ビュッフェと電子レンジ。そして、鰻飯談義!

第21話 サロンカーという名のビュッフェ

「ところで山藤さん、今日のお帰りは下りの瀬戸1号でしたよね。何でも、丸ごと1両ビュッフェのオシ16とやらに行かれたお話、ぜひお願いしますよ」

 ビールを飲みながら、堀田氏が話を振っていく。

「そうですか、あの「サロンカー」に行かれましたか。是非とも山藤さん、そちらの御感想もよろしくお願いします」

 今度は、食堂会社に勤める宇都宮氏からも要請が出る。

「堀田君はともかく、宇都宮君からも御要望が出るということは、やはり利用者の声を集めようってことですな。喜んで、お話します。そんな話をされたら、何か、鰻が食べたくなってきました。この店の炭火焼、美味いですからね」

 そう言いつつ、山藤氏はおかわりのビールとともに、鰻のかば焼きを頼んだ。

「そういえば、昨日の夜も鰻をいただきましたな。しかもうな重で」


「あれ、何か山藤さん、昨日の件で余程言いたいことでもおありなようですね」

「そうなのよ堀田君、ぜひお聞きねがいたい。いやあ、思うところあってなぁ」

「ということは、まさか今の注文、昨日の口直しなんてこと、ありませんよね」

「そこまでは言わないけど、そうかもしれんね。まあ皆さん、お聞きください」


「堀田先生がお尋ねの話の流れからすれば、山藤さんは昨日のサロンカーのうな重に思うところおありのようですね。確かに、宇都宮君はじめ食堂業者各位からそのような声もいくらか上がってきておりましてね」

「川中さん、それはまたどういうことでしょう。私なんかは陸軍の法務官と裁判官をやっておりましたからそれほど偉そうに語れる立場でもないですが、あの物資不足の時代を思えば、山藤君もお偉くなられたようですなぁ(苦笑)」

 最年長の真鍋弁護士が、いささか呆れるように述べつつ酒を口にする。

「電子レンジで調理された料理に関しての御意見は、おおむね、一定した傾向を示していますよ。少なくとも、食通と目されるような方に関しましては」

 宇都宮氏がさらに状況を説明し、改めて山藤氏に依頼した。

「ぜひ山藤さんの御意見、お聞かせ願えませんか?」


 鰻香(まんこう=鰻を焼いていて出る香り)が、店内に充満し始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 いやあ、この鰻を炭火で焼く香り、実に乙ですなぁ。

 やはり、鰻は炭火ですよ。焼肉も、七輪で焼く方がよろしいわな。

 今どきのガスで焼く焼肉が悪いとは言わんですが、炭火で焼く焼肉のほうが、何か食べ応えありますよ、私には。


 もちろん、列車内で七輪を用いて鰻を焼けなんて要求をされても川中さんの会社にしてみれば、あ、日本国有鉄道さんでしたね(苦笑)、火事を誘発どころか挑発するような真似は勘弁ってことになるのは、もちろんわかります。いくら死地に臨まねばならんことを前提の訓練を若い頃受けた私でも、そんなことで死にたくはないですからね(爆笑)。そうなれば、宇都宮君の会社さんも大変な目に合いますわな。


 それはともあれ、あの電子レンジというのですか、カウンターに座って調理されるのをビールを飲みながらずっと見ておりましてね、一言で申しあげて、文明の利器以外の何物でもありませんな。

 なんか、コックのアンチャンがチキンライス頼まれて袋を入れたらどうやら失敗してパサパサになったらしく、お客に言い訳しながら作り直しておる光景を見まして、あれはあれで、何だかな。

 幸い、私の方はそんなことはなく、すんなりと出て参りましたよ。

 さすがはいい鰻をお使いのようで、おいしくいただけました。

 ただ、ちょっと、思うところは、ないわけでもなかったものでして。

 酒飲みながら食べているのならそうクソ文句言うなといわれそうですけど、やっぱり言わせてほしいです。

 

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