オマケ るかと佳奈



「やっほ~、佳奈ちゃん。元気してた?」


「まぁまぁです。るかさんはいつも元気そうでいいですね」



 るかがご機嫌に手を振っても、佳奈はどうにもそっけなかった。


 待ち合わせ場所に選ばれたのは、以前五人でやってきたショッピングモール。


 その入り口前で、るかは随分前から待っていた。


 久々に佳奈に会えると思って、そわそわしすぎて早く来ちゃったのだ。



 ふたりして自動ドアをくぐると、店内BGMとともにお客さんの声が聞こえてくる。


 るかは周りを見回しながら、口を開いた。



「それにしても、佳奈ちゃんも律儀だねえ。贈り物がしたい、だなんて。本人たちはともかく、第三者から贈るのはあんまりなくない?」


「小山内さんには、いろいろ迷惑を掛けましたし。彩花をよろしく、という意味合いもあります。末永く続いてもらわないと、こっちも困るんですよ」



 彩花と理久が恋人同士になった、という話は本人たちから聞いている。


 すると、佳奈は「恋人同士になった記念に、ふたりに贈り物をしたい」とるかに相談したのだ。


 そこまでする必要はあるか? とるかは思ったが、いっしょに出掛けるチャンスをふいにするほどではない。


 ただ、その言葉を聞いて、納得するものはあった。



「まぁこれで別れちゃったら、最悪だもんね。それこそ理久が家を出ないといけなくなる」


「小山内さんが出てくれればいいですけどね。喧嘩別れした挙句、どっちが出ていくか揉めだしたら最悪ですよ」



 最低な結末を予測してんな、とるかは笑う。


 まぁそれは冗談にしたって、破局を避けてほしいのは全員の願いだろう。


 結果的に、理久と彩花の恋路を邪魔しまくったことになった佳奈が、詫びの品でも送りたい、と思うのもわからないでもなかった。


 そして、これを機に聞いてみたいことがひとつある。



「佳奈ちゃん。彩花ちゃんは理久とくっついちゃったけど、佳奈ちゃんとしてはどうなの? 理久でよかった?」



 その問いに、佳奈はしばらく沈黙する。


 そして、小さく首を振った。



「……まぁ。小山内さんは、彩花を立ち直らせてくれた人だから。大事にしてくれそうっていう意味では、後藤くん以上なんじゃないですか。結果的に上手くいっただけで、危ういとは思ってましたけど。最終的にはみんなが幸せになる形でよかったんじゃないですか。後藤くんには悪いけど」


「そっかそっか」



 るかは笑う。


 佳奈から見ても安心できるのなら、今後も見守ってくれそうだ。


 以前のような暴走もない。


 そう考えていると、佳奈は悪い笑みを浮かべた。



「あとは、まぁ。高校に入って案の定、彩花は声掛けられまくってますけど。『ごめんなさい、彼氏いるから』の一言で全員撃沈していくのが最高ですね。どうにもしつこい人は中学にもいましたから。残念そうでもすぐに諦めるので、弾除けとしてありがたい存在ですよ」


「悪い顔してんなぁ……。でも、中には性質悪い奴もいるじゃないの? 彩花ちゃんくらいいい子だったら、諦め悪そうな人も出そうだけど」


「いますね。でも、彼氏ってどんな奴? って聞かれると、彩花はすごく穏やかな顔で『とてもやさしくて、すごく信頼できる人』って答えますから。あの顔見せられたら、どうにもならない、って悟りますよ」



 そう言って、佳奈は肩を竦める。


 それを想像して、るかも笑いを噛み殺す。


 その言葉は恋人相手ではなく、兄に対しての言葉なんだろうけど、そんなものは相手にはわからない。


 彩花が臆面もなくそう答えられて、その表情を見れば、いかに太刀打ちできないかは伝わるだろう。


 


 佳奈は静かに息を吐く。


 今までと打って変わって理久を褒めていたが、まるで帳尻を合わせるように佳奈は不安を口にした。



「まぁ。心配ではあるけど。ひとつ屋根の下で暮らす相手が、恋人になったんだから。小山内さんが変なことを迫ってないか、それだけが心配です」


「それは杞憂でしょ。理久がそんな下衆な奴だったら、とっくの昔に彩花ちゃんは傷つけられてるよ」


「恋人同士なら話は別でしょう。求めてないのに無理やり、断れなくて仕方なく、なんてよくあることです。いつだって彩花が目の前にいるんですから。つい手を出したくなっても、おかしくないですよ。だからわたしは、護身術を教えたわけで」



 佳奈は手振りで、手首を捻る動作を見せる。


 それはさすがに、理久を低く見積もりすぎだろう。



「佳奈ちゃんはわかってないなぁ。あれだけ彩花ちゃんのことを大事に思ってる理久が、彩花ちゃんの望まないことをするわけないじゃん」



 そこは絶対の信頼がある。


 断言してもいい。


 彩花が大事で大事で、可愛くてしょうがないのだ、理久は。


 しかしそれは、佳奈もわかっているらしい。



「……まぁ。それはそうかもしれません」



 そんなふうに呟く。


 負けを認めたかのように、それ以上は何も言わなかった。


 すると、目の前を女子ふたりが横切っていく。


 中学生くらいの女の子ふたりが、仲良さそうに手を繋いで歩いていた。


 きっと彼女たちはそういう関係ではないだろうが、羨ましい、とるかは思う。



 彩花と理久が上手くいって、力いっぱいの祝福を送ったけれど。


 同時に、「いいなぁ」という羨望があったのは、事実だった。


 それがるかのブレーキを緩ませたのかもしれない。


 手を繋いだ子たちを見ながら、佳奈に問いかける。



「ねぇ、佳奈ちゃん。手、繋がない?」


「は? なにそれ。るかさん、そういうタイプだったの? あんまりベタベタする感じには見えなかったけど」



 佳奈は鼻で笑う。


 まぁ彩花も佳奈もるかも、あまり女子同士でベタベタするタイプではない。


 腕を組んだり、手を繋いだり、という女子もいるはいるけれど。


 やっぱり柄じゃないか、とるかは内心で落ち込む。


 けれど、スッと手を引かれた。


 えっ、と声が漏れそうになるのを堪えて、佳奈を見る。



「まぁ、いいけど。でも知り合いがいたら手を離しますよ」



 そう言いながら、佳奈はるかの手を握ってくれた。


 その感触と佳奈の歩み寄りに、痺れるような刺激が走る。


 想いが破裂しそうで、どうにか堪えて。


 それでも嬉しくて嬉しくて、思わずぎゅうっと握り返したくなるのを、必死で我慢した。



「いたっ」



 気を付けたつもりなのに、佳奈は顔を顰める。


 ご、ごめん、と慌てて謝ると、佳奈はため息を吐く。



「るかさん、爪長いんだから。気を付けてください」



 どうやら、爪が刺さっただけで握った力が強かったわけじゃないらしい。


 ほっと息を吐いて。


 それでも繋がったままの手に、これ以上ないほどの幸せを感じていた。






――――――――――――――――――――――――


 あとがき


 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

 最後まで書くことができて、とても楽しかったです!

 ありがとうございました!

 皆さんの感想を読ませて頂けたのも、とても糧になりました!


 もしよろしければ、評価を頂けると次の頑張りにも繋がりますので、よろしくお願いします……!!


 それでは、また次のお話で!


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