第51話 天の子たち

 公立中学、天音中学校の中庭にあるウサギ小屋の中から楽しげな鼻歌が聞こえてくる。


「ウサギさんたち、今日も元気だねぇ」


 ウサギ小屋の中にいるのは羽衣だ。ウサギの頭を撫でながら、鼻歌を歌う。その時、中庭の外から女子生徒たちの黄色い悲鳴が聞こえて来た。羽衣が「うん?」とウサギを抱いたまま立ち上がる。


「やっほー! 羽衣!」


「わあ!」


 唐突に目の前に現れた輝星に、羽衣が思わず声を上げ、抱いていたウサギが羽衣の腕をすり抜けて地面に降りた。


「もう! 輝星ちゃん! 驚かせないでよ!」


「ごめん、ごめん! そろそろお昼ご飯にしようヨ!」


「うん!」


 羽衣がウサギ小屋から出て行く。いつものベンチに輝星に手を引かれて走って行くと、すでに恵慈と愛歌がベンチに座り、待っていた。


「羽衣さん。ご飯の前に手を拭きましょうね」


「うん!」


「綺心はまだ? お弁当係が来ないとランチできないじゃない」


「そろそろ来るヨ」


 恵慈が布巾で羽衣の手を拭き始める。輝星が愛歌の隣に座り、愛歌がヤレヤレと肩をすくめた。


「お待たせ」


 綺心がやって来た。その後ろに隠れるように、鮮巳が歩いて来る。その姿を見た羽衣が目を輝かせた。


「鮮巳ちゃん!」


「中庭の前でウロウロしてたから連れて来たよ」


「あなたの取り巻きが邪魔で入れなかっただけだよ……」


「鮮巳ちゃんも一緒に食べよう! 綺心ちゃんのお弁当、美味しいんだよ!」


 羽衣が鮮巳の手を引く。中庭で六人の楽しげな声が響いた。


    ◇

 

 はるか上空に存在する天界。天の頂上、神が君臨するその場所で、下界で和気あいあいとしている六人を楽しそうに見つめているのはメタトロンだ。


「メタトロン」


 そこに一人の天使が現れた。六対十二枚の翼を持つ美しいその天使は、黒く長い髪を持つ、天使長ルシファーだ。


「また仕事をサボっているのか」


「うええ……ルシファー、ちょっとぐらい休憩してもいいでしょう?」


「おまえの妹におまえのことを頼まれてしまったのでな。それに、堕天使まで救ってくれたお前には感謝している」


「感謝しているなら、もうちょっと優しくしてよ」


「天がドタバタしているのはわかっているだろう。ガブリエルとラファエルが過労死するぞ」


「天使は死なないよ」


 ふと、ルシファーがメタトロンの目線の先にいる六人を見た。


「人間になりたいなんて、アリエルは本当に突拍子もないことを言うよね」


「人間でいた期間が長かったからだろう。おまえはいいのか? ハニエルとサンダルフォンを人間にしてしまって。天使の頃の記憶を残してはいないのだろう」


「そうでもしないとあの二人、私のもとを離れたがらないんだもの。もう自由なんだか、自分の大切な人と一緒にいたっていいでしょう? 友達は大事だよ」


「そうだな」


「あなたは良かったの? ルシファー」


「あいにく、人間に興味がない」


「楽しそうだよ」


「メタトロン様~」


 レオ、グレイシス、ルック、マーシー、ツゥインが現れた。レオが一目散にメタトロンの前にやって来る。


「うちの天使は元気そうですか?」


「御覧の通り、幸せそうだよ。そんなに心配しなくても、待ってたら戻って来てくれるよ。人間になったとはいえ、もとは天使だからね」


 メタトロンがレオの頭を撫でた。レオが嬉しそうにメタトロンの手に頬をすり寄せる。


 下界から、少女たちの楽しそうな声が聞こえて来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エンジェリックガールズ 柚里カオリ @yuzusatokaori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