Blue

ゆみか

第1話

日暮れていく今宿の砂浜。引き潮の波音がやさしい。流行りのくるぶし近くまであるロングスカートの裾を初夏の風が煽っている。

弾かれたビー玉のように勢いよく波打ち際まで

とっとっとっと歩き、くるりと振り返った。


「ねえ、私の事好き?」

オミは一瞬戸惑ったような面食らったような顔をしたが、すぐに白い歯を見せて人懐こいいつもの笑顔を見せた。

「いきなりやね。酔っ払っとうね。」

「酔っとうかも知れんけど、聞きたい。ねえ、私の事好き??」


沈んで行く夕陽はひときわ大きくて、水平線の青と夕陽のオレンジが溶け合うグラデーションが美しい。もともと過緊張な質の私は、思い切って口走ったみずからの言葉に興奮し、手も足も小刻みに震えていた。


「酔っ払っとう優美香は好かん。」

「そうじゃなくて!‥ね、お願い。答えて。」

オミは笑顔を崩さず冷静な体で見つめて来て首を横に振った。カッと頬が熱くなり足の震えが一層激しくなった。


「戻るよ。」

「お願い。答えて。私のこと‥好き??」

恥ずかしさで泣き出しそうなのを堪えて、言葉を繋いだ。

オミの瞳の色が変わり私が好きなクシャッとした笑顔が消えた。


次の瞬間目の前がオミの白いシャツでいっぱいになり、腕の力にたじろいで、二、三歩後ずさった。

オミの胸板は見た目よりかは厚く広やかだった。

展開に追いつけず事態が飲み込めず、溜息のようにえっ、とつぶやくので精一杯だった。


「泣かんどって。オレ他に好きな子おったけど、

比べられん。けど優美香が泣くのはいかん。

泣かんどって。」

「‥っ、他に好きな子おってもいいよ‥!

私‥、オミが好きだよ!」


会話が途切れた。

いつの間にか体の震えは止まっている。

砂浜沿いの道路から聞こえて来る車の音も、

足元近く打ち寄せる波の音も、現実ではないように

遠く仄淡く靄がかかっている。

オミは体を離して私の手を引き、家に帰ろう、と促した。















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Blue ゆみか @yumi5544

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