邂逅、灰色は彩づき。

邂逅、切っ掛けは開口

眠気を誘うような馬車に揺られ、開けられた窓から気持ちの良い風が入り込んでくる。


目下には一面の深緑が拡がっており、時間の経過とともにその姿がはっきりと見えてくる。


ここは錬金先進国シャルトリア

その西側に拡がる広大な森。


『植生の錬金術師』フラーナの庭とも噂される場所。


そんな大自然の中心に存在する不自然な灰色の街、灰楼都市グレイスケィル


それはまるでオアシスのようで

また、深緑のキャンバスの中心に載せた灰色の油絵の具のようで


……………………………



周りにある建物の9割9分は灰色の人工石。そんな街の大通りと大通りの間、迷路のような路地を奥へ奥へと進んだ先。

そこにぽつんと不自然に建てられた、木製のドアを引く。

まるで周りの森への入口のような感覚、木の小気味良い音が歓迎するように静かに鳴る。


「お!いらっしゃいませ!植生の錬金術師、フラーナさんのお店へ!!何ご入用ッスかぁ?」

店舗に入るや否や机の奥からひょっこり生えてきたキノコ。そしてそんなに話しかけられる。


「あら、最近のキノコは喋るのね。キノコさん、店員さん呼んでもらえる?」


キノコが上に上がったと思うとキノコヘアーの人間がにっこりした顔で出てきた。


「いやぁ、このやり取りも半年振りッスねぇ、リヴィさん!」


「無事にフラーナさんのお店の店員さんになれたんだね。おめでとう、マーシャム」


「えへぇ…。ありがとうございますリヴィさん。リヴィさんこそ、色々巡りながら錬金術師、できてるんスね。同じ学校出た仲ですもんねぇ…。なんか嬉しいっス」


世界中を巡る錬金術師、そんな私の夢。

キノコ大好きな彼女、薬師マーシャムのキノコ知識を1番活かせる植生の錬金術師の店舗。夢が叶うことは平和の証の1つだと思う。


「さ て と。感動の再会は終わりッス。さぁさぁ薬から錬金物、そして変なキノコまでなんでも取り揃えてまっスよぉ!どうぞどうぞ買っててください!」


彼女は机の上にどんどん薬やら錬金物を置き、買って欲しそうな目でチラリとこちらを見てくる。


しかし私は静かに首を横に振り、頼んだものを出すように催促する。


「つれないっスねぇ。せっかく卒業してから会うの初めてだってのに…」

おいおいと涙を流すふりをしながらこちらをちらちらと覗いている。


「はいはい、『どんなに深い縁でも、必要ないものは買わない。』これ、錬金術師わたしの心得だからね。覚えておいて」


私は右腕で机の上にあるいらないものを端に寄せ、トントンと机を指で叩き催促を重ねる。


ちぇー、と音程の無い台詞を吐きながら店員は奥のドアへ向かう。


この店舗は外と違い自然のもので構成されている。御伽噺に出てくるような森のお店、おしゃべりのできる動物さんが店員さんだよ、と言われても信じてしまう程には。

しかし商品が棚の大きさに対して少なすぎる気もする。


森に入るための服も置いてある。その横には全身鏡。採取をするのに見た目を気にする必要があるのかどうか、とは思うが鏡に映る自分も大概である。

中に着ている白のブラウス、ダークブルーのスカートはごくごく一般的なもの。

ローブはこの街とは比べ物にならないほどキレイなモスグリーン。裾から袖にかけて白くなるグラデーションは暗闇から覗く光を表現してる。って師匠が言ってた。

内側の薄緑もとても気に入ってる。

すらっと伸びた白金の髪と紺碧食の目は見るものの目を引く美しさ。そんじょそこらの宝石に負けず劣らずの輝き。

総合すると超絶美人なのである。見飽きることの無い素晴らき完成度。


そんな感じでしばらく店舗(だいたい鏡)を見回していると、奥から店員が大きい箱を両手で持ってきた。


