第4話 収穫祭の準備 ー誤解ー

 「?!!」


 声には出さなかったが、私は心のなかで心底ビックリして、つい駆け足を止めてしまった。

 

 急いでいるときに何でこんなことに気づいて知ったのか。生半可な自分の勘の良さに、少し嫌気が差した。

 しかし、コイツのストーカーまがいなことはいい加減何とかせねば、と言う気持ちがそんな嫌気をどこかへ吹き飛ばし、心が奮い立っていくのを感じた。

 


 「バース! 言いたいことがあるならはっきり言って!」



 私がハッキリとした口調でそう言うと、バースは肩を跳ね上げ、こちらに向かってオドオドとした足取りで向かってきた。


 私は腕を組み、相手を威圧する態度で正面からバースが歩み寄ってるくるのを待った。この際、ハッキリ言ってやろう。

 バースが私を想っても、私は絶対に嫌だと。



 「ご、ごめん。べ、べべ別に何かを言いたいというわけじゃなくてーー」



 目の前に来たバースは顔をうつむき、長い前髪に隠れた目でチラチラと私の顔を見ながら、しどろもどろにそう答えた。

 

 私はその言い分に全く理解することができなかった。話したいことがないなら、関わらないでほしい。



 「何も言うことないなら、毎日チラチラ私のことを見てくるの止めてくれない? 私にその気があるんだとしたら、とても光栄だけど私は違ーー」


 「いや、君に恋してるとかそんなことは全く無いんだけど」



 さっきまで下を向いてたバースが顔を上げ、私のことを面と見ながら、食い気味にハッキリそう答えた。


 ーーなんだ? こいつ。


 私は恥ずかしさとは違う、悔しさに似た感情で身を震わせた。

 これでは、私が告白してもないやつから全力で振られたということではないか。私は腹から力を込めて、投げやりにバースに言葉をぶつけた!



 「……はぁ? なんで私が、今ここで、あんたに振られなきゃいけないの?! アンタみたいなやつ、こっちからお断りーー」


 「おーい! バースのやつがフィアにお相手を申し込んどるぞー! ついにやったぞー!」


 「?!?!」



 私の反撃の言葉を、大きく響く野太い声が遮った。そしてとんでもなく恐ろしいことを喜びに溢れた声で言っているのは、私の家のご近所さんであるカトリおじちゃんだった。



 「カトリ、本当か! おーいみんな、ついにバー坊がやったぞ! 早くバカンとアンポンを呼んでこい!」


 「おお! アイツがやっとお相手を申し込んだか! ったく、心配させやがって」


 「じいさんや、あの引っ込み思案の子がついに……。あたしゃ泣きそうですよ」


 「ばあさんや……上を向くんじゃ。この涙は一番の晴れ舞台まで枯らさんでおこうや、な?」



 とんでもない事が、とんでもないスピードで村中を駆け巡っている。そこそこ大きな村なのに、なんでこんな時に限って噂が流行るスピードが早いのか……。


 私の住んでるこの村はある意味、今日死んだも同然になってしまった。


 私は大急ぎで、まだ叫んでいるカトリおじちゃんのところまで駆け寄った。



 「カトリおじちゃん! 違うの! これはーー」


 「分かってる。分かっておるよ、フィア」



 明日死んでも構わないような満面の笑みと、鼻水を垂らしながら、カトリおじちゃんは私の両肩に手を乗せた。



 「さっきの様子を見るに、バースの申込みに多少の行き違いがあったかもしれん。しかしなフィア、もっとも大事にせんといけない事はな……『愛』じゃよ、愛」


 村も死んだが、おじちゃんの頭も最早死んでいるようだ。


 そんなカトリおじちゃんの様子を見て、取り返しのつかないところまで来たと絶望を感じている私だったが、ふと一筋の閃きが舞い降りた。 


 ーーバースだ。


 バースが全ての真実を言えば、私はストーカーされた挙げ句に勝手に振られてしまった可哀想な子だとして、たち直せる!


 そう思い振り返るとバースがい……いない?!


 バースは気配なく、すでにどこかへと逃げていたのだ。アイツ……どこまで度胸がないんだと、私は心の中でつくづく呆れ果ててしまった。


ーーアイツをニワトリみたいに締め上げる。


 カトリおじちゃんに愛の説法を受けながら、心のなかで固く決心した私であった。


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