん。それは申し訳ないが、やっぱり何じゃ、うまいものは、うまいのう(苦笑)」


 程なくして、若い2名のもとにも蒲焼がやって来た。

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