「よいしょっと、じゃあこれ『粉落とし粉』。私のかわいいキノコのおかげで作られたかっわいい錬金物ッスよ!是非!かわいがってあげてください!」


曰く、他のキノコの繁殖を自身の胞子を胞子に絡めて止めてしまうキノコの性質から粉状のものを集める事のできる錬金物。


世の中変なものがいっぱいあるのね。


「ありがと、いくら?」


「この量だと…。うん、12600Sシルベルッスかね。それにしてもまたなんでこんな変なもん買うんスか?しかもこんなに」


「まぁ、色々とやらかしてね。部屋が真っ白になってさ。」


机の上に銀の硬貨を12枚、銅の硬貨を6枚置く。錬金術に失敗はよくあるからね。

幾らお金を貯めているとは言え、痛い出費なのは間違いない。


「あえー…。あのリヴィさんも失敗するんスねぇ…。あ、ちょうどいただきまッス」


そういえばー、と硬貨を仕舞いながら何かを思い出す彼女。

ひょいひょいと手招きされお店の奥のドアへ入る。小さめの倉庫のような場所ではあるが、ここにも在庫になっているものが点々と置いてある。

しかしそれは一般的に流通しているな薬が入っている箱である。


「ねぇ、マーシャム。フラーナさんの錬金物って…」


そう言いかけるが彼女が先に声を出す。

「リヴィさん。あれ見てください。」


お店の裏口の窓から、彼女と同じ方向に視線を向けると店から出てすぐに広大な森が広がっている。この店舗がが街の1番奥にあることに気が付く。本当に森への入口のよう。


そして正面には大樹、と言うには収まりきらない程大きな樹が1本生えていた。

頂上を見るには首が痛くなるほどに


「こっから見えるのってフラーナさんの庭なんスけど、こないだまであんなデカい樹生えてなかったんスよ!それにフラーナさんとも連絡取れないしぃ…」


「あら、それは困ったわね。で、それは依頼かな?だったら正当な手順を…」


「大丈夫ッス!王都の方には既に依頼出してあるんで、良かったらお願いしまっスよ!」



重たい箱を持ち上げて、私はお店の外へと向かう。ありがとう、と伝えようとすると店員が呼び止める。


「んあ、そういや来てるの見てましたけど、右側の道抜けるより向こうの、あそこの路地入る方がが大通り近いっスよ」

店員は遠くの方を指さす。


「そ、ありがと」


私は左腕に装着しているタイプライタを叩き

馬車で待機しているうちの薬師に集合場所の変更の連絡をする。


「お、イイもん持ってるじゃないスか。携帯型のタイプライター…。いいなぁ…。」


曰く、叩いた文字が紙に写されて対のタイプライタから出てくる錬金物。

王都みたいに大きなところで使っているものは宝石の組み合わせで様々なところに送ることが出来る。

鳥さんよりも早く、紙もインクもいらないなんて素晴らしいね。結果がこちらから見えないのが難点だけど。


「そう?使う事ないでしょ?」


「それもそッスね」


放課後の別れ際のようなくだらない話をして私達はそれぞれの役割仕事に戻った。



「さてと、困った事になったわね…」


マーシャムのお店を出てしばし、迷路のような路地では無かったことに気が付く。


完全に迷路だわこれ…


連絡を取ろうにも私のタイプライタは一方通行。


時間帯も分からないし、どこから来たのかも分からない。


迷っているうちに困ったことはもうひとつ増える。




喉元から昇ってくる焼けるような感覚。



袋はー、今無いんだっけ。

まずいな…。外では良くない。


カウントダウンはもう既にそこまで来ている。


荷物を投げ捨て、

手で口を塞ぎ、

より暗い方へと、

小路へと走る。


溢れてくるものを塞き止める、

汚れてしまった手を退かし、


私は、

全てを解放すべく、


口を開いた。

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