どこの時代とも記されない。固有名詞は語られず、ただ戦争の一場面であることだけはわかる、簡潔な文。だから、きっとこれは歴史のそこかしこにあった、いや、今もそこにある話なのだ。だが、体験とは一個人のものだ。その者だけの仲間がおり、敵があり、家族がある。殺した者、殺された者がある。振り続けた旗は、そんな、たしかに存在したひとりの人間の足掻きのように感じた。または、そこに生きている、生きていた、という証。
この作品を何と言おう。何と形容しよう。この作品を読んで思うことは、きっと千差万別で、受け取る人間によって受け止め方も変わるのだろう。きっとそのどれもが正しくて、そのどれもが大切な答えだろう。長々と紹介するよりもこう書きたい。あなたはこれを読んで、何を感じますか。どう思いますか。その解釈をそっと胸に抱いて本を閉じる。そんな読後感であるのだ。ぜひご一読ください。