流るるは天より、滝となりて
路地の路地と言うのが似合うほどの暗い道へと辿り着いた。
直後、涙で視界が曇る。勢いよく喉元へ異物が昇る。出したものを見ないためなのか、苦しいからなのか。
胃を締め付けられる感覚。
喉を巡る不可思議な快。
しかし難しいことは無い。身を任せ、目を瞑り、心を無にし
欲に従う。
「うぷっ…おぅぇ…」
濁流は私の中から勢いよく溢れ出る。
始めに喉元から口の中に流れる半端な未消化物の存在。次点、喉元が焼けるような感覚。酸味、苦味、甘味。全てが不完全な混ざり合い。それはまるで深い檸檬の様。
二波、鼻孔を通り去る。
「げぼっげほっ…けぽっ」
咳が起因となり、再びの放。
○
しばし経ち、胃の痙攣が落ち着いてきたのを感じる。
気分も大分優れて来たので目をゆっくり開き今回の惨状を見てやろうと
口元を抑えていた手はもちろんローブの袖にも黄色の染みが付いている。色鮮やかな粒の装飾も行われている。
口周りは乙女的に終わってる。
鼻が詰まってしまっているので口呼吸を行う。嫌な味がする。
やっちゃったなぁ…。またセキに怒られるなぁ…。
せめてスカートとか靴とか汚れてませんようにって無意味なお祈りをし、下に目をやる。
その光景に「…あ…れぇ?」と枯れた声がこぼれる。
奇跡的に脚元は綺麗である。地面には濁ったカラフルな水溜まりでもできているかと思ったが。
しかし目の前には想像したようなものでは無かった。
糸を引き、音を立て、地面へと滑り落ちる。箱ならまぁまぁよかったが、人の形に見えるもの。
そこに一人、羽衣を纏った少女。泥が捌け、目が合う時間は正定の一時。やりようの無い感情がはらりと舞い落ち。
キレイな淡紅の髪から落ちるそれは私の惨めさを強調する。透き通るような肌は怪しい照りに侵され、キレイな服は袖口同様黄色の侵食。
「あ、あの…」
「…ごめ…」
喉の痛みで上手く声が出せない。
それでも無理矢理声を出そうと喉に力を込める
「ご、ごっ…ふ…」
抑えきれない突発の衝動。駆け昇る熱いもの。再び顔面から行った。
もう殴られても蹴られても不問が正。
彼女は「大丈夫…ですか?」とひとつ。続けて「ありがとう…ございます。」と残す。
予想外の返答にたじろぐ私の視界の端に見覚えのある馬車が見える。今の私にできる最善の策はただ1つ。
謝罪と清掃。
「本当にごめんなさい!今からうちの薬師呼ぶから…。任せて、大丈夫だから…!」
「私は大丈夫です。大丈夫です。」と言う彼女を置いて私は馬車に向かって走る。そして入口から中にいる薬師に簡潔に説明する。
「セキ!すぐそこでやらかした!後よろしく!」
それだけ伝えてまた走り馬車を離れる。後はセキに任せて私は私に出来ることを
錬金術師曰く、軌跡は深い檸檬の様 キャロ @Cacloro
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