ゾンビと男

高黄森哉

その日


「ゾンビだ、死ね」


 男は銃をゾンビに向け発射し、ゾンビのお腹には大穴が開いた。ゾンビは目に涙をためながら抗議する。


「ど、どうして、ただゾンビというだけで銃で撃たれなければならないのですか」

「噛むつもりだったんだろ」

「現に噛んでいないじゃないですか」


 ゾンビはおいおいと泣き始めた。

 巡回中の警察が、バイクを停める。


「おい、君、今、人を撃ったね。一緒に来なさい」

「お巡りさん、でも」

「でももなももない。君は、人を撃ったんだ」

「こいつはゾンビですよ」


 どこからともなく、女子大生が現れた。


「それはつまり、病気の人には人権がないということですか。それは、ライ病やエイズなどへの差別と同じですよ」


 男はハッとした。ゾンビは病気の人なのだ。ゾンビを殺すことは、人殺しなんだ。どうして、そんなことに、今まで気が付かなかったんだろう。


「ゲームのやりすぎで、ゾンビが人だと思えなかった。ゾンビは発生しだい、殺していいものばかりだと思っていた」

「ゲームのせいにするのですか」


 傍を通りかかった、少年が真っすぐな瞳を男に向けた。


「僕はゾンビを倒すようなゲームを毎日していますが、この通り、ゾンビを殺したりしていません。倫理に反するからです。ゲームをしていても、正常に物を考える人は沢山います。僕達、ゲームをする人に迷惑をかけないでください」


 裁判の証言台で男は縮こまった。

 裁判官は告知する。


「被告人は、死体損壊で懲役三年」


 

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ゾンビと男 高黄森哉 @kamikawa2001

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