自分ではとても作れない手の込んだ美味しい料理を食べた時、私は言葉を失います。
この作品はまさにそれです。
味覚ではなく視覚から感動を咀嚼できます。
作中に登場する多くの人物。けれど誰一人として薄味なキャラクターは居ません。
辛く苦しく時に優しく、重い枷のような過去を背負いながら今を懸命にもがき光を見出す。
まるで主人公のような食べ応え。
そう、この物語に登場する人物達は、一人一人がメインディッシュとなれる逸品。
そんな彼らを長い時間と手間、そして愛情をかけて調理し極上のスープに仕上げたこの作品こそ、究極のメニュー!
スプーンを持った手が止まらないように、ページを送る指が止まらないこと請け合いです!
是非ご堪能あれ!
祝福に包まれた前作のラストから、ほんの少し時が流れ、年も明け、各々の新しい生活が始まっています。
それは奇縁ではなく、運命の導きでした。巡り逢った若き男女は、周囲の親友親類を巻き込んで、巻き込まれて、約十年の歳月を越えて、契ります。
翼も心も粉々に砕けた時期もあった。しかし、二度と治らない翼も、癒やされず回復しない弱い心もなかった。困難と不運を乗り越えて、ここに居ます。心優しく、少しお節介な親友も変わらぬ笑顔と素顔を見せてくれます。
旧知の読者にとっては、懐かしい面々との再会です。和やかな同窓会のよう。ただし、時に同窓会は波瀾の始まりになることもあります。悲しい報せを耳にして嘆くこともありましょう。
人生という模様は決して鮮やかな、好みの色だけで描かれてることはないのです。悲喜交々、禍福も交々。深山の向こうに草原が広がり、その果てに深い谷があります。
大河は流れ流れて、景観をどう変え、また、どんな風景を見せてくれるのでしょうか?
さあ、幕が開けました。絶え間ないアンコールの拍手を受けた新たなステージの開幕です。身を乗り出して観劇しましょう。そして皆さん一緒に、作者が奏でる至高のドラマツルギーに酔い痴れましょう。
【付録:ビギナーズガイド】
『あの娘が見上げる理由』は連作の大河小説です。単体で楽しむことも可能と存じますが、初見の読者は第一作から読み進めることで、より味わい深く、登場人物の心象風景を追体験することが出来ます。
①『あの娘が空を見上げる理由ー憧憬ー』https://kakuyomu.jp/works/16816700427307638781
②『あの娘が空を見上げる理由ー結ー』https://kakuyomu.jp/works/16816700429551266387
③『あの娘が空を見上げる理由―赦し―』https://kakuyomu.jp/works/16817139556035399931
それぞれ長編で、話数も多いですが、読者が貴重な時間を失うことはありません。人生が実り豊かになる、と私はここで言い切ります。