第20話 再び、レンジのお話
ところで、石炭レンジというのは、どうなのでしょう。
確かに火種としての危険は高いものと思われますが、調理環境としては、走行電源と連動していない分、安定性があると言えませんか?
これは藤木君という知人の酒屋の方が言っておったことですが、何です、電気レンジは、客車の場合電源車が故障したら使用不能になるし、電車や気動車、特に気動車なんかは、霜降の妨げになりかねない状況下では、調理中でもいくつか止めるように言われたなんて話もあるそうですね。
山藤氏が、再度調理器具の話に戻してきた。
ビールをさらに飲んでいる川中氏が、その疑問に回答する。
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その点につきましては、私どもとしましても、痛しかゆしなところがございましてですね、今どき電車や気動車に石炭レンジを導入するわけにはいきませんし、かと申しまして、火力の弱い電気レンジというのは昔から問題視されておりました。
改良がなされたから今こうして利用されているわけですが、以前の旧型客車で電気レンジを導入しようとして、あまりに出力が弱くてこんなのでビフテキが焼けるかと食堂現場からの厳しい声もあって、やむなく元の石炭レンジに戻したという経緯も、20年以上前にありました。
さすがに20系以降は石炭でとは参りませんし、電気レンジもそれなりに改良されましたから、今はおおむねきちんと稼働しておりますが、先日山藤さんが乗られたというサロンカーですな、オシ16や、新幹線なんかの調理場には、電子レンジを導入いたしております。
まだ高価ではありますが、いずれは安価に製造できるように改良されて、各家庭にも入っていくようになるべく技術革新が進んでおるとお聞きしておりますけれど、こういう最新の設備は、何だかんだで客の声を確実に拾えるわが社の列車でモニター的に使わせていただくというパターン、結構ありますよ。
御覧になったことがおありかもしれませんが、新幹線のビュッフェもそうですが、ビジネス特急の時代のビュフェの器具類にいたしましても、電子レンジだけでなく、いろいろな調理関連の器具の最新のものが活用されております。
今やもう全廃されましたが、急行の寿司コーナーの寿司種冷蔵庫ですとか、トースター、珈琲サイフォン、他にもいろいろ、興味深いきぐがございます。
電子レンジってのは、その中でも最たるものですね。
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今度は、食堂会社の宇都宮氏の弁。
先程川中さんのおっしゃった石炭レンジですけど、業務用ですから、それなりの大きさがあるわけです。火に近いところと少し離れたところで、調理するものをうまく変えてしかも早く正確に料理を作るようにしております。
その点をご覧いただけば、何だかんだで、まだまだ職人技が必要な仕事です。調理がそうなら、そのレンジの火をいかに作り出し、保つかというのも、ある意味ちょっとしたコツとか、そういうものがございます。
今ここで仕事をしている者にとっては、その場をきちんとこなしていかないといけないわけでして、どうしてもそういう職人技といいますか、仕事のちょっとしたコツの積み重ねですけど、それで対応していかざるを得ません。
しかし、今どきの電子レンジにしましても、いずれは各家庭に入っていくと思われますが、その頃には、私どもが今お客様方にお見せするしないに拘らず日々やっている職人技のようなものは、極限までなくされていることでしょうね。
それが実現したときがいい時代になったと言えるのかどうかは、また別ですが。
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