第9話 転生

 暴走状態となったマホルは、その凄まじい叫び声だけで、空を飛ぶドラゴンたちを蹴散けちらした。マホルが口から放つ閃光せんこうは、炎よりもはるかに熱く、石造りの建物を一瞬で灰にした。騎士団も町の人々も、マホルの恐ろしさをの当たりにして、逃げ惑うしかなかった。


「どうしよう……これは、俺のせいだ……」


 カイトは後悔に暮れていたが、もうすべてが遅かった。

 

「ごめんね、マホル。本当は嫌いなんかじゃないよ。ただ、いっしょにいてほしかったんだ。俺を理解してほしかった。俺はマホルが必要だった。でも……全部、自分のことばかりだ……」


 カイトの言葉はマホルには届かない。涙も熱気でかわいていく。

 

 そしてすべてがまぶしい光と熱に包まれた。体がけて消えていく……




 次の瞬間、カイトは病院のベッドの上で目を覚ました。



 そこはカイトが元いた世界……中学生、森村海斗かいとのいた世界だ。


 ある雨の日、交通事故で車にひかれて宙を舞った海斗だったが、幸い、ぬかるんだ土の上に落ちたことで助かった。


 ベッドの脇のテーブルに千羽鶴せんばづるが置かれている。

 

 それは、クラスメイトたちが海斗の回復を祈って作ったものだった。


 そのことを後から知った海斗は、なんとも言えない気持ちになった。


(自分からは何も関わらないようにしていたクラスメイトたちだったのに……)


 もしかしたら、自分がもっと相手を理解しようとしていれば、優しい気持ちで接していたら、何かがちがったのかもしれない。


 そんなことを思うのは、マホルとの日々があるからだ。


 海斗はマホル使いとしての日々がただの夢ではないことを知っている。

 自分は確かにマホルの暴走により、王国と共に滅びたのだ。

 そしてまたこの世界に転生した。


 今はもうどちらが自分の世界なのかもわからない。

 それでも自分がするべきことは同じだと海斗は思った。


 マホルと過ごしたあの日々が、海斗の心を変えていた。


 体が回復したら、クラスメイト全員にお礼を言おう。

 もっと相手を理解しようとしてみよう。自分のことも伝えてみよう。

 そうすればきっとこの世界でも、何かが変わるかもしれない。


 海斗は、この世界でもマホル使い見習いとして必要なことを学んでいこうと思った。


 そしてまた、あの異世界に戻るのだ。


 もう一度、マホルと会って、今度こそ、マホル使いになるために。


 見習いマホル使い森村海斗の新たな日々が始まった。

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マホル使い 銀波蒼 @ginnamisou

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